熊が人を襲うとき

著者 :
  • つり人社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864470988

感想・レビュー・書評

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  • 吉村昭の『羆嵐』から、熊についてもう少し知りたくなって読んだ。
    著者はクマを追って46年、その間、襲われること8回、威嚇されること3回。(そして熊の事故に精通しているためか、無事に生きて帰ってきている)

    以下、メモ
    ○過疎高齢化で里山が森に変わって、熊の生息域が広がったという一文が。山が狭くなって餌も少なくなって、人里に降りてくるのかと思っていたが、それだけでは無いのか……。

    ○朝夕6時前後に活動が高まる。13時くらいにもちょっと活動が高まる。真夜中やお昼の12時前後は休んでいる。なお、熊対策をしっかりとっている果樹園や養殖場では、人間が寝静まった夜中に、餌を採りにくる。

    ○6月は繁殖シーズンでイラついている。秋は越冬に向けて餌をとる行為が活発。ちなみに、幼い熊を連れている母クマは深追いしてまで襲ってこない。子熊は親離れ少し前に親熊がいる前で人に遭遇すると、積極的に襲ってくる。その上、母熊が加勢に加わる。子熊の攻撃は無駄が多く、長時間攻撃してくる。怖い。

    ○初夏と秋に事故が多い。人間が山に行きやすいシーズンだからエンカウントしやすい。夢中で採ってしまうこと、しゃがむ姿勢で小さくなることも攻撃を誘発する要因の一つ。熊は食べたところで休む習性があり、栗などを採りに行き、木の上や茂みで休んでいた熊に遭遇することも。木の近くで立木をカンカンと叩くなどの習慣が必要。

    ○県別の熊の事故数:新潟は7位。こんな上位ランクインは嫌だ。

    ○怪我の場所としては圧倒的に頭部。首を狙って、爪や牙が顔や頭に、ということらしい。若い熊が足を刈りにくるのも怖い。この頭部を狙った初撃をかわして、その上で何か得物で鼻先や目、口の中を狙って振り回せば、生還できるようだが……。

    ○二人に遭遇した場合、動いている方を襲う。また、左右に動くものを発見する能力が高く、縦に動く方が見えにくいらしい。だから熊に会ったらゆっくり後退りしろと言われるのか……。なお、背を向けて逃げた瞬間「弱い個体」認定を食らって、背中から襲われる。

    ○しかし、多人数が動くと目移りして攻撃力が落ちるらしい。昔、農作業に出る人が多い時代には、熊にあうと、人を呼んで大人数で手にした農具で滅多撃ちにして仕止めたエピソードも衝撃的だった。なお、得物で対峙せざるを得ない時は大きな動作(大きな動作)で熊を怯えさせること。仕留める目的でないのなら、囲まず退路を開けて打つと退路から逃げていく。

    ○熊が恐れるのは同属の雄熊。体を大きく見せたり、大きな音を立てて、得物を大きく振り回すことで助かった例もある。

    ○ナタで応戦した事例も多いが、熊の間合いに入るので、おすすめしない。熊はまず戦って勝てる相手ではない。柄が長い方がいいだろう。スコップとかピッケルとかストックとか。

    ○既に襲われた場合は首を両手で守り、地面に伏せて腹部を守って攻撃をやり過ごす。成獣なら数秒で攻撃が終わる。あとは現代医療を信じるしかないが。下半身を刈りにくる若い熊だと、反撃や大きく見せる行為、大声も必要。

    ○そうはいっても基本は、まず「遭遇しないようにする」。出没情報がある所に近付かない。入山するなら複数人で。そして、山でちょっと遠くに熊を発見してしまったら、動かない。急な動きに反応して襲ってくる。動かない、あるいはそろりそろりと木に寄って、そっと同化する。

    ○反撃すると熊の方も興奮してより強く反撃、というケースが多く、襲われたら前述のうつ伏せになり首を守るのがベター。いわゆる死んだフリ。背中にリュック、足元はしっかりした靴という山の装備が牙や爪から多少守ってくれることも。大怪我はするが現代の医療なら生き残れるかも。ただし、若い熊は攻撃が長引くことが多い。熊が居座る「蟠踞」という事態もある。そういう時は熊が静まった折を見て爆竹を鳴らしたり、大きな異音を出して去らせる、何でも振り回して自分を大きく見せるなどの対処がいる。

    ○爪による破傷風が恐ろしい。初撃を頭部に受けない。そして長時間拘束されて噛まれないことが大事だ。

    ○熊は、鼻と耳がよく目が悪いと言われる。なお、鈴のような高い音は聞こえるが、ラジオやカウベルの音は、実は聞こえない説が。効果が怪しい上に、ラジオは熊の足音を消してしまって、かえって危険なことも。

    ○犬が吠えたり襲ったりすることで熊が興奮して事態が悪化する場合(あるいは興奮状態の熊を、飼い主の元に連れてきてしまうことも)と逆に、吠えて撃退してくれる場合も。結果が両極端。

    ○関心を持つようなリュックなどを捨てて逃げれば時間を稼げるかというとそうでもない。動かないものより、動くものを追って襲う習性があるためだ。

    ○晩秋に雄熊が人間(女性が多い)に抱きつく事案は、同類の熊のメスだと勘違いすることから発生している模様。

  • 過去の事故(熊に襲われた)を1件ずつ紐解く。熊の生態に照らし合わせながら。そこがこの本のポイント。
    知らないことばかりだった。
    特に、熊はどうやら人間を同類の熊と認識して、接近や威嚇をしてくる場合があるようだと。
    だから自分を大きく見せる(化かせる)ことが重要。
    傘や、農作業・山菜採りの鎌やスコップなどを頭上に振りかざすなど。

    反撃、撃退は熊を怒らすためリスクが高く、また逃げるなどの”急”な動きも熊を刺激すると。

    熊の生態を研究している著者だからこその誠実な一冊でした。
    ま、熊がいるような山に行くことは無いけど。

  • 奥入瀬のホテルで読了。
    熊に会うことはないが。
    曽祖父が石川県の山中で遭遇し、リヤカーの下で死んだフリをして助かったと聞いたことがあり、やはり正解だったと本書で確信した。

著者プロフィール

1948年青森県十和田市生まれ。秋田大学教育学部卒業。秋田県庁生活環境部自然保護課勤務。86年同庁を退職しフリーの熊研究家となる。多数の助成により国内外で熊に係わる研究・活動を行う。島根、山口、鳥取県からの委託によるツキノワグマ生息状況調査(00~04年)のほか、環境省のもとでも調査を行ってきた。十和田市民文化賞受賞(98年)。日本・毎日新聞社/韓国・朝鮮日報社共催「第14回日韓国際環境賞」受賞(08年)。

主な著作に『山でクマに会う方法』(山と溪谷社)、『クマは眠れない』(東京新聞出版局)『クマ追い犬 タロ』(小峰書店)、『クマを追う』(丸善出版)、『絵本 おいだらやまの くま』(福音館)ほか多数。

NPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長。

「2017年 『熊が人を襲うとき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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