結論から申し上げてしまうと再読の余地はありません。
竹岡美穂先生の絵を手元に置いておきたいなら買い、それだけの価値です。
個々の話にホラーとして光るものはあったものの、それをまとめる最終章が肩透かしになってしまった企画先行の駄作ですね。
企画コンセプトである「『だるまさん』なる何かに大切な何かを奪われる」という基本設定を複数の作家さんが書いていくというコンセプトはいいのですが、基本設定の縛りがきつ過ぎましたね。
最初はこう思いました。同時多発的に起こってしまっては物事を多角的に俯瞰する、と言うわけにもいかないな。
放り出された一つの真実を複数の登場人物の視点から追っていくんだろう、これがこの作品の楽しみ方なんだろうと思いました。
現に何らかの形で「認識」を奪われ、時に異常ともいえる各章の主人公たちの視点は欠けまくっていて互いにああ、ここはこうだったんだなと、描写の補完をし合ってくれました。
が、四章途中の種明かしから続く怒涛の設定説明が思い切り感動を醒ましてくれましたね。読中はまだ良かったものの、最終章のテンプレートな独白と合わせて考えてみれば失笑ものです。
他に、粗として安直なホラー的テンプレートが見えてきました。
単に血を見せればいいだろうといった考えか、B級スプラッターですね。単にグロくて不快なだけに留まった描写が作劇の都合上とは言え、多過ぎます。
そもそもが一応判明してる真実から何かからしてぶっちゃけ安い。
とりあえず、くすくす笑う謎の少女出しとけばいいみたいな風潮はやめとけと。グロ描写にしてもやり過ぎて半ばギャグ、失笑が漏れてきます。
何かを奪われた、ではその何かとは何か? と言うパターンで来る各章のオチは中々悪くないと思うので、個々が独立した事件として扱ってほしかった、凄まじく種明かしが惜しまれる……総体としてはそんな印象です。
やっぱり言いたいのは最終章。怪異の正体をあやふやにするのはいい、だけどそれをやっぱり手に届く範囲に貶めるくらいなら完全に正体不明に、せめて断片的に匂わせるくらいにしてほしかった。
少なくとも少年少女の二者択一でどっちかが「だるまさん」ってオチはないでしょう。どっちがどっちであれ、超自然現象を人間の手の届く範囲に叩き落としてしまっています。
曲がりなりにも破綻せずに進めてきた他の作家さんの努力を最後で踏みにじった感があります。
あまりにも、ありがちな、狂っているから狂っているんですと言うラストの独白を読んだときには第二章を開いた時の熱意は消え失せていました。
結論として、一回はいい。しかし再読には耐えません。
全体は不快ですが割と深い話もあります。しかし怖くはありません。悲しくもありません。竹岡美穂先生の絵は美しいです。