- Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864881074
感想・レビュー・書評
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たなそこのにほひは、人に告げざらむ。金貨も 汗をかきにけるかな
釈 迢空
持田叙子の新刊「歌の子詩の子、折口信夫【しのぶ】」を、7・7音の響きの良さに惹かれて手にとった。国文学者・民俗学者として多くの業績を残した折口信夫だが、歌人としては「釈迢空」の名で、句読点を用いた独特の作品を発表していた。
カリスマ的な存在でもあり、これまで、評伝や研究書が何冊も書かれてきたが、本書では、幼年期からすでに「歌の子」であったことが説得力を持って描かれており、最終ページまで一気に読んでしまった。
1887年(明治20年)、大阪生まれ。自宅では母と叔母が生薬屋をきりもりしており、おやつがなければ、店の奥にある銭函の小銭を持ち出し、買い食いすることも許されていたそうだ。
朝から晩まで鳴り響く、銭貨独特の音。その音の中で育ったせいか、銭貨の歌が少なからずあることを本書で知らされた。
たとえば掲出歌。小銭をずっと握ったあとの手の平は、確かに独特なにおいを放っている。それを、「金貨」がかいた「汗」と擬人化することで、流動的で、ある意味人間的な金相場すら連想させる。
商家ばかりの土地で成長したことが、むしろ彼に、優美な古典文学や、浪漫的な近代短歌へのあこがれを抱かせたという。散歩に出ると、薄田泣菫【すすきだ・きゅうきん】の浪漫詩などを高らかに歌い上げるのも、少年のころからの習慣だったとか。
王朝和歌、そして、明治を代表する与謝野鉄幹の短歌に「両性具有性」を見出した折口の歌論もじっくり読み返してみたい。
(2016年12月11日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示