RED ヒトラーのデザイン

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865281767

作品紹介・あらすじ

ヒトラーは、もっともデザインを知る独裁者だった-ー。
多くの人々を煽動したナチス・デザインに、グラフィック・デザイナーの松田行正が迫る。120点以上の映画と、膨大な図版を導き手に解剖する、ヒトラーのデザインの特質とは。自在な筆致で、負の歴史、そして現代を照射する、渾身の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • アイドル歌手がナチス風コスチュームで物議をかもしてしまう日本。日本人がナチスの負の記憶を肌で感じていない事もあるかもしれないが、そのデザインのインパクトの強さが今だに強く残っているからなのだろう。グラフィックデザイナーの著者が、膨大な資料とともに細かく分析している。今回の東京オリンピックでも映像が話題になっていたと思ったが?
    計算されたデザインである一方で、古典的なデザインや周辺の国、民族からも都合よく借りてきているなど、したたかだ。現代でも、うっかり乗ってしまわないよう気をつけなくては。

  • あとがきにある「ナチスは政治と芸術を合体させて「国家」をアートにしようとした。アートを、意味とは関係なくカッコいいと思ってしまう感性を手玉にとった、とも言える。」に表される本。
    ナチスのデザイン、イメージ戦略による醸し出された神秘性と官能性(アーレントが言うところのナチスの「魅惑と恐怖」)。それが嫌悪と恍惚、或いは不気味と魅惑というのアンビバレントな感情を人々にもたらしたが、そのイメージの多くが過去から伝統的なものからの引用、借用、ムッソリーニなどからの多用でその模範を駆使して培われたデザインの由来元が紐解かれる様は痛快である(親衛隊の制服は最たるものである)。

    第4章イミテーションから
    p183 リズムは「個々の差異を消し去り、個人の意志を無にし、ことばや意味内容を無にし、否応なしに人を従わせ、ついには人の命を奪う」
    グースステップによる行進は、頭を思考停止にさせ、命令に自動的に反応する兵士をつくるために最適な「リズム」感を生み出す。つまり、反射運動で殺人をも犯せる人間の創出だ。
    p190 制服の効用は、いくつかある。着用することで、背筋は伸び、自分が魅力的になったのではないかとキリッとする。その延長で権力の一部を担っているのでないか、と錯覚させてくれる。そして、集団に溶け込むことによって、個性も消える。
    制服は犯罪を行うのに最適の格好である。つまり個人が特定しにくくなる。責任の所在もあいまいになる。そのため、制服着用で、悪事も含めたいろいろなことをするハードルが下がる。ナチスはこの制服の効能を最大限利用した。

    個を消失させ、一体感を誘い、意思を惑わし、意匠された都合のよいものにするべく仕向けられた酩酊を及ぼす潜まされた、気付かないうちに向かいく加担させられる残虐性が希薄化する幾つもの装置が紐解かれる度に恐ろしくも感心する。

  • 以前からナチスのデザインは不思議に思っていた。あの力強さと官能性、そして禍々しさはどこから来るのか。そして、一国のデザインをなぜあそこまで統一的にできたのか。

    本著は、ヒトラーをデザイン・ディレクターとしてとらえ、彼が手がけたナチスのさまざまなデザインを分析する。対象となるジャンルは、ハーケンクロイツやポスター、フォントなどのグラフィックから、軍服、戦闘機などのプロダクト、敬礼、行進スタイル、イベントの会場レイアウトまで幅広い。

    「design」という単語には「企み」という意味もあるそうだ。「アートは問いであり、デザインは答えである」などとも言う。なるほど、たしかに「企み」を効果的に遂行するための「答え」こそがデザインであるとも言える。

    本書を読むと、ナチスは「国民の動員」という企みのために、過去のさまざまなモチーフからデザインを引用していることがよくわかる。引用元のデザインがもつ歴史的・文化的な文脈をうまくナチス流にアレンジして、それを繰り返し提示することで、国民意識を高揚させるのだ。図版などを用いながら「元ネタ」を提示して、デザインの裏側にある企みを引きずり出す著者の手つきはお見事。「デザインの歴史探偵」を自任するだけのことはある。個人的には、ナチスの軍服の意匠が、他国の軍服のディテールを組み合わせたものであることに驚いた。

    この「種明かし」の手法は、プロパガンダやある種のマーケティングへの解毒剤として有効だろう。広く読まれるべき一冊。

  •  人々を扇動する為にナチスはデザインをうまく活用した。その結果というか、映画等の世界ではナチスっぽくすると独裁軍事政権っぽく見える。
     実際のナチスのデザインや映画の中のナチスや架空の独裁政権を通して、ヒトラーのデザインを解説していく。

     ナチスとヒトラーから学ぶことは多い。

  • ヒトラーはクリエイティブディレクター。
    編集、サンプリング、メディア戦略。

    ゴシック建築は、もともと多神教だった人たちを教会に通わせるためのツール。森の中にあるようなデザイン。

    グースステップも、フリードリヒ2世のもの。

    ヒトラーは銅像を作らない。
    ライブに重きを置いていたから。
    アイドル性。

    ちょび髭は、ガスマスクをかぶりやすくするため。

    ハーケンクロイツを十字軍のイメージに重ねた。

    45度傾けた鉤十字が酩酊を生む。

    ハーケンクロイツは、敵にとっても使いやすい。
    皮肉にも、批判デザインが流通の一助となった。

    古い建物の中で赤のモダンな旗は映える。

    シュペーアによる、光の建築。
    ファシズムはファスケス(束ねる)に由来するから。

    モダニズムを否定しながらデザインを使うヒトラー。
    直線の多用。

    ロトチェンコの写真。

  • 『独裁者のデザイン』が良かったので購入。本書はアドルフ・ヒトラーとナチスのデザインにフォーカスしたもの。
    ナチスに関しては数多の書籍が出ているが、切り口が変わると様々なものが見えて来る。『HATE!』も楽しみ。

  • ナチスの台頭を、ヒトラーのカリスマでも当時の社会情勢でもなく、優れたデザインセンスによるもの、という観点から分析。ヒトラーは模倣者だったが、その取捨選択や改変によって生まれたハーケンクロイツやベルリンオリンピックなどの祭典は、ナチスの悪行を知っていても惹きつけられる。
    豊富な実例と傍証、随所に挟まれるナチス映画、第2時大戦映画の知識も面白く、読み応えのある1冊。

  • ともすると、その「魅惑と恐怖」に取り憑かれ、気付いた時には加担してしまうのか。
    歴史は繰り返すのか、、、
    ---
    「ナチスは政治と芸術を合体させて「国家」をアートにしようとした、アートを、意味とは関係なくカッコいいと思ってしまう感性を手玉にとった」

  • ここ一年くらいで白水社のナチ関連本何冊か読んでて、それと比べると文章軽いし、話がとっちらかってる印象は否めないかな。とはいえ、それがイヤではなくて、日本人著者が軽めに書いてるからこその喩えのわかりやすさとか映画の話題の「そうそう」って感じは白水社の翻訳物にはないよね。

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著者プロフィール

松田行正
本のデザインを中心としたグラフィック・デザイナー。自称デザインの歴史探偵。「オブジェとしての本」を掲げるミニ出版社、牛若丸主宰。『眼の冒険』(紀伊國屋書店)で第37 回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。著書に、『デザインってなんだろ?』(紀伊國屋書店)、『デザインの作法』(平凡社)、『にほん的』(河出書房新社)、『独裁者のデザイン』(河出文庫)、『眼の冒険』『線の冒険』(ちくま文庫)、『RED』『HATE !』『急がば廻れ』『デザイン偉人伝』『アート& デザイン表現史』『戦争とデザイン』『宗教とデザイン』(左右社)などがある。

「2023年 『グラフィック・ビートルズ(3,600円+税、牛若丸・Book&Design)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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