異世界迷宮の最深部を目指そう 3 (オーバーラップ文庫)

著者 :
  • オーバーラップ
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865540345

作品紹介・あらすじ

激しさを増す《天上の七騎士(セレスティアル・ナイツ) 》によるラスティアラの奪還計画。
このパーティで最深部を目指そうと考えるカナミだが、突然ラスティアラがフーズヤーズに帰ってしまったことにより途方に暮れてしまう。
そこへパリンクロンがラスティアラを救う方法を持ちかけくる。
だが、マリアの様子もまた変わり始めていて――。
いよいよ幕を開ける聖誕祭。ラスティアラの死期。マリアのカナミに対する恋心。恋を成就させたいアルティ。《天上の七騎士》との決闘。
忍び寄る『???』の影。様々な思惑が絡んだ聖誕祭が幕を開け――

そして全てが清算される。

感想・レビュー・書評

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  • 無情だけど話はすごく好み

  • 「物語」は並走し、交差する、そうして「轍(わだち)」が刻まれる。

    『異世界迷宮の最深部を目指そう(略称兼愛称:いぶそう)』三巻は、主人公「相川渦波(カナミ)」が「ジークフリード・ヴィジター(ジーク)」なる偽名を名乗ったことで迎えられる巻のひとつです。
    (完全にネタバレ前提でお送りします、未読の方は回避してくださいませ。初見の驚きはあなただけのものであり、私が奪い去るのは本意ではありません、全く本意ではありませんので。)

    あなたは忘れている、忘れてはいけないのに。

    WEB版でいうところの第二章『聖誕祭の終わりに』はここまで。
    私が一巻のレビューで申し上げた通りに作風ないし世界観の大転換がやって来るマイルストーンもしくは「墓碑」となる巻のひとつです。
    はっきり言わせていただければ、ここで憤慨された方にとっても慨嘆された方にとってもひとつの「終わり」を定めるには好適となる巻のひとつでもあるのでしょう。

    「一巻の終わり」という言葉遊びに満足できなかった方はもちろん、「二巻」という商業作品における壁を乗り越えた方はぜひ安心してください(2020年現在も進行するこのシリーズ、一時期は続刊が危なかったそうです)。
    あとは、現時点で私なりの解釈を三択ほど提示できたりもします。あなたなりの「物語の終わらせ方」を人にもよりますが三種類も、いくつも見つけられます。きっと満足いただけると思いますよ。

    さて、さっそくこの巻の特徴を取り上げますと全編が「予定調和」への反逆、それとその「反逆」への反逆が二段三段に組まれた構成によって成り立ち。そして幾人もの「人間」が織り成す心情の疾走を持って物語られます。
    「All or Nothing」、「小の虫と大の虫」、「トロッコ問題」、「好きな子か世界か」、ネタバレ防止のためにあえて適当な喩えも混ぜましたが、要は「二律背反」にどう挑むか? そして「君」はどうしたいか?

    そんなここ三巻の前半で頻出する単語が「選択」です。
    早急に対処しないといけない大問題へ主人公がどう挑むか、まずはこちらをご覧ください。

    不誠実で愉快犯な言動が悪魔を思わせ逆に信用できると思えてしまう男「パリンクロン・レガシィ」。
    「物語」の中に自らを置くことで恐ろしさと美しさ、焦がれを誘う純真な男「ハイン・ヘルヴィルシャイン」。
    そして「ハイン」の物語を受けて狂的な瞳、爛漫な瞳のありかが明らかになる「ラスティアラ・フーズヤーズ」。

    ふたりの男とひとりのヒロイン。
    正直、主人公は思いっきり「作意」と「作為」が目に見えているこの男二人(厳密にはひとり)に誘導され、判断材料が揃わないことを自覚しつつ「ラスティアラ」を臨む/望む戦いに身を投じることになります。
    ある意味二人目のヒロイン「ディア」のニュートラルな助言も加わったとはいえ、不安ではありますが――。

    ところで人間の精神の働きを示した三要素に「知情意」という言葉があります。
    どこのだれの偉い人が言ったかは割愛させていただきますけれど。

    これを例に取れば主人公「カナミ」は冷静に判断するための「知性」、絶対に物事を成し遂げたい「意志」は強固なのに、その間をつなぐ「感情」だけ、ここで言えば「××」だけがある事情によって抜け落ちてしまった、そんな歪さを抱えています。

    で、そのことを自覚したままで選択の余地が無い戦いへ、二巻でお披露目と相成った「天上の七騎士(セレスティアル・ナイツ)」うち三人と未だ真価を見せていない初見のふたり、二本立てからなる相手に疾走感あふれる戦いになだれ込んでいくことに。
    迫る時間制限の中、編み出した新魔法も駆使して押し通ったカナミは彼女のもとに辿り着きます。

    ひとつめの結論を申し上げれば、ここまでの流れは淀みなく澄んでみえます。流れるような疾走の勢いは実に心地よかったと言えるでしょう。なぜだか、顔見知った列席者のうち幾分かに認められもしました。
    そうですね、「式場」での「異議申し立て」は物語の華と言えるでしょう。仲間も一挙に増え、ここからの迷宮探索も加速度的に勢いを増すのかもしれません

    「悲劇」はたやすく「喜劇」に転ぶのだと教えてくれた……………………………………………………………………いいえ? ここで話が終わって続いていくなんて「選択肢」はあり得ないのです。

    あなたは忘れている、忘れてはいけないのに。

    「予定調和への反逆」もまた「予定調和」なんですよ。
    「物語」というのは最初から誰もが気付かないうちに「定型」が定められているのかもしれませんが、それでもその「型」、「王道」や「英雄譚」と言える美しいものに「反したい」、「逆したい」という願望に囚われる。

    一巻からはじまり「予定調和」に終わらせることができた三巻までの路線は間違いなく一級品だったと思います。
    ただ、それを塗り潰し、塗り替える三巻の路線が上回ったというだけなのですよ。

    そう、あなたは忘れている。いや、気付いている。彼女がその絵姿をもって飾ったこの三巻はまだ半分を残していることを!



    ----



    『異世界迷宮の最深部を目指そう(略称ならびに愛称:いぶそう)』三巻のレビューをふたたび行っていこうと思います。先に述べた通りネタバレ全開でお送りしますので、未読の方は本当の本当にここで回れ右してください。
    二巻で最初に出会ったヒロイン「ラスティアラ」とペアを飾った主人公「相川渦波」(偽名はジーク)」ですが、ここ三巻は意味深な表紙絵からわかるようにヒロイン「マリア」の手番が回ってきます。

    「鵜飼沙樹」先生の表紙絵は、ご本人の解説によると大量の寓意(含意)を込めておられるようですが、ここ三巻をして一気に含有量を増やしてきました。表紙でほぼ毎回散らされる「花(花言葉)」によるなんらかの暗示もここが皮切り、「演出」の妙という意味では間違いなくシリーズの端緒を飾る巻でしょう。
    詳細は省きますが、表紙絵と口絵を用いたリフレインは現時点での書籍版最高の演出のひとつと言えるでしょう。

    ここからは考察というより、あくまで個人的感性に基づいた感想であることと断らせていただきますが、まず言えることは美しかった。そして優しい物語だったと思います。
    誰もが傷つき、血を流し、熱を持つ。けれど、「熱」は見えない。見える炎になるまで、発火点を迎えるまでは。

    はっきり言えば読者目線からも主人公目線からも「マリア」の変貌と破局を察し切るのは難しいとは思います。
    けれど、ここに至った経緯と心情の変貌が彼女の視点から事細かに描かれることで、彼女の人生は、「ジークフリード(ジーク)」と名乗ってからのカナミと出会った人生は、彼に、主人公に負けないと証明したのです。

    そのための手段が主人公に抗しうる敵手でもあるという選択肢、「彼の物語」をここで終わらせるという結末の提示になったわけですが、少し紙幅を取ってご説明しましょう。
    つまり、このレビュー冒頭で述べるところの「物語の終わらせ方」、ひとつめはマリア(&アルティ)に主人公が敗北し、彼女の物になってしまうというものです。

    「選択」という単語がこの三巻の文中に乱舞すると先に申し上げましたが、そこには「分岐」や「可能性」、「パラレルワールド」が発生するというのはゲーム(特に文章を読み進めていくアドベンチャータイプ)に慣れた読者にとっても、もちろん執筆している作者にとっても慣れ親しんだ発想とは存じます。

    ゆえに、ゲーム的な考えに基づき設計されたこの「物語」を畳む結末も、印象としては許されるのですよ。
    正直、前半の疾走感という追い風を得た上で猛火として結実した「マリアの物語」はすさまじかった。この先千変万化していく物語の成り行きと諸々の謎を投げ捨てて、この結末を受け入れていいかなと思ったのは私にとっても偽らざる感想のひとつですから。

    「ヤンデレ」という言葉は説明をたやすくする反面、細かい趣と裏側を置き去りにしてしまうのであまり使いたくないのですが、あえて使うと今後も主人公の眼前で乱舞する「ヤンデレの女の子たち」は至極魅力的です。
    マリアをはじめとして方向性は様々なんですが、熱量という意味では到達点のひとつを早々にぶつけられた気がしてなりません。

    むろん、これは物語の楽しみ方としてあちら側が提示した(であろう)解法のひとつであり決して強制するものでもないのですけれどね?
    作者である割内先生が「小説家になろう」上に掲載している各種「IF」外伝や、書籍におまけとして付属する特典小冊子などを見るに、言外に察してくださいとウィンクをしているように思えてならないのも確かですが。

    とはいえ、戯れにして私なりの本音はこの辺にして本書の書評を終わらせずに進めますか。

    そうですね、この物語は群像劇だったのかもしれません。
    囚われの姫を救う勇者というありふれた様式美は、奴隷の少女が向けた身を焦がす恋の炎、どこかで見たかもしれない「様式美」に焼き焦がされる。そのことにどこか黒々しい爽やかさを覚え、読者Aたる私も共感しました。

    「悲劇」はたやすく「喜劇(ハッピーエンド)」に転ばない。
    だって、その方が美しいと知ってしまったから。

    恐ろしいことに、マリアは「読者目線でも見えている」前半部の、カナミの心情をリフレイン――反復させ、反転させるキーワードを軸に組み立てられた、言い逃れできない言葉を「ジーク」にぶつけてくるのです。
    自ら「異世界迷宮の最深部を目指す」という大目的のために枝葉となる選択肢を切り捨ててしまっているカナミと、彼に向ける恋心のために自ら選択の余地を狭めていったマリア。これらの印象も不思議とダブります。

    おあつらえ向きに「彼女」を導いた「アルティ」と、前半部と後半部で共通して出演し狂言を回す「パリンクロン」、出演者も表裏一体、表あっての裏といえどこれは強い、物語として強すぎる。
    絶望的な数字との戦い、こちらの戦力(数字)も揃っているはずなのにそれを「構図」によって打ち崩し、極めて不利な戦いを強いられる。『いぶそう』の本領のひとつがここに結実しました。

    思えば「ボスモンスター」とうそぶきながら名乗ったアルティの肩書自体が凶悪なミスリードだということが今になってわかりました。二十階層守護者「ティーダ」が紛らわしすぎる倒され方をしたから気づけませんでしたが、なんで一番手が最大のイレギュラーなんでしょうね。
    もっとも、二番目に配置されているのに一番手で、ラスボスチックな「闇」を司ってるくせして比較的表層部に配置されてる辺りでお察しでしょうが。

    「理を盗むもの」の意味の一端が明らかになり、謳うような祈るような、願いにも、呪いにも、叫びにも似た「詠唱」が大きくピックアップされるのもこの戦いから。
    よって、激烈に苛烈な戦いに詩の美しさを乗せた、決着の付け方は鮮烈であり何よりも「優しい」ものでした。

    守護者とは究極的には先に進むための「障害」に見えるのに、彼ら彼女らの「本質」はそうではない。
    なぜならば――、この辺は六巻のレビューのために取っておきますか。すべてを言い募るのも趣がない。

    時に繰り返しになりますが、この作品は一巻のレビューでも申し上げた通りにファンタジー、ゲーム、RPG、物語の「定石」を押さえた上での「定石外し」が光ります。
    当たり前の物語を知っていて、それを楽しいと思うからこそ、それを破る楽しみも生まれる。

    ただし、「王道」と言い換えられもする「定石」とはそれ自体がとても美しいものです。
    上手く王道をずらしつつ人を不快にさせる邪道には逸れず、しっかり経緯を描くことで納得を生む別種の「王道」を付け加えていく。それがこの『異世界迷宮の最深部を目指そう』という物語の本質だと今の私は解しています。

    「代償」というこの作品の根幹を支える要素とて同じこと。
    今の自分には足りないものを支払うことで、望んだ結果が返ってくるというのは実に「優しい世界」だと私は思っています。

    同じ「やさしさ」でもけして「易しくはない」ことには変わりはないので、足りないものは別種のつけで支払う羽目にはなるのですが、その辺に真摯な「世界観」を感じたことも確かです。
    「ギブ&テイク」、痛みというのは時に癖になる。

    というわけで、ふたつめの「物語の終わらせ方」を提示しましょう。
    というより、こちらは「主人公の敗北」という形で万人にとって目に見えている「エンド」なのですけどね。

    主人公、ここではカナミが敗北からの再起というのはこれもまた別種の王道だと思うのですが、当然の帰結として「納得」できてしまえるんですよ。
    しかも「ご都合主義」として負けたのではなく「シナリオ」に乗せられた「必然の敗北」ですね、これ。

    現時点ではなぜだかしれませんが、相当量の情報を持っているアドバンテージの上に「物語」とは別の思惑――カナミを嵌めてやろうという明確な悪意を持っているパリンクロンがありとあらゆる面で上手過ぎて、私も白旗を上げました。
    言うほどカナミの判断に粗はないんですが、落とし穴を放置したことによる敗北というバランスの取り方に脱帽。

    もっともこの辺にはカナミ自身の一人称による叙述トリックという作者の技巧への称賛も含まれているわけですが。ちなみにここでいう「トリック」とはカナミの自己欺瞞という意味での「騙し」ですね。
    カナミは少し「離」れた位置から俯瞰した目線を運び、時に「遊」び心を用いた「遊離」で読者と自分自身を騙してきたわけです。思っていることに嘘はないのに「印象」の濃淡にやられました。

    将来的な脅威から目を逸らして「最短経路」を爆走してきたこと、たった十四日間でここまで来れたことの「代償」として見る分には納得でしょう。
    もっとも、たったこれだけの時間でここまで来れたという事実に私は恐怖を覚えたわけですが。むしろブレーキがかかって安心しました。

    私としてもこの作品が「小説家になろう」発ということで「侮り」を抱えていたことを認めます。
    「主人公の敗北はありえない」などと先入観に囚われていたことを認め、この作品の脅威度を跳ね上げるとともに油断を捨てました。

    なんにせよ一人称視点――、つまりは自分だけで判断し、決断することの限界を読者とカナミに教えてくれたという意味で作品の基本パターンがここまでに、つまりは三巻(第二章)までの流れに詰まっているように思えてなりませんでした。

    「理を盗むもの」との戦いの「様式」を示してくれた意味、主人公の心の間隙「虚」を突いてくる意外性、いとたやすく反転する構図の美、敵も味方も決して油断ならずその人だけの人生を歩んでいることへの「敬意」――、その例を並びたてていくことに、ためらいを覚えることはありませんでした。以上です。

    では、最後に三番目の「物語の終わらせ方」などを言い募ってから感想を閉じようと思います。
    それは読者自身がこの作品に挑み続けるか、挑むのをやめるかという「決断」に他なりません。
    この作品は手軽につまめるファストフード的楽しみだけでなく、重厚で長いコース料理としての性質も強いです。

    真の意味で完結すれば五百万字以上も見えてくる本作を読み切るためには作者を信じ切れるかにかかっています。
    本作はすっとぼけたコミカルなノリが垣間見えながらも、厳正な世界の法則に基づいたシビアな展開とのギャップが妙にアンバランスです。けして真摯さを失わないと私は信じていますが。

    同時に、万人が私になれるとは信じていませんし、私が今の私であり続けられるかもわからないということ。
    パリンクロンに負けたこの巻を読んで、さっと見切ってもそれはそれで悪い選択ではありませんし、私とてこの先に素晴らしいものを見せてもらえると信じていますが、その先に進み、進むのが怖いのが正直なところです。

    ただ、私が頼みとする言葉がこの巻の最後で取り上げられたことも確かです。
    それは「車輪」。運命の輪が奈落へと転がり落ちていくビジュアルイメージが浮かびつつも、車輪という器物は地に輪をつけなければ成り立たない。同じ地平を転げ回る、円環が反復していく、きっと地に刻まれた轍が消えゆくことはない……。

    車輪もひとつきりで終わるといえば、そんなこともないのかも。
    向かう先が絶望だとしても、跡には何かが残される。
    だから侮るのも、萎縮するのも、きっと違う。



    と、これは私なりの解であり、そうそう他者にお渡しすることはありませんがもしよろしければご笑覧ください。
    それでは。

  • 今まで読んだ本の中で、最悪の読了感でした。

  • 面白かった!1巻のディア、2巻のラスティアラときて、3巻はマリアの番。主人公のステータスにも世界にも秘密がありそうだし、盛り上がる展開だし、ページを繰る手が止まらなかった。明日仕事なのに睡眠不足だよ!どうしてくれんだ!!!!

  • Web版の頃から大好きだった例のサブタイトル,階層宣言,マリアの告白,挿絵,ストーリー,全てが最高でした.

  • 話としては終わってる気もするけど。

    主人公敗退で終わるって珍しいかも。
    しかもとどめはチートしてた能力のぶり返しというか、なんじゃそりゃな展開で。

    続編出るみたいだけどな。
    (まあ、Webのほうは先があるので続くのは確定なんだが、出版されるかどうかは不明といった所)

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