ドラマとは何か: ストーリー工学入門 (シナリオ創作研究叢書)

著者 :
  • 映人社
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784871002141

感想・レビュー・書評

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  • 「人は悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのである」(心理学者ウィリアム・ジェームス)
    「心理」「性格」「ストーリー」という言葉にだまされるな。
    「心理」とは、ある特定の人物がある特定のシチュエーションに遭遇して抱く、ある特定の唯一的なニュアンスと色合いを持った感情であって、しかもそれが観客にそのまま生き生きと伝わるということ。
    ナマの感情のイキを失わず(類型にならず)、生きた心理をそのままに作者の俎の上に乗せ上げるには、作者が自身の構築した想像的世界の中で、その人物として現実的に生き、その感情を本当に創り出してみること。
    「性格」という言葉、性格、性格と呪文のように唱えていれば、その人物らしい性格描写ができるというものではない。性格とは、ある人物が行動する、その行動傾向の特色に他ならない。つまり、ある劇的行動の結果につけられた形容詞に過ぎない。
    「ホトトギスが鳴かない」という環境条件に対して「殺してしまえ」なのか「鳴かしてみしょう」なのか「鳴くまで待とう」と違う行動があり、その行動の特色に対してつけられた形容詞がそれぞれの「性格」。ドラマの世界では、性格があって行動があるのではなく、行動があってその結果として性格がある。その人物独自の「行動」の創出にこそ、力を尽くすべきで「性格描写」などという紛らわしいしろものを追いかけるべきではない。
    「ストーリー」とは、主人公の貫通行動が要約した形でまとめられたものに過ぎず、作者の頭の中にまず「ストーリー」があるのではない。
    ナレーションや回想による心理説明などというものが白々しく、浅薄なものに見えて来る。
    主人公=作者が何らかの目的をたて(明瞭に意識するとしないに関わらず)、それを実現しようと行動し始める、その目的はまだ実現されていない。すなわち、環境の中の何らかの「欠乏」(=こうありたいのに実際にはそうはいかない矛盾)が、主人公=作者に行動を迫って止まない。目的は、環境の側から主人公に提出され、主人公=作者は否応なくこれを選び取らざるを得ないとも言える。
    環境(社会枠→他者)と主人公(目的→自己)との間に存在する絶対的な矛盾こそ、主人公の行動を促して止まない根本的な動因であり、その矛盾の意味と本質こそ、まさに「主題(テーマ)」と呼ばれるものに他ならない。主題の明晰さとは、この矛盾の認識の明晰さに他ならず、テーマの一貫性とは、主人公の行動の一貫性に等しい。
    ドラマとは、「合の創出」
    ドラマの特質、「意外性=次がどうなるのか全く予測のつかない性質」、「突如性=変化が突然に現れる性質」、「唯一性」、「カタルシス性」。
    価値回復の落差と社会的意味こそ、「ドラマ」の価値を決定づける
    現実の具体的な超目標の裏側には、実は人間の人間に対する「愛」が隠れている。
    創造(アイデア)とは、今までになかった情報の新しい組み合わせの発見
    第2信号系の線的記憶(意志的論理的に記憶した情報、AだからB、従ってC)→第2信号系の点的記憶(それがバラバラに分離したもの)→第1信号系の線的記憶(感情的、イメージ的記憶、第2次信号系の線的記憶の周辺に偶然的無作為的に結びついたもの)→第1信号系の点的記憶
    ナマ=第2信号系の線的情報をそのまま利用とすること。1次的に存在する「所与の自分」をばらばらに分解し相対化する必要がある。膨大な量の「第1信号系の点的情報」を含め、点的情報の不条理の集合体となった自分の中から、演戯によって新しい主人公を生かし、創造していくこと。 (中山正和)
    橋本忍「切腹」をテキストに、
    説明にならないためには、全てのイベントは行動性や目的意識に裏打ちされているべき。それは、主人公が相手役の誰かに働きかけるか、あるいは相手役の誰かが主人公に働きかける時、最も生彩を発揮する。
    テーマを意識的な理論として述べることではなく、その理論を背景にした具体的な行動を造り出すこと
    テーマとは、主人公の貫通行動が沈黙の中にアピールしてくる、現代社会に対する意味であり、その行動が劇的環境と正面衝突してギリギリに生まれてきた解決は言わずして作者の思想を私たちに語りかける。
    松本清張「砂の器」をテキストに、
    創作とは、小さな嘘の上に、大きな真実を語ること。そこに、如実に人間が生きている限り、ある程度の設定のムリは気にならない。

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