ポール・セローの大地中海旅行 (気球の本)

  • エヌティティ出版
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (713ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784871886512

感想・レビュー・書評

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  • 長かった。読み終えるのに時間がかかった。

    知らない作家や詩人などがジャンジャカ出てきて話を見失いそうになることもしばしば。

    「ついてこれないヤツは別に読まなくて結構」と著者に言われているようだった。

    特に印象に残っているのはアルバニア。貧困が国を覆い尽くし、おびただしい数の乞食が著者に突撃してくる。かなりのインパクトを残してくれた。
    著者が訪れた1990年代初期は相当荒れてたみたいだけど、今調べると治安もいい安全な国とある…
    著者が話を聞いた現地人も言っていた「去年はもっと酷かった。少しずつよくなってきている。これからも…」という話が本当だったのかもしれない。

    いつかアルバニアに行ってみたい。

  • 一行一行じっくり追ったため読了に時間がかかりましたが、読んでいる間中旅をしている気分で、この雄大な旅に参加しているような喜びを味わいました。
    コルシカやシシリアやチュニジアの独特な空気をまざまざと思い出し、更に行きたい場所リスト(ジブラルタル、シリア、エルサレム、、、)が長くなりました。旅行記としての一番の役割を気持ちよく果たしてくれたと思います。
    また、名跡美景よりもそこで実際に起きている物事、生きている人間の方にどうしても興味が向いてしまうところも、共感。最後の方に、ロードス島の「世界の七不思議」の巨像を背景にしながらも、目の前でベラベラと話しているイェゴールの刑務所での話の方につい関心が行ってしまう、でもその二つはセットなんだ、というような箇所がありますが、彼のこの長い旅がそこに象徴されているように思います。
    何も事が起きない時などは、彼の膨大な読書量の中からその地に関する本や人物の話が次々と紹介され、彼の中で本と旅がいかに切り離せないかがよく分かります。その場で起きたことや読んでいた本によってその地を記憶するという旅の形態にも親近感が湧きます。本に出てくる憧れの場所に行ってみたらがっかり、というのもまた旅の面白いところだし。

  • 若きアメリカの作家セローは身重な新婚の夫人を伴い、ジブラルタルのヘラクレスの柱から地中海に乗り出します。そして1年3ヶ月の旅行。イタリアの対岸、アドリア海を隔てた動乱以前の夢のようなのユーゴと悪夢のようなアルバニア。アイロニックなセローの記録は豪華なエーゲ海ツアーからは決して生まれる事のない旅行記の傑作。村上春樹が聴いた太鼓の音はこのセローが奏でたものに違いない。春樹はその後「辺境・近境」でセローを超える風の声を聴かせてくれましたが。

  •  ポールセルーの本は絶版本が多い。この本もAmazonで買えないようだ。日本ではマイナーな作家だし仕方ないのかもしれない。
     セルーは漠然と地中海沿岸を一周するとだけ目的を決め、旅に出る。ジブラルタルの「ヘラクレスの柱」から出発し、対岸セウタの「ヘラクレスの柱」まで大回りするというものだ。途中、彼は行き当たりばったりに住民とコミュニケーションを図ったり、旧跡を尋ねたり、その地に住む作家を訪れたりする。
     セルーの旅行記の特徴といっていいと思うが、風景や人々の描写はあまり力が入らない。彼はそういうものを第三者視点からではなく、たった今自分と会話している人々というように必ず筆者視点で綴る。
    恐らくはそれが原因となって、前半は全然つまらなかった。スペイン、フランスのお決まりの観光地はセルーに何も訴え掛けてはこず、従って私たちにもただ詰まらない印象しかもたらさない。偏屈な作家の愚痴のオンパレードである。
     それが徐々に変化するのは9章、カルロレーヴィ縁の地アリアーノを訪れるところからだ。エピソードにセルーと時間を共に過ごす人々のキャラクターが入って来て、セルーの心が揺さぶられ始める。それは緩やかなカルチャーショックのようなものであり、彼をして旅に出る前の彼とは違う人物にするものだ。アリアーノの村カルロレーヴィの描いた人々、クロアチアの戦争とそこに生活する人々、豪華客船の愉快な道連れ、トルコのフェリーで出会った奇妙なトリオ、アラブ人作家ナギーブマフフーズ(我が町内の子供たち)、パレスチナ人作家エミールハビビ、シリアのゲイたち、ロードス島の予感。

     以前、カレルチャペックの旅行記を読んでこんなに面白い旅行記があるかと思ったが、そこには共通の理由があるのではなかろうか。北欧の自然、人々がカレルチャペックに感銘を与え、その心に旅の前には識りえなかった洞察を許した。地中海はセルーを揺り動かし、彼にまた一つ旅の記憶を刻み付けた。
     こういう本を読むと、少しどこかに行きたくなる。

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