歴史入門

  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784872332230

作品紹介・あらすじ

二十世紀を代表する歴史学の巨匠F・ブローデルが、その歴史観を簡潔・明瞭に語り、歴史としての資本主義を独創的に意味付ける、アナール派歴史学の比類なき入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀を代表する歴史学者であり、長くアナール派の首領として君臨したフェルナン・ブローデル自身による彼の著作の概説書である。
    本書は日本版が『歴史入門』というベタなネーミングが付けられているが、「著者まえがき」によれば原題は『資本主義の活力』となっており、著者の代表作である大作『物質文明・経済・資本主義』についてジョンズ・ホプキンス大学で講演するにあたってのテキストとのことである。
    ブローデルはこの講演の中で長期にわたる研究の成果として学説的に画期的な視点を提示しており、その首領ゆえの(?)雄弁で有無を言わせないような格調高い語り口と相俟ってとても迫力に満ちたものになっている。

    ブローデルの歴史観の卓越したところは歴史を時間軸に向かって事象を重層化したところにある。
    歴史的事象を歴史的事件をあらわす「短期持続」、ゆったりとした周期で動く複合状況をあらわす「中期持続」、事件や複合状況の深部でほとんど動かない構造である「長期持続」の3つに分類し、主に中期持続や長期持続をターゲットとしてダイナミックに歴史を描くことが彼の真骨頂である。

    本書ではまず「長期持続」に相当すると思われる物質文明について人間の営みや人口、技術などに焦点を当て、次に「中期持続」に相当すると思われる経済生活に焦点を当てている。経済生活では、都市にみられた市や大市、取引所が交換経済の基本として成立していった過程を概観したうえで、それが次第に世界的規模にネットワーク化されていった様相が描かれている。
    こうした市場経済に対し、ブローデルは「資本主義」という言葉の使用をためらいながらも、市場経済と一線を画するものとして資本主義の登場を見出していて、それは利他的目的のない資本投入の絶えざる賭けであり、資本を通じて資本財を利用しつくすような経済形態であるとし、市場経済が基本
    でありながらも市場経済からはみ出し利益獲得のために極限を追求するものであるとしている。
    そしてこのような「物質文明」「市場経済」「資本主義」は「物質文明」を底辺としながら長い間並列して存在してきたのだとし、「資本主義」が発展する社会的な条件として、国家・宗教・階層を挙げている。

    さらにブローデルは議論を推し進める。
    こうして発展してきた資本主義は経済地域全体の中心となる都市が出現したとし、同時並列はあるもののそうした地球のある部分だけの経済的な全体のまとまりを「世界=経済」という用語で捉え、「世界=経済」の流れを「世界時間」という概念として打ち出している。
    そして、「世界=経済」の中心都市はまさに繁栄の中心であるがその周辺地域は支配され従属を余儀なくされたのだとしている。
    ヨーロッパとそれに併合される地域の場合の「世界=経済」の中心は、1380年代はヴェネチア、1500年代にはアンヴェルスに変わり、1590~1610年頃には再度地中海、そしてジェノヴァに移動し、1550~1560年頃にはアムステルダムが以降2世紀にわたって君臨してきたのだという。そして、1780年から1815年にロンドンに移り、さらに1929年にはニューヨークに移動したのだとしている。
    ブローデルはこれらの移動の歴史を著述していくのだが、なかでも「産業革命」の叙述には力が入っていて、前段階の諸ツールや情勢やイギリス経済のびしろなどについて熱のこもった言及をしていたのが興味深かった。
    そして最後にブローデルは資本主義について次のように述べている。
    資本主義は国際的な資源と機会との搾取の上に成り立っており世界規模で存在し世界規模を目指すものである。しかし、世の中は資本主義のみで成り立っているのではなく、「物質文明」「市場経済」「資本主義」の三領域を取り込むことは決してできない。だが一方において資本主義は独自性と強さがあり、一つの手管から他の手管へ、一つの活動形態から他の活動形態への変わり身の早さ、諸状況に応じた頻繁な計画変更の素早さ、それでいて、それ自身にかなり忠実で、かなり首尾一貫性したままであると喝破する。
    そのうえで「資本主義」と「市場経済」の概念の分離を強く訴えかけている。

    フェルナン・ブローデルは彼の長大で斬新な視点の著作物において20世紀の歴史学に大きな影響を与えた人物であったが、彼の渾身の講演テキストには確かに圧倒された。
    いままでアナール派については自分自身避けていた部分もあったのだが、今回、その面白みについては再認識させられたように思う。
    いま、彼のもう一つの大作であり原点である『フェリペ二世の時代における地中海と地中海世界』を無性に読んでみたくなっている。でも、お金と時間が・・・。(泣)

  • 著者の代表的著作「物質文明・経済・資本主義」のダイジェスト的解説を講演形式で行った記録を本にまとめたもの。そのため、講演の形態も同書の構成にならい、各章を各巻に対応させる形をとっている。各頁の欄外に注釈と重要な術語を配したレイアウトは非常に参照しやすい。
    歴史を出来事の連鎖として叙述するのでない、そうした歴史観、これはおそらく吉田健一が「時間」でのべている事と重なり合うのだと思うが、それを明確に語るだけの言葉をまだ持たない。

  • 本書はブローデル入門には最高の一書だ。
    ブローデルによる大著「物質文明・経済・資本主義」の内容を講演という形で何回かに区切り紹介したもの。
    時事系列による縦軸の時間領域しか存在しなかった歴史考察において水平軸の空間領域を考察することで歴史学の捉え方を全く新しい領域で観察したブローデルを初めとするアナール派。
    人々の生活する日常において変化し積み重ねられる物質生活を考察し近代資本の礎を見いだしたのは限りなく新しい視点である。

  • ブローデルの大著「物質文明・経済・資本主義」の著者本人による入門書。「資本主義」とは何か、それはどのように誕生したのか。歴史の初心者にもわかりやすく読めるようにするための豊富な注釈に、重要キーワードの欄外抜き出しなどと親切設計。

  • 分類=歴史学(ブローデル)・経済。95年8月。

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