災害報道とリアリティ―情報学の新たな地平

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  • 関西大学出版部
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784873547473

作品紹介・あらすじ

報道の危機が叫ばれて久しい。そうしたなかで災害報道も苦境に瀕している。被災の現実を迅速に伝えようとしても、逆に被災者に迷惑をかけてしまう事態がネットにさらされ、「マスゴミ」と揶揄される始末である。情報の伝え手と受け手の信頼関係が底抜けしている。徒労感や閉塞感が充満している。情報テクノロジーが高度化すればするほど、情報空間は貧しくなってきているとさえいえる。
こうした事態を真摯に受け止めるとき、これまでに何度も議論の俎上に載せられてきた「災害報道のベターメント」の問題に関して、解決に向けたあらたな一歩を踏み出すためには、虚心坦懐に理論の立脚点を問いなおしたり、実践上のアプローチを替えてみたりすることが求められるのではないか。これが、本書の核となる問題意識である。
満身創痍の災害報道に対する処方には、特効薬はない。しかしだからといって、場当たり的な対症療法に終始するのではなく、根本治癒を目指したものでなければならない。
そこで本書では、まず「情報」の特性を再定義して、コミュニケーションモデルを描き直し、リアリティの水準から論を興す、新たな地平に立つことにした。人々の命を救う緊急報道、人々の命を支える復興報道、人々の命を守る予防報道の三局面に関して、災害報道のありかたをトータルにまなざす視座を確立しようとしている。
そのねらいは、本書の構成を外観すれば容易に理解されるであろう。第Ⅰ部は、理論編。情報学の観点から、本書のキーコンセプトであるリアリティとは何なのか説明している。第Ⅱ部は、分析編。第Ⅰ部で抉出したセオリーで、現況の災害報道の課題点を再整理してみせる。そして第Ⅲ部は、実践編。空理空論を言い放しにするのではなく、筆者自身が尽力しているプロジェクトを例に、「災害報道のベターメント」の勘所を探索している。理論と実践を往還すること。理論を実践で鍛え上げ、実践を理論で彫琢すること。これこそがいま、問題解決型のアカデミズムにおいてもジャーナリズムにおいても求められている。
自然災害・社会災害が頻発する現代社会において、災害報道をめぐる根本問題にメスを入れることは、すでに待ったなしの状況にある。ただしそこで、短絡した発想を持ちこんで事態の上書き・上塗りをするのであれば、かえって混乱の渦を激しくする逆機能を起こすにちがいない。大胆に、かつ冷静に。「災害報道学」(Disaster Journlism)の礎石となることを目指した待望の書が、ようやく世に放たれる。

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著者プロフィール

関西大学社会安全学部 教授
1994年にNHKに入局。約20年間、ディレクターとして災害報道などに携わる。
NHK 神戸放送局「震災メッセージ」シリーズの企画・制作で、2004年、
総務省消防庁の「防災まちづくり大賞」(消防科学研究センター理事長賞)を受賞。
NHKスペシャル「メガクエイク 巨大地震 〜KOBE 15秒の真実〜」(2010年)で、
科学技術映像祭・内閣総理大臣賞、中華人民共和国・国際科学教育番組コンクール・銀獅子賞を受賞。
2013年に京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻(博士後期課程)指導認定退学、博士(情報学)。
翌年NHKを退職し、関西大学社会安全学部安全マネジメント学科の助教となる。
2015年春に、同・准教授、2022年春に、同・教授。現在に至る。
2023年春から、京都大学防災研究所・客員教授を兼務。
2018年度、日本災害情報学会・廣井賞(社会的功績部門)受賞。
2019年度、ぼうさい甲子園グランプリ受賞。
2019年度・2020年、ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)金賞を受賞。
2022年度、日本災害情報学会・廣井賞(学術的功績部門)受賞。
人と防災未来センター・リサーチフェロー、日本災害復興学会理事、日本災害情報学会理事、社会貢献学会理事、地区防災計画学会幹事などを務める。

「2023年 『コロナ禍と社会情報』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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