日中戦争全史 上巻

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著者 : 笠原十九司
  • 高文研 (2017年7月18日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784874986240

日中戦争全史 上巻の感想・レビュー・書評

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  •  日中戦争研究の第一人者による待望の通史。「戦争には「前史」と「前夜」がある」というコンセプトのもと、1915年の対華21ヶ条要求、1918-22年のシベリア干渉戦争、1928年の山東出兵・張作霖爆殺事件を「前史」と位置づけ、それらがどんな文脈・どんな点で戦争への道を準備したかを辿っていく。上巻は、満洲事変・華北分離工作、蘆溝橋事件から南京占領までを記述。

     先日、小林正樹の映画『東京裁判』を見たが、東京裁判で検察側が行った(ある種無謀な)企ては、いつ・誰が・どのように日本の戦争を準備し、実行したかという「大きな物語」の創作だった、と言える。だが、15年以上にわたって、A級戦犯たちが日本の政治・軍事の実権を握り続けたわけではなかったことは誰でも分かる(唯一の該当者はヒロヒトだけだ)。
     笠原の日中戦争史の特徴の一つは、陸海軍が互いに競い合うように行った各種の謀略が、一部過激分子の盲動というよりは、陸海軍の予算獲得という直接の利害関係と一体だったことを明証したことにある。境界領域でくり返された衝突を「危機」という表象に変換し、その表象を政治的な資源とすることで、軍は政治的ヘゲモニーを獲得していった。その動向は、近視眼的に政敵の打倒を目指した一部の政党政治家によって支持・支援され、ヒロヒトによって追認されることで、戦争機械の進行に歯止めをかけることさえ難しくなってしまった。
     1930年代-40年代の日本の戦争に特徴的な〈中心の不在〉〈主語の不在〉は、政治的には、長期的な視野に立った政略戦略の不在として現象することになる。

     そのように描くことの反対の効果として、本書では蒋介石の政治的・軍事的戦略性に高い評価が与えられていく(それが本書の第二の特徴だ)。近代的な国防軍の構築を第一義的な目的として、日本に対しては宥和的な構えを取りながらも、国際連盟を活用した外交交渉によって日本を国際連盟から追い出し、第一次上海事変時には、自分にとってライバルとなりうる広東の第19路軍に消耗戦を強いていった。――確かにそれで説明は通るのだが、こうした蒋介石評価に対しては、別の角度から見直すことも必要ではないか、と思われた。

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笠原十九司の作品

日中戦争全史 上巻の作品紹介

戦争には「前史」と「前夜」がある。日本の戦争指導者たちが踏み越えていった、数々の「point of no return(戦争回避不能な段階)」とは何か-日中戦争研究の第一人者による集大成!

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