夜を賭けて (幻冬舎文庫 や 3-1)

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877284503

感想・レビュー・書評

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  • 在日同胞を慰めるために書かれた本なのかな、と思いました
    日本人は徹底的に冷酷に、かつ弱々しく描かれています
    その割に、行動理念の矛盾を刺すような問いを、同胞等から指摘されることが地味に散りばめられています

    被害者意識からくる道理を押し通し、鉄や銅線の泥棒行為を正当化する様にはちょっと引きました
    「日本人」と大きな主語を憎む割に、いざ「朝鮮人」と憎悪を向けられると怯む純粋には目を瞠りました
    デカい主語で他所を叩くわりに、自分達の犯罪行為を総括をしない振る舞いもどうかと思いました
    窃盗行為の挙げ句に日本警察に因縁をつける生き様には、一切の逞しさは感じませんでした

    あれだけ反社会的行為を送りながら、長閑な余生を過ごす結末にはご都合主義を感じました
    梁石日先生の筆力でありのままを書いたのか、それとも露悪的な脚色なのか、どういう思惑で執筆されたのか計りかねました
    あと汚い話なのですが、糞尿の描写が多過ぎて読んでて気分が悪くなりました

    どういう感想を持てばいいのか分からなかったです

  • 昔読んだ本

  • 前半を読んでいたときに感じた、疾走感や、怒涛の勢いが、後半にどんどん削がれて、剥がされていくのがじつに素晴らしかった。

    この作品には、やたらと鮮度と生々しさが感じられた。
    それは綿密な調査、取材によるものではなく、自分の目で見て、耳で聞いたことを書いたからなのだと思う。

    アパッチ部族のストーリーを描いた作品は他にはあるが、他のはあくまでも取材されたもの、又聞きしたものだという違いが、読めばハッキリとわかる。
    どちらが好みだとかいう話ではなく。
    こちらには凄まじい温度がある。


    大阪砲兵工廠での仕事ぶりの、汗まで伝わってきそうな書き込みぶり。
    大村収容所での、まるでドラマや映画といった映像を見ていて、目を覆いたくなるような、もう見ていられない、と思わせるほどの描写。

    この本には一応救いがある。
    義夫を待ち続けた初子の存在である。
    だから読み終わって、少しほっとした。

    しかし本を閉じて、救いがあったのはごくわずかな人だけであったことを思い出す。
    大阪砲兵工廠でもたくさんの人が消え、そしてそれよりもっとたくさんの人が帰国していった。
    そして最後の義夫のまくしたてた言葉。
    もうわたしの想像できる範囲をゆうに超えたおそろしさに、背筋が震えた。

  • {(開高健「日本三文オペラ」)+(帚木逢生「三たびの海峡」)}÷2
    ≒「夜を賭けて」
    第一部は「日本三文オペラ」に良く似てます。というより、アパッチ族の活躍は著者の梁石日(Yan
    Sogiru)の実体験に基づく物であり、開高健は著者を取材して「日本三文オペラ」を書き上げたのだそうです。発表年度はこの本の方がずっと遅いのですが、本家はこちらという訳です。作品としての質の高さも差は無いレベルでしょう。だた、個人的には「三文オペラ」の躍動感やカラッとした放埓さのほうが好みです。
    第二部はあまり知られていない朝鮮人迫害の実態が主題になります。日本に社会的に迫害され、収容所内では同じ朝鮮人にリンチを受け、八方ふさがりの暗く重いテーマです。その中でヒロインとなる女性が唯一の光であり、そういう意味で「三たびの海峡」を思い起こすのかもしれません。帚木さんほど端麗な語り口ではありませんが、やはり「過ぎる表現」を使うことなく物語が進みます。ただ、やや散漫さを感じさせます。
    「日本三文オペラ」も「三たびの海峡」も私の大好きな作品です。どうしても後で読んだこの本を比較してしまい、やや辛口の感想になってしまいました。しかし「もし読了順が逆だったら?」と思わせる位に良い作品だと思います

  • (欲しい!/文庫)

  • 在日の人の底力を感じた
    生きることは波乱の連続かもしれない

  • p323

  • 開高健の日本三文オペラを読んだ後、アパッチ族にとても興味がわいて
    その勢いで1日で読み切ってしまった。
    どんな過酷な状況下においても人間の゛生きたい゛という思いは
    鮮明で生き生きとして生臭い。
    開高氏の作品よりも笑いどころが多く、こちらの作品も一人一人がとても
    魅力的だ。
    素晴らしい小説である。

  • 終戦当時の在日コリアン達の凄まじい生活模様が描かれています。

    今の僕からは想像できない生活にびっくりした。

    臭い物には蓋する的な観点からなのか、あまりオープンにならない部分がよく見えた気がします。

    それにしてもどん底の環境で明るく生きる登場人物達のエネルギーは凄い!

  • 開高健、小松友京らが活写した。大阪アパッチ族なぞ在日朝鮮人の視点から描ぐ
           
     JR大阪城公園駅を降り、駅から広大な森林公園を一望する。正面には改装された大坂城がそびえ、左手には巨大な亀の甲のような大阪城ホールがどっしりと腰をすえている。 黒く澱んだ猫間川向こうにはツイン21などの高層ビル群が林立しているのが見えた。
     52年前の8月14日、アメリカ空軍は、日本がポツダム宣言を受諾すると分かっていたにも拘ず、この広大な撒地に建っていた大阪造兵廠を猛爆し、跡形もないほど破壊しつくした。
      多量の爆弾を食らった大阪造兵廠は、不発弾が多く危険だという理由で長い間放置されていた。城東線(環状線)に乗る人は、電車の窓から、焼けただれた鉄骨や崩れ落ちた建物の瓦礫が盛り上がる荒涼とした風景を眺めていたのだ。
      敗戦も10年たった頃、瓦礫に埋まった鉄屑を盗品する者が現われ、アパッチ族と呼ばれた。取り締まる警官と彼らとの間に壮絶な戦いが繰り広げられる。
     今回はアパッチ族の戦いを在日朝鮮人の視点から描いた梁石日の「夜を賭けて」を紹介しよう。
     梁石日は1936年大阪生まれ。主な著者に「タクシードライバト日誌」「夜の河を渡れ」など。各賞を総なめにした映画「月はどっちに出ている」の原作者といった方が分かり易いかもしれない。
      「夜を賭けて」は詩から始まる。「……猫魔河の泥沼を船で渡ると/数十本の巨大な煙突が聳え立つ/造兵廠跡にやってきた/空間の気流は粘液のように/焼けただれた鉄骨や/爆破した煉瓦や/ぼうほうとしげる雑草をとりまいている/しだいに霧がおおいかぶさり/地下に眠りつづけていた国籍不研者たちが/重い石棺の蓋を押しあげ/ツルハシを背につきからつぎへと/廃墟の地上に現れた…」
     さて、舞台は猫間川沿いにバラック小屋を建てて住みついた在日朝鮮人集落。一人の婆さんが、廃虚から拾ってきた金属が5万円で売れた話から始まる。時代は日本始まって以来の高景気といわれた、神武景気が終わり「なべ底」不況へと転落した1957年頃である。
     集落の老若男女は、婆さんの話に飛びつき我先に廃虚での盗掘を始める。が、これにあわてた造兵廠の管理者である近畿管理局は警備を強化したことから、守る方と盗む方の壮絶な攻防戦となるのだ。
     昼間が目立つなら夜の暗闇に、道路を遮断されれば猫関川を船で渡るなどと、縦横無尽の活躍を重ねる。
     梁石日により活写された在日朝鮮人の生活と、この攻防戦の様子の面白さはピカーである。「月はどっちに出ている」と同質の面白さといったら分かってもらえるだろうが。しかし、彼らは次第に警察に追いつめられ、ついに主人公のひとり金義夫まで捕まってしまう。金義夫は証拠不十分で釈放されるが、大村収容所に送られてしまう。
     作品はここから後編になるのだが、作品の技法もがらっと転換する。収容所の中での「北」と「南」の民族争い。差別されているうっぶんを差別者となることでしか気をはらせない大村収容所の役人。在人朝鮮人を減らす目的で建設された日本のアウシュヴィツツ大村収容所の実態。読み進むほどに、自分があまりにも当時の在旧朝鮮人が置かれた実態を知らなかったことに、重い気持ちになってくるが、そこに義夫を慕う初子が彼を救い出すために単身長崎にやってくることで、純愛小説の様相を持ち始める。初子は一人で救出に乗り出す。
      このアパッチ族の戦いは、大阪出身の作家によほど深い印象をあたえたのか、開高健は「日本三文オペラ」を、小松左京が日本アパッチ族」を発表している。3作を続み比べれば分かるが断然「夜を賭けて」が面白いと思う。

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著者プロフィール

1936年生まれ。『血と骨』『夜を賭けて』など作品多数。

「2020年 『魂の痕(きずあと)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梁石日の作品

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