写らなかった戦後〈2〉菊次郎の海 (写らなかった戦後 (2))

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著者 : 福島菊次郎
  • 現代人文社 (2005年7月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877982621

写らなかった戦後〈2〉菊次郎の海 (写らなかった戦後 (2))の感想・レビュー・書評

  • 2015年に94歳で亡くなった写真家・福島菊次郎が、子どもの独立を機に瀬戸内海の無人島に入植を試みて奮闘。やがて地主との確執やパートナーとのすれ違い、肉体的な限界によって敗退を余儀なくされるまでの2年を描いたノンフィクション。
    晩年の、ある種「ジャーナリズム界で聖人化された“福島菊次郎”像」しか知らない身にとっては、60代でなお無人島での自給自足を目指した反骨のエネルギーにひたすら驚く。1983年といえば、僕はまだ生まれてすらいない。
    文章は硬質で明瞭だが、写真家の書く客観的なそれ……というより、がっつり活動家系ジャーナリストの前のめりな文体。最終的に様々なしがらみによって、無人島入植を断念するのだが、撤退時に家に火を放って自殺しようとしたり、飼い犬に青酸カリを盛って心中図ろうとしたり(いずれも未遂。犬は蘇生)と、かなりやることがハードコア。
    とはいえ、右肩上がりイケイケどんどんの時代の日本で、ひたすら「孤高のフォトジャーナリスト」であり続けるためには、常識はずれの異質なモチベーションが必要だったのは間違いなく、カメラのこちら側の「人間・福島菊次郎」を知るにはこれ以上の著作はない。
    入植時の準備資金の明細まで記載した異色作。戦後日本における、歪んだ「森の生活(ヘンリー・D・ソロー)」と言えるかもしれない。嫌いじゃないですが、柴犬は大切に。

  •  報道写真家福島菊次郎氏のルポルタージュ第2弾です。これは都会での生活がいやになり、1982年の62歳の時に瀬戸内海の無人島・片山島で自給自足の離島生活を目ざし、単身で入植活動を始めます。その中で出会った人々やその時の思い、特に片山島での生活に備え、船舶免許を取得し、井戸掘り・家作り・畑作り・鶏の飼育などといった一連の作業で生じたアクシデントや、苦労した話が書かれています。農具・船具・工具などの機材一覧を揃え、また畑作業で重要な土作りや堆肥作りをしているなど、具体的に作業内容が書かれているため、離島生活・有機農業をしたい人にも役に立ちそうな本だなと感じました。
     また、自分が印象的だったのは、畑を荒らす山羊を飼っている犬に追い払わせ、時にはためらいながらも殺して埋めざる負えなくなったという話はすごいなと感じます。食料・物資がなくなり、戦時中に飢えた日本兵が戦友の屍肉を食べ、アンデス山脈に墜落した旅客機の生存者も犠牲者を「神の聖餐」と称して犠牲者を食べて生還したという話などを引き合いに出し、自分も覚悟しなければいけないという話は心に残っています。特に「いくら畑を荒らそうと、山羊はこの島で平和に暮らしてきた先住者で、侵入者は僕たちだった。強いものが弱いものを支配する論理が横行するかぎり、不条理は拡大してゆく」という言葉は考えさせられるものがありました。さすが、戦前は軍隊を体験し、戦後は原爆問題・学生運動などといった社会問題を追い続けた報道写真家らしい言葉だなあと感じました。
     さらにひょんなことから東京で出会い、32歳も年が離れ、妻でも恋人でもない同居人の山田紗英子さんとの生活、無人島生活中に胃がんを発病した事、片山島周辺の伊保田・下田・沖家室島・大水無瀬島などといった瀬戸内海の漁村の状況も書かれていたことも印象的でした。特に今では有名になっている上関原発の建設反対を目指して動いている祝島漁民たちによる反原発運動の取材も書かれており、それも興味深かったです。

  • 激動の昭和をカメラに捉えた著者は、カメラを捨て無人島で生きたが、再び写真の世界に舞い戻った。時代の変遷と流浪の旅路を描く。再び切られるシャッターを通して写る今の日本を思いのまま語る。

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写らなかった戦後〈2〉菊次郎の海 (写らなかった戦後 (2))の作品紹介

定住の概念さえ忘れ、彷徨い続けた半生。妻と別れ、三人の子とともに東京の雑踏へ漕ぎだし、六、三六四点の写真とともにその名を世に知らしめた。秋の山肌のような藻場、人間界のしがらみなど無縁に、自由に、残虐に、生きとし生けるものたち…。カメラを武器に反動化する世相を相手に闘ったが、メディアの自己規制により絶望感は募る一方だった。やがて日本人であることすら忌避し、瀬戸内の無人島に移り住んだ。生を憧憬しながら、寄せては返す甘美な死の誘惑の波。その波に幾度となく足をすくわれながら、写した責任を果たすため、一度は捨てた写真の世界に舞い戻り、ドキュメント写真の新しい活路を切り開いた。伝説の報道写真家・福島菊次郎、一葉万里の半生記。

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