堕ちた天使: アザゼル

  • 作品社
3.73
  • (2)
  • (8)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 41
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784878933844

作品紹介・あらすじ

一八七六年、モスクワ市内の公園で、衆人監視の中、若い男がロシアン・ルーレットによりピストル自殺を遂げた。男はモスクワ大学の学生で財産家の御曹司。なぜ、そのような自殺の方法を選んだのか?事件の捜査にあたるモスクワ警察特捜部の若き刑事エラスト・ファンドーリンは、自殺した若者の周辺を洗っているうちに、多くの男たちから崇拝されているアマリヤという絶世の美女の存在を知る。彼女のとりまきのひとりで亡くなった学生の友人に接触して情報を得ようとした矢先、ファンドーリンはその学生とともに暴漢に襲われ、ナイフで刺される。朦朧とした意識の中…暴漢が口にした言葉"アザゼル"とは?世紀末ロシアを舞台に、若き刑事ファンドーリンが巨大な陰謀に立ち向かっていく。ロシア国内で絶大な人気を誇る歴史探偵小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 自分がミステリーモノでなくなって暫く経つように思うが、ボリス・アクーニンを知ってミステリーの楽しさ、それはコナン・ドイルを読書遍歴の根源とする自分にとって読書の楽しさそのものとも言えるけれども、を久しぶりに堪能することができることが単純にうれしい。そんな自分のミステリーに対する不真面目さを棚に上げておいて言うのもおこがましいが、ファンドーリン・シリーズを途中から読み始めた者はきっと、このシリーズ第一作の「堕ちた天使−アザゼル」を読まずにはいられないだろうと思う。

    もちろん、シリーズ3作目・4作目の中で度々触れられていたファンドーリンの過去、その謎が解けてすっきりすることは間違いなし。しかし、そんなことよりも、シリーズ第一作のこの本からボリス・アクーニンがとてつもなく大きな絵を描いていたことに驚いた。そして悔しく思うのは、このシリーズの未読の作品がいつくもあるというのに、原作で読むこともままならず、じっと露語からの邦訳を待つしかないということなのだ。(いっそのこと英訳で読むかとも思う)

    それにしても、ファンドーリンの人物像が余りに大きく違うことに驚く。もちろんファンドーリンが過去に何か大きな教訓を得て、そのことによって成長したのであろうことは仄めかされていたけれども、最初から快刀乱麻の如く活躍するホームズとの対比を待つこともなく、ヒーローとしての登場の仕方としては随分と微笑ましいところのある好青年振りである。その影で、そんな好青年が知る由も無い巨大な「悪」が蠢く構図。この息の長いロシア音楽のフレーズを思い出させるような枠組みを見て、ボリス・アクーニンの文学者として力量に想いが至る。

    しかも、このカギ括弧付きの「悪」は古典的な探偵ものにありがちな勧善懲悪の「悪」ではなく、タイトルが暗示するように、善を補完するようなもの、それはすなわち現在の為政者が、あるいは社会構造が肯定する「善」と対峙し、より人間的な側面を保護する存在としての「悪」である。

    そんなボリス・アクーニンの意図する深い思いを底流に感じながら、ファンドーリンの成長していく様を眺めるとこのシリーズの人気が改めて解るような気がしてくる。

    しかしファンドーリンと日本のつながりについて、この一作目は何も教えてくれなかった。ああ、結局何とかして2作目を読まなければならない気持ちが残ってしまうのが、悔しくもありうれしくもあり、というところである。

  •  ロシアの人気作家、ボリス・アクーニンの大人気シリーズ(らしい)。
     ファンドーリンという若干うだつのあがらなさそうな青年警官が活躍する歴史探偵小説。
     日本で言うところの時代小説だとおもう。
     うだうだしながらも1日で読み終わったしてしまった。

  • おすすめ資料 第126回 アクーニン文学のすすめ(2011.8.5)
     
    暑い夏がやって来ました。
    夏休みの間、普段読めなかった長編小説に読み耽る予定の方も多いことでしょう。
    そんな時の"ちょっと一休み"におすすめなのが、現代ロシア小説家ボリス・アクーニンの探偵小説『堕ちた天使―アザゼル』です。

    舞台は19世紀後半のロシア。
    みなさんご存知のトルストイやドストエフスキーと言った有名作家たちが生で生きている時代です。
    とは言っても作風は、かの作家たちとはまるで異なり、至って現代風。
    読み進んでいくと、時代が19世紀なのだ、ということをつい忘れてしまいそうになります。
    物語は、若き刑事である主人公エラスト・ファンドーリンが巧みな推理力と行動力で陰謀に立ち向かっていく、という探偵推理ものです。

    原書では"エラスト・ファンドーリンの冒険"と銘打ち、シリーズ化もされています。
    日本でも他に2作品(『アキレス将軍暗殺事件』、『リヴァイアサン号殺人事件』)が翻訳されており、シリーズ完全翻訳が待ち遠しいところです。

    さて長くなりましたが、これに関連して最近新しい本が受入れされました。原書の<<Азазель>>,<<Левиафан>>です。
    但し、外国人向けのロシア語学習読本仕様(2300語レベル、力点付)になっていますので、2年生以上であれば十分に楽しめるのではないでしょうか。

    また、<<Азазель-Борис Акунин в комиксах->>も併せて受入れしています。
    こちらは『堕ちた天使―アザゼル』のカラーコミック版となっています。
    本を読んでからならもちろんのこと、読む前でも、ロシアの漫画の絵はこんな感じなのだなぁ、と意外な楽しみ方もあったりして面白いと思います。

    この夏、ファンドーリンと一緒に19世紀ロシアの街中を歩き回ってみませんか。
    内容は流石に重苦しい部分もありますが、それもまた一興。
    きっと読み進める内にファンドーリンと仲良くなれると思います。
    ぜひ手に取ってみて下さい。

    なお余談ですが、アクーニンというペンネームは、日本語の「悪人」から名付けているそうです。
    作家が大変な日本通だそうで、私たち日本人としては嬉しい限りですね。

  • ロシアのミステリと聞いて読んでみた。凄かった。人を食った自殺事件から始まって、ファムファタル、国際的テロ集団、国を跨いだ陰謀とどんどん大きくなっていく話に主人公が翻弄されていく。シリーズとのことなので続きが楽しみ。

全5件中 1 - 5件を表示

ボリス・アクーニンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×