火葬人 (東欧の想像力)

  • 松籟社
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本棚登録 : 280
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879843128

作品紹介・あらすじ

ナチスドイツの影が迫る1930年代のプラハ。葬儀場に勤める火葬人コップフルキングルは、妻と娘、息子にかこまれ、幸せな生活を送っている。しかしその平穏な日常は、時代状況や親ナチスの友人の影響を受けながら、次第にグロテスクに変質していく……

感想・レビュー・書評

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  • 作者自身が体験した身近、身の回りで起こったホロコースト。じわじわと始まり、最初は父親達が働けなくなり、同級生が消えて行く。本人の父親は警官で手を下していた側であった。自身はユダヤ人ではないが同性愛であり、絶えず恐怖にさいなまれていた。その気持ちがピュアに繊細にこの作品に投下されている。ある家族がいて、火葬場に勤めていた。自分は家族をこの上なく愛していると常々感じていた。これがまんま国に起きて、国がしてきたこと。読者は家族の話を読んでるつもりで、実際に国に起こった出来事を読まされていた。

  • 火葬場で勤務する小市民コップフルキングル氏。
    段々とサイコパス感が増幅してくる。

  • ふむ

  • これ、どこからチョイスしたのか忘れていて、改めて探し直してみると、何とYA向けブックガイドからだった。というのは、自分の想像力がちっとも追いつかなかったから。当初の自分だったらもう少し深く理解できたのかも…とか、厳粛な感情を抱けたのかも…とか、いろいろ思うところあり。でもとにかく、今の自分にはとにかくつまらんかった、ということだけ。

  • ナチスが台頭する1930年代末のプラハ。火葬場で働くコップフルキングルは妻と子を愛し、酒も煙草もやらない模範的な市民だが、何かが少しずつ歪み始める…。男は一見すると良識的な人物だが、すでに何かを放棄した後なのか中身は虚ろで、他者への共感が欠如してしまっている。家族や友人に色々話をしているようだが、相手の声が殆ど聞こえないので、一人壁を向いて話をしているのではないか?と気味悪くなった。終盤で男が、葛藤した末の選択ではなく、ごく自然に、何の痛痒も感じず一線を超えていった事に底知れない恐ろしさを覚える(1967

  • 文学

  • 第二次世界大戦直前のチェコで始まる。主人公はドイツの血をひくコップフルキングルという火葬人なんだけど、そのうちにナチスに取り込まれてユダヤ系の奥さんと子を手にかけるという話。なんかロボットのような主体性を感じない主人公とちょくちょく出てくる体格いい杖の男とヒステリーな女が不気味。

  • 訳者の阿部賢一さんが、あとがきで、フクスの回想録の次のような一文を紹介している。

    『探偵物や犯罪物、あるいはホラーといったジャンルは、思慮深く、そして趣味よく手が加えられていれば、文学的な価値を低くするものではない』

    その通り、本作はホラージャンルでありながら、純文学としての価値も併せ持つ、小説として最高の逸品です。

    舞台は1930年代後半のプラハ。
    ……と、なると……まず簡単に想像する「恐怖」は、彼らに忍び寄る足音と、迫害の未来でしょう。しかし、本作はそこが中心ではなく、最愛であった筈の、ユダヤ人の妻を殺してしまうに至るまでの主人公の心理変化を、なんとも不気味なセリフでもって、陰鬱に、グロテスクに描かれたホラー小説です。

    一行目から、『優美なる妻よ』とあるように、主人公のコップフルキングル氏は、家族を呼ぶ際は、『いとしい』や、『天使のような』や、『大切な』や、『美しい』といった呼び方を、繰り返し繰り返しします。いかがわしいほどに繰り返されます。
    そしてこの蓄積が、終盤にコップフルキングル氏が発するたった一言で、一気に恐怖となって襲い掛かってきます。そこからは、主人公の狂気に巻き込まれて、読者は極上のホラー感覚を体験していくでしょう。

    今年、これからあと何冊読むか分かりませんが、間違いなくベスト5に入る傑作でした。

    日本のホラー小説(もはや小説ですらない作品)が、ぜんぜん恐くない、とお嘆きの方は、ぜひご一読を(^-^)

  •  「苦しみは取り除かれねばならない、少なくとも和らげ短くしなければならない」という確固とした信念を持つ主人公が、ナチスの思想に呑み込まれていくまでの推移が描かれる。

     どんなときでも優しい笑みを浮かべている主人公の姿は、善き夫/父/友の理想像そのものではあるが、終盤の展開においてはおぞましさしか感じ取れなくなった。
     途中3度も現れる喜劇めいた夫婦のやり取りも、独善的に「常識」を押しつけ妻を否定する夫の態度が実は、主人公の本質を示唆するものだったように思える。

     同じ言葉の繰り返しが多いのも、とても不気味だ。

  • ふつうの人間に潜む狂気。

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著者プロフィール

1923年、プラハ生まれ。カレル大学で博士号取得後、学芸員として国立美術館等で勤務。並行して短編を雑誌に発表していた。
1963年に長編小説『テオドル・ムントシュトック氏』を発表。収容所への移送を待ちかまえるユダヤ人の心理を幻想的に描き、一躍脚光を浴びる。ユダヤ系の出自ではなかったフクスだが、ユダヤ系住民と同じく同性愛者が迫害されるのを目の当たりにし、自身も同性愛の傾向を持っていたために衝撃を受け、ユダヤ系の人びとに共感を抱くようになったと言われる。
ほかの作品に本書『火葬人』や『公爵夫人と料理人』など。
『火葬人』は、ユライ・ヘルツ監督によって映画化されている。

「2013年 『火葬人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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