Win's Story of Hope ウィンの希望のものがたり ― Always Your Child いつも あなたの こども ―
- じゃこめてい出版 (2012年6月14日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (110ページ)
- / ISBN・EAN: 9784880434292
感想・レビュー・書評
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小栗幸夫『Win's Story of Hope ウィンの希望のものがたり ― Always Your Child いつも あなたの こども』は日本語と英語の両方で書かれた絵本である。事故で亡くなった子どもの物語である。とても悲しい出来事を扱っているが、タイトル『希望のものがたり』の通り、希望の物語になっている。物語の世界観は大ヒットソング「千の風になって」を連想する。命の大切さや親子の絆を教えてくれる。
著者は「自動車と道路があまりに重視され、コミュニティと自然が破壊され、多くの人間が死傷する状況」に問題意識を持っている(103頁)。そこで交通事故被害を減少させることを目的として、スピードを抑制するソフトカーの開発・普及に取り組んでいる。
『ウィンの希望のものがたり』の着想は2000年代からあったものの、未曽有の被害を出した東日本大震災の衝撃によって中断を余儀なくされた。しかし、2012年6月という出版時期は交通事故被害を訴える上で奇しくもタイムリーとなった。大阪の西成などでヤンキーによる暴走事故が相次ぎ、自動車が凶器であることを再確認させたためである。
ヤンキーの暴走は許し難い暴挙である。無軌道なヤンキーを糾弾することは正当である。危険な暴走の一因になった覚醒剤や脱法ドラッグの問題に斬り込むことも正当である。しかし、車社会そのものに異議を申し立てる視点も重要である。
震災当初は無力感を覚えた著者であったが、東日本大震災と福島第一原発事故の甚大な被害が『ウィンの希望のものがたり』の出版を後押しすることになる。著者は「原発への厳しい批判は当然」と語る。同時に自動車を無際限に増加させた車社会も批判されなければならないと主張する(106頁)。ここに著者の骨太さがある。付和雷同的に「放射能怖い」「日本は滅びる」という類の「放射脳」から脱原発を叫ぶ軽薄な人々とは異なり、自分の問題意識を貫いている。
交通事故被害は非常に多いが、東日本大震災のように多数の人々が同時に被害に遭うものではないために当事者限りの苦しみで終わりがちである。同質性の強い日本社会では東日本大震災のような同時に多数の被害者が出るケースには強い同情心を示すものの、異なる立場の人々の苦しみへの理解力や共感力が乏しい(林田力「東日本大震災の液状化被害は土地造成の問題」PJニュース2011年5 月24日)。それ故に交通事故被害の悲しみと震災・津波・原発被害の悲しみをつなげる『ウィンの希望のものがたり』は意義深い。
『ウィンの希望のものがたり』とは対照的に出版直後の6月28日に東京都は木造住宅密集(木密)地域に都市計画道路を整備すると発表した。広い道路を作ることが災害時の安全につながるとの発想であるが、住宅への耐震助成や不燃化助成ではなくて道路整備というところに車社会の呪縛に囚われている。『ウィンの希望のものがたり』の価値観が広まることを期待する。詳細をみるコメント0件をすべて表示