空気をもとめて―COMING UP FOR AIR

  • 10人登録
  • 3.50評価
    • (0)
    • (1)
    • (1)
    • (0)
    • (0)
  • 1レビュー
制作 : George Orwell  大石 健太郎 
  • 彩流社 (1995年2月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882023296

空気をもとめて―COMING UP FOR AIRの感想・レビュー・書評

  • ジョージ・オーウェルといえば、『1984年』や『動物農場』、あるいは『カタロニア讃歌』といった有名な作品が思い浮かびます。これらの強いイメージが彼の作風を固定化してしまっている観も否めませんが、この『空気をもとめて』という作品は、鋭い寓意や政治的アレゴリを排除した小説らしい小説に仕上がっていて、ちょっと驚き(^^♪
    まるでさえない中年男の甘酸っぱい郷愁はイタロ・カルヴィーノ『マルコヴァルドさんの四季』のように可愛らしく、かたや天気のようにくるくる変わる意識のうつろいは夏目漱石『坑夫』のように面白い! あいかわらず冴えた筆致に、珍しい独白調の文体が魅力的。もっと多くの人に読まれてほしい作品です♪

    ***
    妻と二人の子と平凡な暮らしをしている保険外交員のジョージ・ボウリング。少年時代の思い出を糧に日々を過ごす彼は、ある日ふとしたことから、明けても暮れても魚釣りに熱狂していたあの懐かしい土地を訪ねてみようと思いたちます。

    「わたしは力をこめてアクセルを踏んだ。ロウワ―ピンフィールドへ戻ってみようと考えただけで元気が出てきた。この気持ちわかるでしょう? 生命の糧を求めに行くんだ! 海亀が海面まで浮かび上がって、水面から鼻面をつき出し、大きく一息、肺に空気を送り込んでから、また海の底に沈んでいく。われわれはみんなゴミ溜めの底にいて、窒息しそうになっている。だが私は浮かび上がる道を見つけた」

    著名なオーウェル作品は、一見すると、茫漠としたディストピア世界が広がり、悲観的で暗澹として、ときには息苦しくなってしまうのですが、そんな瓦礫のような世界の中にもほのかに灯る「生」の輝き、人間というものへの愛情や希望を感じることができます。
    『1984年』では、目を覆いたくほど打ちのめされてしまった暗黒世界の片隅で、鼻歌まじりで洗濯するたくましい肉体をもつ民衆がいる……そんな彼女らから生まれてくる命の萌芽に一筋の変革の光を見出すあたりは切ないほど感動的です。あるいは戦地に臨む一人の素朴な青年兵士の内奥にふと「水晶の精神」を見るところなどは、読みながら思わず涙がこぼれてしまいます(「カタロニア讃歌」)。

    さてこの作品では……咲き乱れる芝桜を前にしばし立ち尽くすジョージ・ボウリング。彼のもとに突如降りてきた<至福観>、「人生は生きていくだけの価値があるものだ」という啓示に私はいたく共感してやみません。
    オーウェルという人は、混沌としたこんな迷宮世界の中でも、人間が本来もっている生きる力や希望というものを的確にとらえて離さない、きっとある種の霊感と野生と豊かな創造性をそなえた作者ではないだろうか……そんなことを思ったりしながら作品を愉しみました。

全1件中 1 - 1件を表示

空気をもとめて―COMING UP FOR AIRを本棚に登録しているひと

空気をもとめて―COMING UP FOR AIRを本棚に「読みたい」で登録しているひと

空気をもとめて―COMING UP FOR AIRを本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

空気をもとめて―COMING UP FOR AIRを本棚に「読み終わった」で登録しているひと

空気をもとめて―COMING UP FOR AIRの作品紹介

1930年代末、イギリス。迫りくるファシズムと戦争の跫音を逃れ、男は故郷への道を急いだ……ある中年サラリーマンを通して鮮やかに描かれる〈普通の人〉の生の軌跡。20世紀末の状況を的確に予見していたオーウェルの現代文明批判。

空気をもとめて―COMING UP FOR AIRはこんな本です

ツイートする