七色の海 (ふしぎ文学館)

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著者 : 曽野綾子
  • 出版芸術社 (1994年6月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882930815

七色の海 (ふしぎ文学館)の感想・レビュー・書評

  • 「曽野綾子を読んでみた」第4弾

    出版芸術社の「ふしぎ文学館」というシリーズは編集が上手くて、新しい視点を提供してくれる。
    これは曽野綾子の数ある短編の中から怪奇・幻想小説十四編を選んだ短編集。出来不出来の差が激しくて、それが曽野綾子の特質を端的に表している。

    「蒼ざめた日曜日」「檻の中」「女はなんのために死ぬか?」「一眼獣」ははっきりしたオチのある娯楽小説だが、もっさりしていて野暮ったい。機知がまったくスマートでない。半世紀前の小説なのだからしかたない面もあるとはいえ。
    この種の話でなんとか楽しめたのが「競売」「飼育のたのしみ」。前者はオルゴールを落札した有閑夫人の元に黒リボンのついた白薔薇が送られてくるようになるという導入部が面白い。そのオルゴールは殺された銀行王のあごひげでできていて……という展開にわくわくするが、型通りのオチで期待がしぼんでしまった。前半傑作。後者がかろうじて駄作にならないでいるのは清潔な倫理観が根底にあるから。やはり曽野綾子は倫理の作家だ。

    十四編中、一般的に最も評価が高いのは「長い暗い冬」だろう。筒井康隆がおののき北村薫が瞠目した名編らしいのだが……私は前からこの短編のどこがいいのか、どこがそんなに怖いのか、さっぱりわからない。今回再読してみても感想は変らなかった。

    しかし「人間の皮」「七色の海」と比べて読むと曽野綾子の恐怖の根っこが見えて、違う意味で面白い。こちらは二作とも南国が舞台で、奔放な現地人や野蛮な独裁政治に日本人が翻弄される。一方、北の異国が舞台の「長い暗い冬」は日本人が西洋的社会に拒絶され排除される話。もしかしたら「長い暗い冬」は遠藤周作『留学』をコンパクトかつ不条理にしたものなのかもしれない。あてずっぽうだけども。

    「偏西風」は三浦半島に吹く風が心に残る。結びの一文が不穏でいい。因果応報譚「仏を攫う」は主人公が徹頭徹尾自分勝手なのがかえって楽しい。

    これまでの十一編だけなら(いいものもあるとはいえ)私はものたりない気分で本を閉じたかもしれない。しかし!残りの三編が傑作で、思わず興奮してしまったので、評価は一変してしまった。短編集には時々こういう逆転ホームラン現象が起きる。

    「お家がだんだん遠くなる」は幸せな家庭を築いたはずの男が妻の異常さに気づく話だ。おとなしい普通の女をめとったはずが、長い年月の中で少しずつ少しずつ、ぎょっとするような言動を見せるようになる。たいしたことじゃないさ、と目をつぶろうとする夫にチクチクと狂気の針が刺さり、蓄積されてゆく。サイコサスペンスの趣がある。

    「死者の手袋」も狂気の描写が見事な上、構成がスマートだ。娘の結婚を控えた家庭。しかし花嫁の様子がおかしい。臨時やといの家政婦の目を通して、過去の悲しい事件が浮かびあがってくるーー。上品なキリスト教徒の婦人が悪魔のような役割を果たす。曽野綾子はキリスト教徒なのに、キリスト教徒のいやらしさを描くことが多い。花嫁と母親のかみあわない会話にぞっとする。

    そして「山の湯」。これがすばらしい!絶品だ。山の湯で女教師が、自分が乗るはずだった飛行機の墜落を幻視した思い出を語る。次々にやってきた乗客は「みんなどうにもならないほど澄み切った顔つきをしている」という。
    「その顔つきを見ていると、彼らの表情の中の光と見えたものがやがて、彼らの皮膚を灼き切り、肉をふやけさせ、骨をとかしてめろめろになる情景が、私には見えてきました。彼らはすでに死んでいるのに、今、仮の生命をほんの少し与えられて、それとも知らず喜々としている」
    私はこの文を読んで、奇妙な感銘を受けた。なにか、曽野綾子が自分の宗教観を語っているような気がしたのだ。それは残酷で救いがなく、しかしだからこそ激しく求めずにはいられないなにか……。
    そしてこの女教師の語りが始まる前と終った後がまたしみじみと哀れ深い。人の世のはかなさに思いを馳せずにはいられなくなる。名作だ。今のところ「バビロンの処女市」と並んで曽野綾子のベスト。私がこの短編にこんなに入れ込むのは『火曜クラブ』『吾輩は猫である』のような人が集まって物語りまた別れてゆく話が昔から大好きだからなのかもしれない。最高だ。ものすごく私好みの小説だ。

    「山の湯」「死者の手袋」「お家がだんだん遠くなる」いずれも強迫観念を描いている。夏樹静子が本書に「普通の人の狂気を描いて圧巻」という推薦文を寄せているが、曽野綾子はそういう意味ではシャーロット・アームストロングに似ているかもしれない。

    初出一覧
    「蒼ざめた日曜日」文學界1958年1月号
    「鰐皮の財布を持つ男」(もとは独立した短編だったが後に「蒼ざめた日曜日」中の一編として組み込まれた)小説公園1958年1月号
    「偏西風」別冊小説新潮1969年10月号
    「檻の中」オール讀物1963年10月号
    「人間の皮」文藝春秋1965年1月号
    「競売」小説中央公論1962年1月号
    「七色の海」新潮1961年2月号
    「女はなんのために死ぬか?」別冊クイーンマガジン1960年春号
    「一眼獣」週刊女性1961年11月15日号~11月22日号
    「飼育のたのしみ」小説現代1964年4月号
    「山の湯」オール讀物1965年2月号
    「死者の手袋」オール讀物1968年2月号
    「お家がだんだん遠くなる」小説宝石1971年2月号
    「仏を攫う」小説宝石1970年6月号
    「長い暗い冬」別冊宝石1964年2月号

    小説公園なんて雑誌があったのか。いろんな雑誌に書いていた人気作家だったのを実感する。

    巻末には曽野綾子怪奇・推理小説リストというのもあり、これがまた面白い。
    長編は『塗りこめた声』(’61)と『天上の青』(’90)、短編集は『能面の家』『佳人薄命』『蒼ざめた日曜日』『初めての旅』『春草の夢』『消えない航跡』そして本書。相当読み込んでいないとこのリストは作れない。
    著者紹介も手が込んでいて、一般的な経歴を並べた上で「人間心理を追及したミステリアスな作品が多いが、江戸川乱歩の強い勧めで執筆した「ビショップ氏殺人事件」(’57)以後、本格的な推理小説・恐怖小説も数多く手がけている。ミステリの近作として殺人鬼の魂の遍歴を描いた異色のクライムノヴェル『天上の青』(’90)がある」と記されてある。
    編者がわからないのがもどかしくてならない。さぞかし名のあるお方では……と思うのだが。(具体的に言うと、日下三蔵さんなのではないかとにらんでいる)

    追記:Twitterで日下さん御本人から返答をいただき、やはり日下三蔵編だったことがわかった。ありがたい!

  • 超怖い短編として有名な(?)「長く暗い冬」が読みたくて借りました。が…「怖い」かどうかは人によって違うかもしれません。ただ、オチまでのゾクゾクする感じは確実に怖かったです(個人的には)。オチに怒る人もいるかもしれませんが(笑。そんな作品群です。
    たとえば「飼育のたのしみ」で言うと…アメリカ行きの船に乗っている主人公。戦後間もない時代、唯一の日本人です。周囲の米人たちはしきりと主人公の体重の増減を気にし、気遣ってくれる。ある米人の話から「彼らは人肉を食すのでは?」「自分はいずれ食われてしまうのでは?」と疑心暗鬼に陥った主人公でしたが、航海最終日に……。
    オチは実際に読んでみてください(怒っても責任持てませんが)。
    ところで「暗く長い冬」ですが、これは本当に怖かったです。オチがきても。

  • 「長い暗い冬」以下、
    よく見かける話がいくつか入ってました。
    再読するにもオチまで忘れてなくて・・・

    曽野綾子、もろ好みではないですが
    なぜか忘れさせてくれない話が多いよう。

    今回の拾い物は「仏を攫う」。
    ラストでのけぞった〜

    おとーさんおかーさんはたいせつにしよう。
    さすが日本財団。

  • 短編集。
    一作一作がしっかり手応えがあります。
    中でも「長い暗い冬」は最後の一行を読んで背中が一気に寒くなりました(ー'`ー;)

  • 普通の人々の中に宿る狂気。
    1960年代に書かれたもの。当時は斬新だったのかも。

  • (収録作品)蒼ざめた日曜日/偏西風/檻の中/人間の皮/競売/七色の海/女はなんのために死ぬか?/一眼獣/飼育のたのしみ/山の湯/死者の手袋/お家がだんだん遠くなる/仏を攫う/長い暗い冬

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