横溝正史自選集 (vol.6)

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  • 出版芸術社
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882933236

感想・レビュー・書評

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  • 横溝作品を何となく読んでこなかったので、本作「悪魔の手毬唄」がほとんどお初。
    しかし色々と読んでいて意外に思うことが多かった。まず、タイトルから連想されるような土俗的、かつおどろおどろしい雰囲気は感じられなかったこと。
    岡山の僻地、鬼首村は田舎らしく住民のつながりも家の歴史も根深い地域。しかし本作では当地出身のアイドルが帰ってくるということで、若者は沸き立ち、村おこしの計画なども持ち上がっている。

    一番気になったのはミステリの構造という面からもそうだけど、冒頭に示される手毬唄の登場する位置。
    多くの見立てミステリは犯人の意図を達成するためには、登場人物や探偵役に見立てであることを示すことが前提となるけど、本作ではその見立てであることが判明する作中の登場位置がだいぶ特徴的。読者と探偵役の情報に肝心なところで差ができる作りになっている。

    こうしたミステリ面ともう一方、その手毬唄を最高齢の老人以外のほぼ全ての村人が知らないというのが興味深い。
    口承伝承のひとつであり地域の民俗である手毬唄が、現代の層には伝わっておらず、変化する民俗としての手毬唄が描かれている(若い層、ひとつ上の世代には別の手毬唄が記憶されている)。
    作中では過去に起こった事件と現代の事件とが結びつき、両方が最終的に解き明かされることになるが、その課程で、現代には伝わっていない過去の手毬唄が登場し、事件を解明するためのきっかけになっている。
    現代を読み説くための現代学としてこそ民俗学は存在すると思うが、現代の事件を解くために過去の事実を調査し手毬唄という民俗が呼び起こされるという今作のミステリの構図とつながっているように思えた。
    作中で民俗学や柳田国男についても言及されていたし、横溝正史は民俗学をどう捉えていたのかは気になる。
    手毬唄という民俗の変化と、外部のアイドルによる変化。内側と外側、両方の面から変化する村を描いていて、そこに時代性の反映を見るのも面白いかも?

    というふうに、いろいろ妄想できて楽しい読書になった。

  • 唄よりも真犯人よりも、由良家の婆ぁがいちばん怖い

  • 兵庫寄りの岡山県、とある村のお話。金田一耕助の現れるところに事件勃発。それは過去の事件とも繋がって・・・村人たちの秘密や腹に抱えたものが出るわ出るわ。事件が解決してもやるせない。

  • 登場人物が多くてややこしいので久しぶりに人物相関メモを手書きした(この作業は意外に楽しかった)。終始飛び交う方言でのやり取りにリズム感があって好き。フーダニットの描写も真っ当。動機は、私個人の価値観からするとなんじゃそりゃと思いました。

  • やはり面白い。でも、話が進んでも、犯人は分からない。登場人物がややこしい。

  • 横溝正史作品初登録。
    ストーリーはよくできているのだが、漢字を使って欲しいなと思う部分にひらがなが使ってあり読みにくいのが難点(¯―¯٥)
    普段いかに自分が漢字をたよりにひらがなを適当に読み飛ばしながら文脈を追っていたのかがよく分かったよ(¯―¯٥)

  • 2015.08.29

  • 休養のため岡山県の僻地、鬼首村訪れた金田一耕助。耕助が逗留する「亀の湯」の主人源治郎は二十年前に殺害され、犯人と目される詐欺師恩田幾三はいまだ捕まっていないという。東京で大人気のタレント大空ゆかりが、故郷のこの村に帰ってくる---村中が歓迎ムードで沸き立つ中、庄屋の末裔多々良放庵が突如失踪。これを皮切りに、悪魔が仕掛けたような狂気の連続殺人が、手毬唄に乗せて幕を開ける……。閉鎖的な山村を舞台に、真骨頂「見立て殺人」の深化に挑んだ、横溝文学の集大成!

    鬼首村手毬唄

    うちの裏のせんざいに
    雀が三匹とまって
    一羽の雀のいうことにゃ
    おらが在所の陣屋の殿様
    狩好き酒好き女好き
    わけて好きなが女でござる
    おんなたれがよい枡屋の娘
    枡屋器量よしじゃがうわばみ娘
    枡ではかって漏斗で飲んで
    日がないちにち酒浸り
    それでも足らぬとて返された 返された

    二番目の雀のいうことにゃ
    おらが在所の陣屋の殿様
    狩好き酒好き女好き
    わけて好きなが女でござる
    おんなたれがよい秤屋の娘
    秤屋器量よしじゃが爪長娘
    大判小判を秤にかけて
    日なし勘定に夜も日もくらし
    寝る間もないとて返された 返された

    三番目の雀のいうことにゃ
    おらが在所の陣屋の殿様
    狩好き酒好き女好き
    わけて好きなが女でござる
    おんなたれがよい錠前屋の娘
    錠前屋器量よしじゃが小町でござる
    小町娘の錠前が狂うた
    錠前狂えば鍵あわぬ
    鍵があわぬとて返された 返された

    ちょっと一貫貸しました

  • 横溝正史の代表作の一つ。面白い。万人にオススメ出来る一冊。

  •  背景描写、状況描写、事件の流れなどはとても面白かったです。
     ちょうど昭和一桁代の雰囲気を知りたかったので、「20年前の事件」の描写がいっぱいあったのが嬉しかったりも。
     が、無理に手毬唄仕立てにすることはなかったんじゃないかなぁ……。手毬唄を使った見立て殺人ものにしようというのが作者のアイディアの糸口だったようですが、細部を固めて、整合性を取って、シナリオ作ったら、結果的に唄と見立ての部分がちょーっと苦しくなってしまったとゆー感じが。
     見立てにする理由がわからない……見立ての元になった手鞠唄の歌詞がバレたら犯人としては非常によろしくないのに、どうしてわざわざ見立てになんかしたんだろう。その辺がちょっとあいまいです。

     あと、長編小説で、手頃なタイミングで探偵役に謎を解かせるのはかなり難しいのかなという印象。手鞠歌の歌詞ひとつで対策が取れてしまうなら、村人が全員歌詞を覚えていなかったのも、五百子さんが意図的に歌詞を隠したのも、くだんの民俗雑誌が見つからなかったことも、それを金田一だけが指摘できたことも、金田一さん用に仕立て上げたミステリーです感がばりばり漂っています。
     他の金田一ものみたいに、金田一さん一体何しにきたの、解説はしたけど解決はしなかったね、的な展開にはならなかたので、これはこれでアリかなぁとも思いましたが。でも、今回のも金田一さんが推理したっていう感じがあまりないね(^_^; 活躍はしていたとは思います。

     登場人物が若手が多かったためか、人間模様が爽やかで楽しかったです。八つ墓村みたいなおどろおどろしいのも好きだけど、年配組のちょっとただれた(とゆーか、やや節操のない)関係の中、若者衆の闊達さがいい雰囲気を出していました。特に里ちゃんがけなげで可愛い。やまとなでしこなのです。
     はかりやますを出すためもあったのか、葡萄酒工場という状況設定が出てきたのも情景豊かな感じで好き。小さな村の人間関係、地理、あからさまに険悪なわけじゃないけど心にしこりのある関係性、連日のお通夜とお葬式の様子など、村の空気感がよかったです。

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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