横溝正史自選集 (vol.6)

著者 :
  • 出版芸術社
3.94
  • (10)
  • (13)
  • (10)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 83
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882933236

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 横溝作品を何となく読んでこなかったので、本作「悪魔の手毬唄」がほとんどお初。
    しかし色々と読んでいて意外に思うことが多かった。まず、タイトルから連想されるような土俗的、かつおどろおどろしい雰囲気は感じられなかったこと。
    岡山の僻地、鬼首村は田舎らしく住民のつながりも家の歴史も根深い地域。しかし本作では当地出身のアイドルが帰ってくるということで、若者は沸き立ち、村おこしの計画なども持ち上がっている。

    一番気になったのはミステリの構造という面からもそうだけど、冒頭に示される手毬唄の登場する位置。
    多くの見立てミステリは犯人の意図を達成するためには、登場人物や探偵役に見立てであることを示すことが前提となるけど、本作ではその見立てであることが判明する作中の登場位置がだいぶ特徴的。読者と探偵役の情報に肝心なところで差ができる作りになっている。

    こうしたミステリ面ともう一方、その手毬唄を最高齢の老人以外のほぼ全ての村人が知らないというのが興味深い。
    口承伝承のひとつであり地域の民俗である手毬唄が、現代の層には伝わっておらず、変化する民俗としての手毬唄が描かれている(若い層、ひとつ上の世代には別の手毬唄が記憶されている)。
    作中では過去に起こった事件と現代の事件とが結びつき、両方が最終的に解き明かされることになるが、その課程で、現代には伝わっていない過去の手毬唄が登場し、事件を解明するためのきっかけになっている。
    現代を読み説くための現代学としてこそ民俗学は存在すると思うが、現代の事件を解くために過去の事実を調査し手毬唄という民俗が呼び起こされるという今作のミステリの構図とつながっているように思えた。
    作中で民俗学や柳田国男についても言及されていたし、横溝正史は民俗学をどう捉えていたのかは気になる。
    手毬唄という民俗の変化と、外部のアイドルによる変化。内側と外側、両方の面から変化する村を描いていて、そこに時代性の反映を見るのも面白いかも?

    というふうに、いろいろ妄想できて楽しい読書になった。

  • やはり面白い。でも、話が進んでも、犯人は分からない。登場人物がややこしい。

  • 休養のため岡山県の僻地、鬼首村訪れた金田一耕助。耕助が逗留する「亀の湯」の主人源治郎は二十年前に殺害され、犯人と目される詐欺師恩田幾三はいまだ捕まっていないという。東京で大人気のタレント大空ゆかりが、故郷のこの村に帰ってくる---村中が歓迎ムードで沸き立つ中、庄屋の末裔多々良放庵が突如失踪。これを皮切りに、悪魔が仕掛けたような狂気の連続殺人が、手毬唄に乗せて幕を開ける……。閉鎖的な山村を舞台に、真骨頂「見立て殺人」の深化に挑んだ、横溝文学の集大成!

    鬼首村手毬唄

    うちの裏のせんざいに
    雀が三匹とまって
    一羽の雀のいうことにゃ
    おらが在所の陣屋の殿様
    狩好き酒好き女好き
    わけて好きなが女でござる
    おんなたれがよい枡屋の娘
    枡屋器量よしじゃがうわばみ娘
    枡ではかって漏斗で飲んで
    日がないちにち酒浸り
    それでも足らぬとて返された 返された

    二番目の雀のいうことにゃ
    おらが在所の陣屋の殿様
    狩好き酒好き女好き
    わけて好きなが女でござる
    おんなたれがよい秤屋の娘
    秤屋器量よしじゃが爪長娘
    大判小判を秤にかけて
    日なし勘定に夜も日もくらし
    寝る間もないとて返された 返された

    三番目の雀のいうことにゃ
    おらが在所の陣屋の殿様
    狩好き酒好き女好き
    わけて好きなが女でござる
    おんなたれがよい錠前屋の娘
    錠前屋器量よしじゃが小町でござる
    小町娘の錠前が狂うた
    錠前狂えば鍵あわぬ
    鍵があわぬとて返された 返された

    ちょっと一貫貸しました

著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

横溝正史の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×