皆川博子コレクション2夏至祭の果て (皆川博子コレクション (2))
- 出版芸術社 (2013年5月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
- / ISBN・EAN: 9784882934417
感想・レビュー・書評
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表題作に描き込まれる、キリスト教の容認と排斥を巡り世界が一変する様と、その状況に対する著者の酷薄な姿勢は、第2次大戦の終戦前後で色々な価値観がぐるりとひっくり返った理不尽を目の当たりにした皆川博子氏の実体験に基づいているのだな…と過去のインタヴュー等からは類推できる。
メジャーなところでは遠藤周作氏、そして個人的に印象に残る篠田節子氏や貫井徳郎氏の作品等を引くまでもなく、文学の中で宗教と向き合う際には避けて通ることができない一面を如実に抉り出している。
さしずめ、もう1つの島原の乱、とでも称すべきドラマか。
後半に収められている時代物の作品群も、歌や芝居の世界に造詣が深い著者の指向が強く感じられ、読み応えがある。
「冰蝶」は、いわば「花闇」のプロローグ部分を膨らませたような短編で、度々氏の作品に登場する三代目澤村田之助への強い思い入れをここでも感じる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
装丁のカメオは優雅だけど虚無的な瞳の、宗教画のような羊の肖像・・・迷える子羊・・・。
表題作のモティーフからの引用でしょうか。いつもの皆川世界観と違い、キリシタン弾圧という信仰を巡る物語なのに、神的存在を微塵も感じられない空気感が凄まじい。
「渡し舟」慕い慕われ恋い焦がれ、その川は誰と渡るのか。
「風の猫」時代物ブロマンス。
「泥小袖」同じ男を愛したのだ。死なば諸共、清濁併せ呑もうぞ。
「土場浄瑠璃の」死してなお、縛られた男と男と女。
「黒猫」皆川世界観らしさは随一な気がする・・・。誰しもが自分のためだけに生きて、死ぬのだ。
「清元 螢沢」伝統芸能まさしく脚本仕立て。内容はベターなんだけども、余韻はいつもの皆川節です。
「棒」心中遊びを繰り返す女、魔性の死に神。魅入られた男ははたして・・・。
「冰蝶」皆川先生十八番の三代目澤村田之助モティーフ。あくまで語り部が第三者なので・・・空気感が歯痒くて切ない・・・。
「花道」オチが・・・、あ・・・あああ・・・ああああ・・・・・・(※頭を掻き毟る顔文字)なんだけど、なんだ・・・この爽やかさすらある読後感は・・・。そうだ・・・これがいつもの皆川節だった・・・。 -
<収録作品>
夏至祭の果て
渡し舟
風の猫
泥小袖
土場浄瑠璃の
黒猫
清元 螢沢
棒
冰蝶
花道 -
皆川博子の未収録作品のうち、時代小説に焦点を絞って収録した2巻目。表題作は宗教と人という壮大なテーマに挑んだ大作。キリシタン迫害という時代の波に翻弄されながら、信仰とは、自分とは何かを追い求めてもがく若者の姿が痛切でかなしい。文章が持つ膨大な熱量、気迫に圧倒されて、読み終えた後にものすごい虚脱感のようなものに襲われる。
脱疽で両手脚を切り落とした女形・澤村田之助を描いた「冰蝶」、同じく歌舞伎の女形を主人公に据えた「花道」も、凄艶で狂気に満ち、美しい。 -
長編「夏至祭の果て」と、短編9編が収録。
「夏至祭の果て」は、キリシタンをテーマにした壮大な物語。この時代背景についてはあまり詳しく知らなかったので、いろんな意味で衝撃でした。キリスト教布教のかげに、これほどの悲惨な事実があっただなんて。そこまでしても信仰を守ろうとする人々の想いは立派と言えば立派なのだけれど、傍から見ればどうしてそこまで、というのも確か。微妙な立ち位置にいる主人公の目線は、そのまま読者のものと重なる気がしました。
短編は時代物が多かったかな。お気に入りは「清元 螢沢」。ほんの短い物語だけれど、美しい情景が目に浮かびました。 -
長編「夏至祭の果て」と9つの短編。時代小説。表題作はキリシタン弾圧を描いたもので、時代に翻弄される登場人物たちに胸が締め付けられるよう。暗く重い。
短編は主に江戸時代。彫師や芝居の役者を描いたものが多い。「風の猫」「冰蝶「花道」が好き。
「渡し船」彫師の長吉。三途の川?
「風の猫」浅吉と徳次。彫師。
「泥小袖」小雪。長崎丸山の芸子。川浚い。
「土場浄瑠璃の」由次郎と七蔵。死人は誰?
「黒猫」明治?宿はこうらい屋。叔母との夏。
「清元 螢沢」台本。
「棒」明治が舞台。茶焙師:吉武の独白。心中。
「冰蝶」澤村田之助。手足を失った役者。雪中演場。
「花道」女形役者:芳弥。おえい。 -
主に初期作品、未収録作品を集めた傑作集の第2巻。
『夏至祭の果て』は『海と十字架』のテーマを掘り下げたキリシタンものの時代小説、短編も時代もので、作品精華の時代篇に相当する内容だった。
短編の中では『花道』が一番面白かった。オチが凄いのに何故か爽やか……。
また、時代ものの短編の一部で使われている、まるで芝居を見ているようなテンポのいい文体は読んでいて思わず声に出したくなる心地よさ。