アウシュヴィッツのコーヒー―コーヒーが映す総力戦の世界

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著者 : 臼井隆一郎
  • 石風社 (2016年9月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883442690

アウシュヴィッツのコーヒー―コーヒーが映す総力戦の世界の感想・レビュー・書評

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  • 著者の世界史観が綴られた労作。コーヒーは常に前面に出てくるわけではなく、欧州と中東地域の関係、欧州諸国、特に英独の対外拡張行動ー奴隷制とプランテーション、南米への入植に注目が注がれているー、交易、対立、その所々にコーヒーがアクセントとして上手く絡められている。書籍名からいきなり第二次大戦とナチスが書かれているかと思いきや、古のアラブの話や旧約聖書やヘブライ語などが言及され、そうした事柄や地域が攻勢に出てくる、上手く構成がなされているうまく攻勢がされている。少し違う角度から世界史を眺めた労作と言える。最初は一般読者向けにはこなれていない文章だと思ったが読み進めるうちに慣れていった。

  •  コーヒーの話でもあり、アウシュヴィッツに代表されるドイツが歩んできた黒い歴史の話でもある。
     コーヒーの由来の話にしてもこれまでの本とは一線を画し、冒頭のイスラム圏の難しい話さえ突破すれば、次から次へとこれまで知らなかったコーヒーの歴史を知ることができる。ただし本書は、コーヒー片手に楽しく読めるような内容ではない。

     植民地競争に出遅れたドイツが北海道を狙っていた話や、アフリカやブラジルで早くも残虐な奴隷政策を行っていたこと、コーヒーに飢えた市民の要請で代用コーヒーを生み出したことなど、著者のコーヒーに対する博識ぶりはドイツの歴史を縦横無尽にかけめぐり、少しずつ最大の汚点となるアウシュヴィッツでのコーヒーの話へ向かっていく。下手な歴史の教科書よりもずっと興味深く、また暗い気持ちになっていく。

     もともとドイツが周辺の移民を受け入れて成立した小国だという歴史を聞くと、いつのまにかヨーロッパの優等生となり、難民を受け入れている同国が不気味に見えてくる。
     エマニュエル・トッド氏は著書『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』で、ドイツ人を「人間の非合理性の集積地」「大きな病人」と痛烈に批判していたが、その表現に行き過ぎた点はあるものの、本書を読んでその表現が常にオーバーラップしていたのは事実だ。

  • 「アウシュヴィッツとは何か」という問題は、「アウシュヴィッツ以後」の現代にとっての難題中の難題で、うかつに近づける問題ではない。ましてや、コーヒーを飲むとか飲まないとかいう気楽な設定の中で触れるべき問題ではないことは重々承知している。わたし自身は、常日頃どちらかと言えば、「コーヒーさえ飲めれば、世界がどうなろうと構わぬ」と思っている人間である。(中略)わたしが本書で見たいのは、個々人が好き勝手にコーヒーを飲むことを許さない総力戦という、極めてドイツ的な、しかしドイツに限定されない社会体制の進捗である。
     戦争が総力戦の段階に入った歴史的時点で、戦時と平時が明快な区別戦をもたなくなった。コーヒーを飲みたいという個人的な欲求が国民的欲求となり、それが国民的欲動となって植民地獲得の動きと化し、ついには世界総力戦に入り込む。そうなれば、一杯のコーヒーでさえ飲めれば世界などどうなっても構わぬと考えていた人間が、どのような世界に入り込んで苦しむことになるのかの典型例をドイツ史が示していると思われるのである。(pp.5-6)

     ドイツのコーヒーは途絶えた。深刻な事態が迫っている筈であった。ドイツは「コーヒー中毒」の国である。しかもカフェに集う人びとも「世界を観ないことを本質とする世界観の持ち主」(アルフレート・ポルガー)たちで、国家が総力戦をやっていても熱のこもった反応を示さないくせに、コーヒーが飲めないとなると不満を漏らす人間の数ばかり多い。この種の人びとからコーヒーを切らすと何をしでかすかわかったものではない。(p.168)

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アウシュヴィッツのコーヒー―コーヒーが映す総力戦の世界の作品紹介

ドイツという怪物をコーヒーで読み解く。

アウシュヴィッツのコーヒー―コーヒーが映す総力戦の世界はこんな本です

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