- Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
- / ISBN・EAN: 9784883442713
作品紹介・あらすじ
戦乱の続くなか、旱魃と洪水で荒廃に瀕した農地と沙漠が、伝統工法で甦る。安定潅漑は、偉大な「投資」である。過酷な自然に、日本の伝統的な工法から学びつつ挑んだ15年の技術と魂の記録。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
アフガニスタンで30年以上まえから医療、井戸掘削、用水路の建設と活動を続けてきたペシャワール会の代表・中村哲医師による近著。
前著を読んだ際には用水路の整備に着手してから最初に農地に水が引かれるまでの苦闘や、現地の人々との共同作業を導いていくリーダーシップに非常に感銘を受けた。
それから約10年を経て書かれたこの本では、この事業が水を引くことだけではなく、洪水対策や湿地化した土壌の改良、河川以外からの鉄砲水などへの対策と水の利用に、より総合的に取り組むものになっていることに、まず驚いた。
また、この本は、前著にも増して技術的な内容を解説したところが多いが、それはペシャワール会が、現地の人々と共同で作り上げる灌漑でなければ、地域に根付き長期にわたって維持管理され、農業社会の再生につながる事業にはならないということを熟知していたからだと思う。
つまり、工法や材料選択の一つひとつが、この場所でつくること、この人々とつくることを前提にすることを強く意識した判断になっているということだ。
土木や開発援助というと、技術的な側面、資金的な側面での専門知識に基づいて進められることもあるが、それらと社会に対する知識と関与が重要であることに、強く気づかされる本だと思う。
中村哲医師が先日、銃撃により命を落とされた。ご冥福をお祈りするとともに、この活動がここで途切れることなく、ペシャワール会や地域の人々の力で継続されていくことを、強く願いたいと思った。