真理先生

著者 :
  • 青林工藝舎
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本棚登録 : 73
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883792771

感想・レビュー・書評

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  •  「特殊漫画家」根本敬は、今年前半、3ヵ月連続で著書(マンガ以外の)を刊行した。先日読んだ『特殊まんが-前衛の-道』はその第3弾にあたり、第1弾が本書である。

     まるで大昔の小説のような書名と装丁。同題の武者小路実篤の名作と間違えて手に取る人もいるかもしれない。しかし、中身はいつもの根本ワールドで、実篤とは似ても似つかない。

     基本はエッセイ集だが、全3章のうちの第2章がなんと小説になっている。根本敬にとっては初の小説。分量からいったら短編なのだが、ヘタな長編顔負けの濃さをもつ、ある老人の一代記である。

     後半に、根本敬作品でおなじみのキャラクター・吉田佐吉が登場してくる(もっとも、作中には「吉田」としか書かれていないのだが、ファンなら吉田佐吉であることがすぐわかる)。そして、そこから俄然面白くなる。前半は読みづらくてかったるいので、そこで投げ出さないように。

     そして、最後まで読み終えたあとでもう一度初めから読んでみると、かったるく思えた前半も面白く感じられる。根本のマンガをそのまま小説に置き換えたような、彼以外には書き得ない作品。もしかしたら、根本敬は町田康のように小説家に大化けするかもしれない。

     小説を間に挟む形で並んだエッセイも、いつもながらのハイ・ボルテージ。
     ここにあるのは、世にあるエッセイに対するオルタナティヴであり、世のまっとうな生き方、まっとうな物の見方の反対側に突き抜けた「真理」を教えてくれるものである。
     本書に収められた22編のエッセイのうち何編かは、何度も読み返して熟読玩味する価値をもつものだ。

     私がとくに気に入ったエッセイのタイトルを挙げておく。 
     「さぶ・カトちゃん」、「男にとって甲斐性とは」、「ストーンズのライヴ(確かめに行ったもの)」、「もう一人の俺」、「赤塚先生から赤塚と呼び捨てになった時」(赤塚不二夫追悼文)……。

  • 「サブカル」版自己啓発書。(サブカルという用語については本書劈頭にて著者自身述べているところがあるのであくまで「サブカル」)
    前著夜間中学でもその傾向が見られたが、出版編集におけるデジタル化の波は例えば「電気菩薩」や「ディープコリア」のような体裁を最早許さない域に達しているのか。

  • とにかく笑えるネタが盛りだくさん。この笑いの源泉こそ、根本敬の深い洞察力による。
    特に、一般人の人生にある光と陰をルポルタージュする腕は相変わらず見事。第二章の河村さんの話は、吹き出しつつも人生の業を感じる優れた作品。
    また、政治的なことに関する洞察も非常に冴え渡っていて、一つ紹介。

    「それでも毎年八月六日(広島)九日(長崎)の原爆投下、そして十五日の敗戦当日を迎えると、各新聞、マスコミはこぞって戦争版『ダメゼッタイ』キャンペーンを繰り広げている。しかし既に『リアルタイム』というヤツで戦争を知る人々は年々減るばかりで、戦場へ送られ、実際に兵隊さんとして戦った人は八十一歳より上の男性ばかり。
    戦時下としてのその頃日々を営み、時に空襲を受けたりと、当時を記憶する『女、子供』のうち、その子供すらある程度の記憶を残しているのは既に七十歳ぐらいから。と、最早マス・メディアによる夏の風物詩と化したこの『ダメ。ゼッタイ』で『二度と繰り返してはならない』キャンペーンの期間中、“道具”としてどうしても必要な、戦争の語り部たる『生き証人』達の激減と老齢化にともなう諸問題に、一本の番組やひとつの記事をつくるにも、その舞台裏で思いがけない苦労があると思う」

    マスコミによる、道具としての戦争体験者の取り上げられ方に関しては、非常に憤慨していたため、こういう論評もあるかと、根本敬の慧眼に脱帽。

    後半の短いコラムはイマイチなものもありますが、全体としては非常に楽しい読書時間を堪能できます。

  • 根本先生ぶっ飛んでるなー。個性が強烈過ぎてまだ体に(頭に?)馴染まないけれど、中毒性はありそう。楽しめる領域まで持っていきたい。

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著者プロフィール

上智大学教授

「2019年 『東南アジアの歴史〔新版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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