修身教授録 (Chi chi-select)

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  • 致知出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (531ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884741723

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  • 戦前、著者により師範学校生徒に対し行われた、昭和12年3月から昭和14年4月にわたる2年間の講義(1時間×79回分)をまとめたもの。今でいえば道徳の授業に当たるのかもしれないが、リーダーシップや倫理、哲学など人間として、あるいは教育者として必要とされる態度や心構えについて、述べている。純粋に知識を効率的に伝えることを主眼に置いた現在の学校教育とは異なり、人格そのものの形成に重きを置いた、すばらしい講義だと思う。参考となった。

    「教育は、次の時代にわれわれに代わって、この国家をその双肩に担って、民族の使命を実現してくれるような、力強い国民を作り出すことの外ないのです」p29
    「今諸君らに申せば、一体どうしたら自分は国民教育界のために、多少なりとも貢献し得るような人間になれるかと、常に考えるということでしょう。人生の意義については、かねがね申してきたように、自分の生涯の歩みが、自己の職責を通して、どこまで国家社会のお役に立ち得るかということでしょう」p57
    「諸君らが、近い将来において一学級の担任教師となった場合、諸君らの受け持つ学級は、諸君が受け持っている限り、天下何人もこれを受け持つことはできないのです。たとえ文部大臣といえども、文部大臣の地位にとどまる限り、断じて諸君の学級の担任者にはなれないのです。すなわり九千万の同胞のうち、諸君以外に諸君の学級を教える人はいないのです」p58
    「(読書の重要性)諸君は、差し当たってまず「一日読まざれば一日衰える」と覚悟されるがよいでしょう。一般に小(中)学校の先生は、卒業後五、六年もたてば、もう「す」が入り出すと言われますが、教師に「す」が入りかけるのは、何も卒業後五、六年たって初めて始まることではなくて、その兆しは、すでに在校中に始まっていると言えましょう」p65
    「われわれの個人としての使命は、必ずや何らかの意味において、民族の使命と結びつかねばならぬわけであります」p90
    「大声で生徒を叱らねばならぬということは、それ自身、その人の貫禄の足りない何よりの証拠です。つまりその先生が、真に偉大な人格であったならば、何ら叱らずとも門弟たちは心から悦服するはずであります」p130
    「われわれの学問の目的は「国家のためにどれだけ真にお役に立つ人間になれるか」ということです。どれほど深く、またどれほど永く。人間も自分の肉体の死後、なお多少でも国家のお役に立つことができたら、まずは人間と生まれてきた本懐というものでしょう」p140
    「気品というものは、人間の修養上、最大の難物と言ってよい。それ以外の事柄は、大体生涯をかければ、必ずできるものですが、この気品という問題だけは、容易にそうとは言えないのです。そこでどうしても、諸君くらいの若さのうちから深く考えて、本腰にならぬことには、とうていだめと言ってよいでしょう」p148
    「自分はなるべく喋らないようにして、できるだけ聞き役に回るという、根本の心がけに変わりはありませんが、もう一つ大事なことは、一座のうちで誰か一人が話していたら、他の人々はそれに耳を傾けて、他のところで、また一人が喋るというようなことをしないということです。つまり一座のうちで、一人の人が話かけたら、もう他の人は、自分のそばにいる人を相手に、コソコソと話したりなどしないということです。そしてこの一事が守られているか否かによって、その地域の人々の教養というか、たしなみの程度はわかると思うのです。そこで当然のことながら、とくに座談会などの際には、一人であまり何回か喋らないようにして、できるだけ全員が、最低一度は話す機会がもてるようにしたいものです」p198
    「目上の人に対して卑屈な人間ほどかえって、目下の人に対して多くは放漫になりやすいということであります」p205
    「大事な点は、相手の人物がその真価とか実力の点で、自分より上に立つだけの値打ちがあろうがあるまいが、そういうことのいかんにかかわらず、とにかく相手の地位にふさわしいだけの敬意を払うように、ということです。ですから時には、相手の人物が自分より劣っていると考えられ、また周囲の人々も、内心それを認めているような場合でも、とにかく相手が地位の上で上位者である限り、それ相応の敬意を欠いてはならぬということであります。これはこう言ってしまえば、ただこれだけのことですが、しかし実際にわが身の上の問題となりますと、誰でもたやすくできるとは言えないのであります」p211
    「世の中というものは、秩序の世界であり、秩序の世界というものは、必ず上下の関係によって成り立つものです」p212
    「そもそも人間というものは、情熱を失わない間だけが、真に生きているといってもよいのです」p227
    「人間の真の強さというものは、人生のどん底から起き上がってくるところに、初めて得られるものです。人間もどん底から起ち上ってきた人でなければ、真に偉大な人とは言えないでしょう」p232
    「(生徒に志を起こさす)志とは、これまでぼんやりと眠っていた一人の人間が、急に眼をひらいて起ち上がり、自己の道を歩き出すということだからです。今日わが国の教育上最も大きな欠陥は、結局生徒たちに、このような志が与えられていない点にあるでしょう。何年、否十何年も学校に通いながら、生徒たちの魂は、ついにその眠りから醒めないままで、学校を卒業するのが、大部分という有様です。ですから、現在の学校教育は、まるで麻酔薬で眠りに陥っている人間に、相手かまわず、やたらに食物を食わせようとしているようなものです。人間は眠りから醒めれば、起つなと言っても起ち上がり、歩くなと言っても歩き出さずにはいないものです、食物にしても、食うなと言っても貪り食わずにはいられなくなるのです」p236
    「(夢中になること)夢中になることのできない人間は、どうも駄目なようですね」p385

  • 戦前に大阪天王寺師範学校で教鞭を執り「国民教育の師父」と謳われた哲学者・森信三氏の講義録。氏の後継者育成に賭ける覚悟、端的に本質を突く金言の数々、志に生きるとは何たるかを時代と空間を超えて学ぶことができる。本書の内容は若人より中年になったほうが身につまされる思いで響くであろう。むしろ若人は残念ながら氏の言葉の思いや価値に気付くことは難しいかもしれない。しかし、ほんの一握りの琴線を響かせた若者が国を引っ張る傑出たる豪傑になるのかもしれない。これほど優れた思想家が旧満州の建国大学に召集され、国家としては太平洋戦争に突入していったことは誠に遺憾。まさに老若男女問わない教育の大切さを痛感する。

  • 1 学年始めの挨拶:天命、好悪の感情を交えない
    2 人間と生まれて:真の意義の自覚、人生に感謝
    3 生をこの国土にうけて
    4 生を教育に求めて
    5 教育者の道:教師自身が学び続ける
    6 人生の始終:40までは修業時代
    7 志学
    8 学問・修養の目標
    9 読書:心の食物
    10 尚友:人を知る標準
    11 人と禽獣と異なるゆえん
    12 捨欲即大欲:天下の人々の欲を思いやる
    13 使命の道
    14 真実の生活
    15 諸君らの将来
    16 一道をひらく者(Ⅰ)
    17 一道をひらく者(Ⅱ)
    18 人を植える道
    19 松陰先生の片鱗:真の偉人は叱ったりせず、自ら
    服する
    20 雑話
    21 血・育ち・教え
    22 鍛錬道(Ⅰ)
    23 鍛錬道(Ⅱ)
    24 性欲の問題
    25 質問
    26 仕事の処理:自分の修養の第一義
     とにかく手をつける、一気呵成にやる
    27 成形の功徳
    28 一人一研究
    29 対話について:なるべく聞き役に回る
    30 謙遜と卑屈:人は自ら信ずるところがあってこそ、初めて真に謙遜になる
    31 上位者に対する心得
    32 目下の人に対する心得
    33 ペスタロッチー断片
    34 国民教育の眼目
    35 為政への関心
    36 誠
    37 死生の問題
    38 小学教師の理想
    39 教育の窮極
    40 わかれの言葉

    1 挨拶:人生の真の出発は、志を立てることによって始まる
    2 立志
    3 人生二度なし
    4 生命の愛惜
    5 一つの目標
    6 意地と凝り性
    7 大志を抱け
    8 気品:慎独
    9 情熱
    10 三十年
    11 長所と短所 知識と技能→長所を伸ばす、内面的な問題→欠点を矯正
    12 偉人のいろいろ
    13 伝記を読む時期:35~40前後
    14 人生の深さ
    15 一時一事:自分が現在なさなければならぬ事以外のことは、すべてこれを振り捨てる
    16 良寛戒語
    17 質問
    18 忍耐
    19 自修の人
    20 老木の実
    21 故人に尽くす一つの途
    22 下坐行:自分を人よりも一段と低い位置に身を置く
    23 卒業後の指導
    24 出処進退
    25 最善観
    26 二種の苦労人
    27 世の中は正直
    28 平常心是道:なるべく寒いと言わない
     高僧と凡僧の別は、座禅を解いてからの言動でわかる
    29 人生は妙味津々
    30 試験について
    31 真面目:真の面目
    32 教育と礼
    33 敬について
    34 ねばり:仕事を完成させるための秘訣
    35 批評的態度というもの
    36 一日の意味:人間は毎日逆境に処する際の心構えをしなくてはいけない
    もしその日の予定がその日のうちに果たせなかったら、「自分の一生もまたかくの如し」と思うべき。
    37 ペスタロッチー
    38 置土産
    39 わかれの言葉

  • 「人生は一度きり」。この言葉の源泉にあたる本。耳が痛くなる言葉が多かった。

  • 困難含め身に降りかかることは天の命として慎んでお受けするのが最善の人生態度。心にすが入る。40が山の頂、それまでは修行と心得る。人生は一度きり、真の志を立てる。自分の職にも誰にも委せられない自覚を持つ。チッポケな欲を捨てて大きな道が見える。教育者として、同じ求道者で少し前を進んでいるだけ、後から追い越す者もあることを自覚。人物如何でなく、その人の地位や社会的な約束事に応じて接するべき、その切なさが人間を磨く。生きている限り人から受ける、本当の奉公は死してのちにできる精神的なもの。人生を深く生きること、それは自分の苦しみをぐっと噛み締め、ほかの人々の苦しみに思い致すこと。行って余力あらば以て文を学ぶべし。
    時代背景から、国家、国民、民族といったものへの強力な意識がある。

  • 本書は森先生が大阪天王寺師範学校にて教鞭をとっていた『修身』の講義録である。本書を通して胸が抉られるような言葉に多数出会った。特に、「人生は二度とない。人生はただ一回のマラソン競争みたいなもので、勝敗の決はただ一回人生の終わりにあるだけ。しかしマラソン競争と考えている間はゆるみが出る。五十メートル走だと分かれば人間も凄味が加わる。」という言葉には、分かっていたはずの真理なのに、ハッとさせられた。学生時代は人生のマラソンの中でも、あらゆる点で小さいゴールが決められていて、それを目指して走る限りは迷いが無かった。社会に出ると、自分でゴールを決め、どのルートをどのペースで走るのかを自分で選択していかなければならない。二十代はずっと道に迷っていた気がする。今後いかにして、自分の人生に五十メートル走のゴールを設置して走っていけるか。
    周りに左右されない心構えと志を持って後悔しない道を進みたい。

  • 昭和12年ごろ教え。
    授業形式のお話のまとめだが人間学がつまっている。
    長所の話と読書の話にしかり。
    偉人や歴史から学ぶ人丸ごと学ぶ教え。
    ヒントとなる当時の本も紹介されており年をとった今だから残りの人生に触れる伝記を読みたいと思わされた。

  • 欲を捨てて、誰かの役に立つ生き方をする。えらくなりたい、社会的な地位を高めたい、ある程度のお金を稼ぎたい、でも身を粉にしてやりたくもない仕事をやりたくはない、そういうことばかりを考えていた。そういう欲をすべて捨て去ることによってむしろ納得と満足の人生を送ることができるのかもしれない。ちょっとした価値観の転換。ただし、それを行動に移せるか?それが大きな課題だ。

    何かに迷ったり、悩んだり、壁にぶち当たった時に、戻っていく本がある。これもその一冊。ふと、そういえばあの本にヒントになりそうなことが書いてあったな、と気付いて再び手に取る。するとたちまち「あ、そういうことか」と悩みが解決したりする。

  • 「修身」。もう殆ど耳にしない言葉です。日本人の心の故郷、源、そういったものが沢山つまっている本だと思いました。やや今の時代には合わないかもしれないと思う箇所もありますが、元になる気持ちや考え方は変わらないですね。

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