テルミン: ふしぎな電子楽器の誕生 (ユーラシア・ブックレット No. 83)

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  • Amazon.co.jp ・本 (63ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784885955884

作品紹介・あらすじ

テルミン博士という人物と当時の時代背景を解説、さらに楽器としてのテルミンそのものを紹介。名演を収めた必聴推薦盤から、入手法・使い方・メンテナンスまで収録、テルミンの歴史と現在が分かる。

感想・レビュー・書評

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  •  テルミンから遅れて、17年、すなわち1937年に、ソ連で最初のシンセサイザーが発明されたのである。発明者は技師である、エヴゲニー・アレクサンドロヴィチ・ムルジン。その楽器の名前は「ANS(アー・エヌ・エス)」。光と音楽の融合・統合を目指した作曲家、アレクサンドル・ニコラーエヴィチ・スクリャービンの頭文字が子のシンセサイザーの名前の由来である。20年かけて改良された楽器は、1964〜71年の間にロシアの現代音楽作曲家たちによって用いられ、演奏が残されている。
     ANSはこれ一台で音楽の「創造」、録音、再生ができるシンセサイザーである。この楽器の演奏法がテルミンの上をゆく奇抜なものであって、それを紹介したい。
     この楽器は、音を出すには鍵盤を押しても意味がなく、透明なガラスに塗布された黒インクを削ることによって点、線、図形を描く(創造と録音)。作曲家はガラス板に音の心象風景を描き、その板をANSにセットし、鍵盤を押すと、板に描かれた図形に応じてインタラクティブに音を出すというものである(再生)。線を太く削ると音も応じて太くなり、和音を出すには複数の点を板に刻めばよい。この板に光を当てることで、削られた部分が明るくなり、直接光学的に、周波数発振器を操作するのである。72音の同時再生が可能だったといわれている。
     作曲家にとっては、ガラス板は楽譜であり、オーケストラのスコアであったのだ。
     神秘主義に傾倒していたスクリャービンにふさわしい、音と光の融合がANSによって実現されたのである。
     (略)
     このようにして最古の電子楽器テルミンと、ソ連初のシンセサイザーANSとを見てみると、いずれも、優劣つけがたい、まことに端倪すべからぬ奇天烈さ、奇抜さをもったものである。ロシアと呼ぶべきか、いやむしろソ連と言うべきか、呼び名をめぐって筆者が頭を抱える国は、よくもまぁこのような素っ頓狂な楽器を生んだものであると思わざるを得ない。ただ、確かに言えることは、ソ連になったからこれらの楽器が発明されたわけではなくて、帝政ロシア時代から蓄えられてきた文化というものがあったことは忘れてはならない。もちろんのこと、その背景には神秘主義の影響、未来派的思考という土壌があってこれらの楽器が誕生し、それと同時にスターリン、フルシチョフ、ブレジネフの時代があったことも考慮しなければならないだろう。このような楽器だけでなく、もちろんソ連時代にも、今日私たちが目にするような鍵盤付きのシンセサイザーもあって、それは「POLIVOKS」という名前で、和音が出せるシンセサイザーであることに驚くことよりもむしろ、軍事施設・軍需工場でシンセサイザーが作られていたという事に驚く。

  • 個人的にはヒカシューのライブではじめて知ったテルミン。独特な演奏スタイルと音がずっと頭から離れませんでした。戦前のロシア生まれで、こんなに長い歴史があるなんて知りませんでした。それから今のシンセサイザーの大元になったということも。

    テルミン博士が開発したから「テルミン」と呼ばれるようになったんですね。知らなかった。テルミンについて、歴史から演奏家、登場する映画、必聴の名盤までコンパクトにまとめられた一冊。いろいろテルミンにまつわる秘密も知ることができます。

  • テルミンの入門書。その成り立ちから改良、発展を説明している、分かりやすい一冊です。
    ユーラシアブックレットシリーズNp.83。このシリーズを読むのは初めてでしたが、薄いながらも 読み応えがあり、ほかの特集も気になりました。

    ロシア出身のテルミン博士の一生について説明されています。
    アメリカで大成功を収めた後、ロシアに送還され、そのままシベリア流刑となったという彼。
    その後、盗聴器を発明し、ロシアにとって無くてはならない存在になると同時に、常に監視下に置かれる存在となった彼。
    そのドラマチックな運命に驚きました。
    映画「テルミン」も観てみたいものです。

    また、テルミンをシンセサイザー開発に発展させたモーグ博士の紹介もされていました。
    テルミンと一言で言っても、いくつか型があるものということも。
    おもしろく読めました。今度、じっくりプロ演奏家の奏でるテルミンを聴いてみたいと思います。

  • 返却期間が迫っていたため、精読できず…。

    巻末のCD紹介が◎でした♪

  • テルミンについて、63ページの中に、わかりやすくまとめてあります。
    おススメです。

  • ユーラシアブックレットシリーズ。
    入門書といった感じで読みやすい。
    テルミンに関する本ってなかなか見ないからありがたい存在だった。

  • 『テルミン』という楽器は、ロシアの物理学者、テルミン博士によって発明されその名をつけられた。
    私はこの、最古の電子楽器といわれる『テルミン』の独特な音、演奏方法もさる事ながら、発明されたいきさつとその過程の面白さに興味をひかれた。
    ロシア革命と同時代に生きた彼は、大学を出て無線技師として働く最中、無線ノイズを改良する過程で楽器『テルミン』を生み出した。したがって『テルミン』が生まれたのはあくまで偶然であるといえる。
    しかし、単なる技術者、研究者ではなく、音楽学校で学び、チェロを弾いていた彼の音楽的センスがあってこそ、無線のノイズを音楽に結び付けるということが出来たのではないいかと思う。
    そして、電気と音楽という、当時は相容れないものと考えられていた二つを結びつけた彼の発明はソビエトの指導者、レーニンの非常なお気に入りとなり、新生国家ソビエトの国威を示すために格好の道具として、国家の庇護を受けながらヨーロッパやアメリカといった国に演奏旅行が行われた。余談であるが、第二次世界大戦を前にしたこの時代において、テルミンは盗聴器も発明したりしていたということであり、そこからも彼が生粋の音楽家というよりもむしろ研究者であったことが伺われる。
    ところで、国家の庇護下の元に広められた『テルミン』が、生まれたロシアではなくアメリカのハリウッド映画音楽によって発展したことも興味深い。
    『テルミン』はその音の独自性およびピッチの不安定さが映画において恐怖や驚き、不安を表現するのに効果的であったからだという。ロシアの技術を見せつけるためにレーニンが送り出した楽器が、その技術的側面もさることながら、やはり楽器として一番重要な音としての効能によってアメリカ文化に普及していった事実に、レーニンも苦笑いしているのではないかと想像する。
    また、テルミンを語る上で忘れてはならないのが、その電気と音楽を結び付けるマジックのような技術が、ロバート・モーグ博士によるシンセサイザーの発明に大きく影響をあたえたことである。
    『テルミン』との出会いがなければモーグ・シンセサイザーの発明もなかったであろうといわれており、そういったことを知るにつれても、テルミン博士、そして『テルミン』という若干マイナーな楽器が音楽の世界に実は大きな影響を与える存在であったことが感じられるのである。

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