小さきものたちの神

  • ディーエイチシー
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  • Amazon.co.jp ・本 (486ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887241244

作品紹介・あらすじ

インド南西部のケララ州を舞台に描かれる家族の栄華と没落、確執と愛、そして伝統的なカースト制と闘いながら成長していく双子の兄妹エスタとラヘル。早熟なイギリス人のいとこの死を機に、「歴史の愛の掟」はその冷酷な鎌をふるい始める-大地に根ざした壮大なユーモアとみずみずしい感覚でインド社会の小宇宙を描き出し、読者の五感に深い余韻を残す詩的な感動作。

感想・レビュー・書評

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  • 全480頁程だが、はじめから350頁あたりまでは忍耐が必要だった。インド人でないとわからない(?)ような言い回しや固有名詞に何の訳注もなく、ややつらい。その後は、それまで様々にほのめかされていた事件の具体像がラストに向けてどんどん鮮明になっていく。ピントのぼけた、時系列が入り乱れた映像をずっと見せ続けられた後で、それらが一気に合焦していく感じ。はじめの忍耐があっての気持ちよさではある。描写は詩的で、テーマは重い。単館系の映画になりそう。

  • 根強い差別が肯定される社会は恐ろしく理解不能な場所だ。
    文学的な価値のある本だというのはわかるが、ワクチンの副反応で弱っているときに読む本ではなかった。元気になってからも、読み返す気が起きるかわからない。
    この作家の別の本は読んでみたい。

  • 小さきものたちの神
    (和書)2012年12月04日 12:33
    1998 DHC アルンダティ ロイ, Arundhati Roy, 工藤 惺文


    朝日書評で柄谷行人さんがアルンダティ・ロイさんの本が紹介されていて興味を持って図書館で借りてみました。

    インドのイメージと言えばカースト制と神秘主義を思い浮かべるだけでした。それぐらいしかしらない。わたしはインドの神秘主義でインド詣でをする人を軽蔑し、カースト制を批判すべきだと思っていた。

    この作者はかなり気に入ったのだ作品を読んでいきたいと思える。こういう姿勢を明確にでき世界を明確に描くことができる人は尊敬できる。

    こういう人は信じられるし尊敬もできると思う。

  • 表紙は蓮なのだろうか、美しい植物の写真から思い描いていた抒情的イメージを、いい意味で裏切られた。著者はそんな“一筋縄”な作家じゃないと読了後に知った。

    登場人物は、幼い双子(女の子ラヘル/男の子エスタ)を中心に、その母アムー、母の兄、大叔母、祖母などの、ピクルス工場を経営する一族の物語。
    だが読むうちに、著者が“内なる自分”を、部分部分に切り分けて登場人物にうまく分配し、登場人物のそれぞれに自分自身を反映させることで、密度の濃い性格描写へ昇華させているように思えた。

    女の子ラヘルの無邪気な言動は、まさに著者の幼少体験の反映だろう。しかし、外に向けられ他人にもよく知られている著者の人格から造形されたラヘルと対をなすものとして、著者の中に潜む男性性や内向的指向といった著者の内に籠る別人格からは男の子エスタを造形し、物語を多面化しようとしたのであれば、うまいというほかない。

    また、この本には、それぞれの登場人物の個人的な出来事を軸としながらも、一貫して「社会のルール」が影としてまとわりついている。
    例えば、女性の権利-この物語では、兄妹のうち兄が当然のように工場と遺産を全部相続する。だから娘が離婚して実家に帰ってくるなんて、顰蹙ものの許されない行為だ。また、不可触民は、仕事ができても、人望があっても、可触民と同等ではない。愛しあうことも。それらの社会のルールが、登場人物の意識にインクが染みるように所々に現れてくる。

    社会のルール=大きなものの神による一元的固定的な観念に日常的に苦悶を感じていたのか、著者は、その神の陰に隠され、閉じ込められ、虐げられた、小さきものたちの神という存在を、ラヘルの視点、エスタの視点、アムーの母として女としての視点、不可触民の青年の視点…と著者が産んださまざまな登場人物の眼によって、私たちに気付かせたかったのかもしれない。

    インドを色濃く映しながら普遍的な物語性をもたせるのは並大抵ではないが、自分の実体験を基礎としながらも、個人またはインド固有のテーマでは終わらず、自己を種にしながらも、それにインドの風土や社会慣習から巧みに文学的要素を抽出し織り交ぜ、枝や蔓草のように物語を広げ、普遍性とオリジナリティとを併せ持たせているところがインドを超えて英語圏を中心に読者が広がった理由だろう。

    最後に、この本がDHCから出されているのにはある意味驚いた。コンビニや通販での化粧品販売会社という印象しかなかったから。
    (2012/5/13)

  • 最終盤20ぺージで綴られる文章のうつくしさ、華やかさ、はかなさ。これを味わえただけでも読む価値があった。外文の翻訳だということを忘れて没頭できた。ラストに物語を美しく結晶させる、全体を通しての語りの技術もすばらしい。
    悲劇性の中核をになうカーストの描写は、ところどころショッキングであった。今後、インドの文学の紹介は増えていくと思われ、こうした闇について、多くの考え方に触れられる機会を得られれば、と願う。

  • もしあなたがマルタ•トラーバをご存知で、しかも彼女の小説をもっと読みたかったと思っている方なら、この小説はきっと気にいるんじゃないかな。

    アルンダティ•ロイ、インド南西部ケララ州生まれ、美女。本書はまずマラヤーラム語を鏤めた英語で書かれ、ついで工藤惺文によって日本語で書かれた。様々な種類の比喩が飛び交い、驚くべきイメージや意味の媾合が読む者をアエメナムの夜へと誘う。集闇性の習慣を持つ私達おバカ読者は闇の中で迷子になるのだけれど、その状況がどうにも楽しくって仕方がなくなってしまうのだから救いようがない。そういう感傷的な物語ですね。

  • インドの世界感を感じる

  • 読みたい。『本から引き出された本』より。

  • 読み終えた後、ただ、切なさがいっぱいに迫ってくる。
    「書くべきことがあるときにだけ、私は書く」
    という作者の思いが本当に胸に迫る。

  • 言葉がはじけ、音と光を紡ぐ。
    滅多に読むことのないインドの女性作家の小説。ブッカー賞受賞作品。舞台はインドのケララ州。カースト制度などインド独自の社会背景を舞台に、男女の双子の時間が揺れる。二人の視点を通して描かれるインドは厳しく、しかし美しい匂いがする。文章からインドの色彩、雨の香りが漂ってくる。そんな詩情あふれる文章が非常に印象的。

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著者プロフィール

作家。ニューデリー在住。1997年に長編小説『小さきものたちの神』(DHC、1998年)でブッカー賞受賞。その他の著書に『わたしの愛したインド』(築地書館、2000年)、『帝国を壊すために』(岩波書店、2003年)、『誇りと抵抗――権力政治を葬る道のり』(集英社、2004年)、『民主主義のあとに生き残るものは』(岩波書店、2012年)など。

「2013年 『ゲリラと森を行く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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