ビロードうさぎ

  • 童話館出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (44ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887500365

感想・レビュー・書評

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  • 図書館や本屋で洋書絵本と翻訳絵本を両方入手して、
    両方とも読み味わうことをはじめた。

    そんな折に、書評家仲間のwildflowerさんからこんなメッセージをもらった。

    『ビロードのうさぎ』のなかの「ほんとう」の原著の言葉が知りたいと。

    問われて即答できないとすぐに検索にかかる。

    そして、オリジナルの"The Velveteen Rabbit"の書誌データから、
    「ほんとう」は"real"だとわかった。

    が、彼女が聞いていたのは、その文字通りのことの奥にあったのだ。

    彼女が気にかけていたのは、彼女の書評にあるように、
    『ふたりだけの世界の「ほんとう」』と
    『誰にとってもリアルな生き物としての「ほんとう」』の違いだった。

    2つの意味の「ほんとう」がオリジナルでは違う言葉で
    使い分けられているかどうかが気になっていたのだった。

    うさぎ自身も気にかけていたように、
    自分は「いままでもほんとうのうさぎ」だったのではないのか?

    それなのに、「だれもがあなたをほんとうのうさぎにみえるようにしてあげる」とは?

    1年前の私は、二通りの意味で使われる「ほんもの」を
    『「生きて命を持って動いている」という意味でのほんもの』と
    『「とりかえがきかないたったひとつのもの」という意味でのほんもの』と捉え、
    それらを両立させたものとして、本作品を捉えていた。

    さて、"The Velveteen Rabbit"を調べているうちに、
    私が1年前に読んだ酒井駒子/絵・抄訳の『ビロードのうさぎ』だけではなく、
    いしいももこ訳の『ビロードうさぎ』があることを初めて知ったのだった。

    しかも、いしいももこ訳の方が前に出ており、表紙の絵を比べると原著と同じで、
    どうやらこちらの方が忠実に訳されているものと思われた。

    それで、本書を手にすることにしたのである。

    こちらは縦書きで、章の立て方や絵はオリジナル通りである。

    絵に独特の手作り感があり、
    日本の絵本としての読みやすさが重視されているのが酒井駒子抄訳だと感じた。

    いしいももこ訳は原著が持っているそのままの雰囲気を伝える。

    そして、抄訳ではない訳だからこそ、
    2つの「ほんもの」にまつわるストーリーがより鮮明に見えてくる。

    抄訳では省略されているところにこんな言葉がある。

      うさぎは、じぶんがなにを見本にしてつくられているのか、知りませんでした。

      うさぎは、じっさいに、うさぎという生き物がいるということさえ、知らなかったのです。

      うさぎといえば、みんなじぶんとおなじように、お腹におがくずがつめてあるものだ、と思っていました。

    高価な機械仕掛けのおもちゃたちは、
    自分の中についている道具の名前を難しい専門用語で話すけれど、
    自分は何を基にして作られたのかさえも知らないというくだり。

    また、馬とうさぎとの会話でも、こんな言葉が省略されていた。

    馬が子供が本当にかわいがっていたおもちゃはほんものになると語ったときに、
    うさぎは、「そうなるとき、くるしい?」と聞いている。

    抄訳は一往復でまとめている対話がもう少し長いのだ。

    抄訳でもニュアンスはすべて入ってはいるのだが、
    このオリジナルの馬とうさぎの対話は、
    より「ほんとうのものになる」ということについて真摯に語っている様子が伝わってくる。

    「本の中の主人公」から「実際に肉体を持って生きること」に変化するぐらいに両者は違い、
    その変化が「ほんとうのものになる」ことだと感じられる表現なのである。

    この対話のときは、まだうさぎは、みすぼらしくなったり、
    目やひげがなくなってしまったりするのは、
    かなしいことだから、そういういやなことがおこらないで、
    ほんとうのうさぎになれればいいのになと思っていた。

    そして、「ビロードうさぎ」と「うさぎ」が出会ったときの衝撃もまた、
    ビロードうさぎがうさぎ自体を知らなかっただけに大きいのである。

    うしろ足がついていないくで、針さしのように、
    ただひとつのかたまりだったという特徴も、
    本物と大きく違うところであり、
    その違いもまた抄訳では触れられていない。

    このシーンは「ビロードうさぎ」の内面も少し長く描かれており、
    本物のうさぎに強い憧れの気持ちを抱いていたことがわかるのである。

    酒井駒子抄訳では、
    「最後の直前のページにある文字のない絵だけのページ」が
    非常に効果的に使われているが、
    いしいももこ訳では、
    ここをすべて原著に忠実に言葉で説明している。

    ビロードうさぎがほんものになったことを
    どう感じているのかを言葉にしているのである。

    そして、抄訳にはなく、原書と本書にあったことの言葉が
    見事に2つのほんとうを説明し尽くしていたのである。

    But he never knew that it really was his own Bunny, come back to look at the child who had first helped him to be Real.

    「さいしょのとき、ぼうやがほんとうのうさぎになるのを手伝ってやった、あのうさぎ」

    ビロードのうさぎが、命を持つ本当のうさぎとして「生まれる」には、
    その前に愛される存在である必要があったのだ。

    「ぼうやのほんとうのうさぎ」だったときは、
    愛によって魂を持った段階で、
    しかもその魂の宿る人形としての身体はぼろぼろになって
    一度死を迎える寸前になる。

    「だれが見てもほんとうのうさぎ」になるとは、
    愛された人形としての身体を一度手放し、
    新たに肉体を持つことではないのか。

    2つの本物を結び付けているのは、死であり誕生である。

    抄訳版を読み、さらに、本書を読んだことによって
    私なりに2つのほんものの関係が理解できたのだ。

  • 『ビロードのうさぎ』は酒井駒子さんバージョンで知り、こちらは読んだことがありませんでした。
    こちらの方が文章が多く、より深く感情移入することができました。石井桃子さんの分かり易くて、優しい表現の訳が素晴らしいです。
    酒井駒子さんは絵で表現されてるところがあるので、読み聞かせてあげる時や、自分で長めの文章も読める子ならこちらの方をぜひ読んでほしいと感じました。
    どちらの本もいい所があるので、このお話が前よりもっと好きになりました。

  • 何度読んでもせつない。

  • ほんものになるということ。そんなテーマについてのメッセージが込められているように思います。どう生きるか、悩み考えていたじゅうぶん大人のいまの私に、絵本ながらまっすぐ胸に刺さった絵本でした。

    ほんものになるということ。
    わたしたちの心とからだのなかに、何かが起こるってこと。能力や外見、みっともない、くるしいなんてことは全然気にならなく、もはやどうでもよくなるということ。そのために、どんな犠牲を払ったって気にならなく、どうでもよいということ。
    本物になりさえすれば、ずっとそのままで、分かる人にはずっと美しい。どんなことをしてどんなふるまいをしていたって。

  • 子供とおもちゃとの関係は、大人には測りきれないものがあるわね…

  • 物語りもクライマックスにさしかかる頃、子ども部屋の妖精がでてくるあたりでウルり。猩紅熱のくだりでゴミ箱の裏に置き捨てられたあたりでヒヤリ。ラストは…。6歳の娘に読み聞かせをしていて長いかなぁと思ったのですが「さいごまでよんでよんで!」と一気に読みました。素敵なお話しですね。

  • "ほんもの"になるには。

    いいお話!心があったかくなった。

    2014.08.15

  • 酒井さんの絵を先に見てしまったので、絵は外国っぽい(あまり日本人になじみがない感じ)ですが、文章はさすがの石井桃子さん。
    抄訳ではあらわされてないこともきちんと書かれ、納得のいく訳でした。
    感動です。子どもの気持ちをよくあらわしてくれている絵本ですね。

  • こどもの時、好きだった絵本。
    よく最後を読んで泣いたものです。

  • 日本語では読んだことがないんだけど、なぜか洋書で見つからなかった。 愛されることで本物になれたベルベットのうさぎのお話です。 哀しい・・・

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