命は誰のものか (ディスカヴァー携書)

著者 :
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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本棚登録 : 155
感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784887597341

作品紹介・あらすじ

2009年7月、臓器移植法改正案が成立した。「脳死」を人の死と定義し、本人の臓器提供拒否の意思表示がない限り、家族の同意により臓器を摘出することができるという内容だ。改正の背景には移植する臓器の不足、特に子どもの臓器の不足がある。しかし、脳死が本当に人の死なのかどうか議論が分かれるし、同様の法律を施行している国々でも臓器不足は解決していない。家族だからといって臓器提供を決めてよいのかという疑問も残る。…医療技術が進んだからこその複雑な問題が数多く起こっている現在。自分の生死が自分で決められるかのような状況があり、また、他人の生死を決めざるをえないこともある。本書は脳死・臓器移植のほか「出生前診断」「代理出産」「障害児の治療停止」「尊厳死と安楽死」など、私たち一人ひとりが迫られる生と死の選択について深く追究していく。

感想・レビュー・書評

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  • 2019.5頃読了

  • 【書評】品川哲彦(読書人2009.10.02日)。

  • 医療分野における難問―『薬や医療設備不足から起こる生死の決定』……誰を生かし、誰を犠牲にするかの択一、『障害新生児の治療停止』……生まれてきた子に重い障害がある場合の生死選択、『不幸な子どもを産まない運動』……出生前診断による中絶、『代理出産』……おばあさんが孫を産む時代、『自己決定と子どもの権利』……自分の子どもの臓器提供、『延命治療』……死の権利は誰にあるのか、『脳死』……脳死は死と同一か、等々、重い話や実例が多く、他人事ですが他人事で終わらせてはいけない問題に色々考えさせられました。
    医療技術の進歩によって、これまでは助からなかった命が助かるようになる。これだけなら問題にはなりませんが、進歩したからこそ起こる問題です。
    不妊に悩まされている母親が、どうしても子どもが欲しいと考え、行き着いた答えが『自分の母親に子どもを産んでもらう代理出産』、障害児を育てる苦労・苦悩を救うための中絶、臓器提供の決定権は誰が担うのか、考えれば考える程に答えが出ません。実際、現在でも明確な正解は導かれていません。
    驚いたのは、子ども1人に対して親が5人もいる事が現実にあるという事です。生殖機能不全の夫婦+提供された卵子+提供された精子+代理出産の女性の5人によって誕生した子どもがそうですが、産みの親と育ての親と提供された受精卵という複雑な関係は、一体誰が想像できたでしょう。
    一人で生きていくのにもリスクが大きいのに、結婚したらパートナーが持つリスクも一緒に抱えないといけない。子どもが生まれたらもっとリスクが大きくなる。マイナス面だけを見ればきりがないですが、看過できません。
    障害のある子どもを育てる苦労は想像以上だと思いますが、偏見や差別やいじめ等、まだまだ社会が寛容とは言えない状況ですし、もし僕の子どもが胎児の段階で障害があると分かったら、中絶を選択するかも知れません。少なくとも、その子を生み育てる!と断言はできませんね……。

    ところで、細胞シートという技術があって、簡単に説明すると、
    患者自身の細胞を培養してシート状にしたもの。患部に貼り、生着させることによって、これまで治療の難しかった様々な病気で症状の改善・治癒を期待できるとされ、再生医療の一つとして注目されている。
    メリットとして、患者自身の細胞を用いるため免疫拒絶反応が起こらず、非常に早く細胞が生着すること、残存機能を損なわずに根治を目指すことも可能であることなどが挙げられる。臓器移植には、ドナー不足や術後の免疫抑制剤が高価であるなどの問題点があったが、細胞シートによる治療が普及すれば臓器移植に頼らざるを得ないような疾患は減ると考えられる。また、手術で患部を摘出すると失われた機能は元に戻らないが、細胞シートを用いれば一時的に失う機能を最小限に抑えつつ、最終的には病前の状態まで回復させることも理論上は可能で、クオリティー・オブ・ライフ(QOL)の向上が見込めると期待されている。
    知恵蔵より

    こういう医療技術も発達すると、今抱えている臓器移植の問題はクリアできそうです。
    今は過渡期で、もっともっと技術が進歩すれば、上記のような問題はなくなるのでしょうが、それまでに人類が滅んでいないか(笑)……。
    でも、最終的には自己決定というところに落ち着いても、やっぱり人間一人で生きているわけではないと改めて気付かされます。いや、だからこそ自己決定の重みが増すわけで、たくさんの人と関わりながら、常に決定をしていき、する・しないの選択を迫られる……。「なにせ生きるのは初めてなんだ」、誰でも失敗はします。その寛容さがもっと社会にあってもいいのに、なんて思います。
    感想がめちゃくちゃですが(笑)、僕の評価はA+にします。

  • 所在;展示架
    請求記号;490.15/Ka17
    資料ID;11501513
    コメント;
    医療技術が目まぐるしく進歩し、それを享受する一方で医療に関する倫理など、を日常生活であまり考えることが無い人が、私も含めて多いと思います。
    テレビ等で見る臓器移植についてのニュースや代理出産、尊厳死と安楽死の違い、障がい児の治療停止など身の回りにある生と死の選択についてまず知ってみようと思う人は、是非読んでみて下さい!!
    選書担当;島村

  • 医療技術や生殖技術が発展するにつれ、誰も予想できなかった生命倫理上の問題がいくつも出現するようになりました。本書はそのような問題を概観するものです。
    生命倫理の教科書は数多く出版されていますが、本書は新書本サイズで生命倫理上の問題がコンパクトにまとめられています。ただ、問題はたくさん取り上げていますが、私達はそれに対しどう考えるのがよいのか、現代日本で優勢な意見はどういうものか等についてはあまり触れていません。著者の意見も無難なもので、特に真新しい意見はないように思われます。
    しかし人工授精や脳死などの定番の問題は議論が尽くされ、結論も出ませんが意見もひと通り出揃ったように思います。もし、脳死が当たり前に人の死だという価値観の世界で生まれ育ったなら、議論せずともそれを自然に受け入れるでしょう。しかしそういう世界にするためには、議論を尽くして大多数の国民がそれを受け入れられるようにならないといけません。卵が先か鶏が先かという状況にあるのが現在の状況だと感じます。
    しかしビジネスの観点から見れば、脳死を人の死と認めることで利益を得る人が増えます。利益額も相当なものになると思われます。ここのところ、利益を生み出す=正義のような風潮を感じます。そうなると脳死肯定派が最終的に勝利を収めるのかもしれません。
    ともかく、将来的に世論がどっちに傾くにせよ、どのような問題が指摘されているかを知るのは有意義ですし、本書によってその問題群が概観できます。

  • 命に関わる様々な事象(体外受精、代理出産、出生前診断 etc...)が書いてある。わかりやすい

  • 大学の講義でも利用していた、生命倫理についての本。生命倫理をめぐる諸問題について、日本と諸外国の歴史を振り返りながら、それぞれの問題の論点を整理している。また生命倫理が今後どうあるべきかということを端的に述べている。

    多少、読みづらい部分はあったものの、生命倫理の問題について幅広く扱っていてよかった。生命倫理の入門書として最適だと感じた。

    生命倫理について学びたい人に、まずおすすめしたい本。

  • 生命倫理に関わる内容を見聞するたびに痛感するのは、やっぱり「人間」という生き物の「傲慢さ」だなぁと…

  • 生命倫理に関するトピックを整理するには手頃な分量。著者の価値判断が含まれるので注意が必要かも。

  • 臓器移植や人工妊娠中絶など、他人事のようで私たち一人ひとりに身近な「死生観」について考えられる一冊です。事例を挙げて問題提起がされており、著者自身の意見はあまり強調されておらず、各章のタイトルが自分自身にまっすぐ問いかけてくるような感じでした。

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著者プロフィール

1951年生。筑波大学大学院哲学・思想研究科博士課程修了。山梨大学大学院総合研究部教授。専門はフランス哲学、応用倫理学。著書:『死ぬ権利』(勁草書房)、共編著:『生命倫理の源流』(岩波書店)、『メタバイオエシックスの構築へ』(NTT出版)、共著:『エピステモロジーの現在』(慶應義塾大学出版会)、『「いのちの思想」を掘りおこす』(岩波書店)ほか。

「2017年 『デカルト 医学論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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