ジャン・ピアジェ: 21世紀への知

制作 : 白井 桂一 
  • 西田書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784888663915

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  • ピアジェの<思考の発達段階説> -2014.09.18記-
     
    Ⅰ. 感覚運動期=sensory-moter period- 0~2歳
    自己と他者の区別が未分離な乳児は、対象の認知を感覚と運動に頼って体感的に行う発達段階にある。
    この段階の「自己中心性」とは、外界の事物の認知を刺激として感じるほかなく、自己の身体と外部の事物との関係の中でしか認知できないという意味である。自分の身体こそがあらゆる活動と認識の根拠なのであり、この段階の発達で課題となってくるのは「脱中心化」即ち「主体・客体の分化」であるといえよう。
    1歳頃-8-12ヶ月頃-になってくると、単純な快刺激を求めるような目標を設定して、目標達成の為の手段としてシェマ-基本的行動様式-を利用するようになる。
    2歳に近づく段階では、不完全ではあるが、対象恒常性の獲得も行われ、実際に眼の前に存在しない事物についても記憶やイメージをもてるようになる。
    これは、次の発達段階である表象期-前操作期と操作期といった内面心理に形成する心像・概念・イメージ・記憶を利用する段階-の準備でもある。

    Ⅱ. 前操作期=preoperational period- 2~7歳
    前操作期は、表象期の前半期であり、心の内面に表象-イメージ・概念・言語の意味・記憶-を思い浮かべることはできるが、それらを十分に操作することができず自己中心性-身体性による認知-を完全には脱却できていない段階である。
    この時期には、外部の事物や出来事を内面化する機能-同化-が発達し、実際に眼の前にはない対象と内面的な関係をもったり、言語的な表現を行ったりすることが出来るようになる。
    この時期によく見られる遊びである、社会的な役割イメージを再現する「ごっこ遊び-ままごと・お医者さんごっこ・買い物ごっこ-」は、前操作期で獲得した概念化と同化の心理機能をうまく活用した遊びだといえる。
    言語機能も急速に発達してきて、大人と通常の日常会話を交わすことも可能になってくるが、抽象的な思考や実際的に具体的な効果を現す思考を持つことはまだ難しい段階である。
    事物や状況に即応した心理機能の発達が中心で、内面操作もシンボル-イメージ-の再現などに限定されるため、記憶の長期保存や可逆性のある論理思考などといった操作的な思考がまだできないために「前操作期」といった呼称になっている。
    一般性と論理性のある操作的な「シェマ」が獲得できていないために、この段階の子どもは個別的で経験的な一般性の乏しい「シェマ」に活動を依存していると考えられる。

    Ⅲ. 具体的操作期=concrete operational period- 7~12歳
    表象期の後半期が操作期であり、その操作期は更に「具体的操作期」と「形式的操作期」に分類される。
    具体的な外界の物質を利用することで、操作的な精神活動をする時期が具体的操作期で、外部の事物の助けを借りずに「頭の中で執り行う論理的-数理的-かつ抽象的な思考」はまだ十分に行うことができない。
    対象恒常性が確立することで、表象の保存-比較的長期の保存-ができるようになり、自分の思考を可逆的-ある思考をもったり、それを考えるのをやめたりする思考-に柔軟性をもって操作できるようになる。
    脱中心化によって自己中心性も大方脱してくる段階で、自分の活動が他者に与える影響を考慮することも可能になり、社会的な相互作用を理解する基礎が形成されてくる。
    この「社会的な相互作用を実際の集団生活の中で経験的に深く理解していく」のが、学校教育の現場であり、多様な他者と取り結ぶ友人関係である。
    故に、基礎的な学校教育-7-12,15歳-を受ける時期は、「規範意識や道徳観念といった社会適応の心理機能を獲得する社会化の過程」と考えることができる。
    フーコーなどはこの近代的な学校教育の社会化の過程を個人の多様性の疎外や社会的価値観の普及につながると批判的に考察したわけだが、一般に常識的感覚のある人間というのはこの学校教育や家庭の躾-過度に歪んでいない虐待ではない躾-が与える価値観を素直に受容してきた人間であるといえる。
    この時期には思考内容を具体的な事物に応じて操作することができるし、それを簡単な行動に移すこともできるが、複雑な思考や抽象的な論理展開を行うことができず、具体的な対象へ与える作用は非常に弱いものである。

    Ⅳ. 形式的操作期=formal operational period- 12歳以降
    ピアジェの理論で、人の思考・知能の発達段階としての到達地点が、形式的操作期である。およそ12歳でその形式的操作の精神機能を獲得するとされている。
    人間は、個別的な知識や経験を一生涯積み重ねていくことはできるが、基本的な思考方法や認識構造として「形式的操作期以上の超越的な枠組み」から物事を考察したり計算したりすることは出来ない。
    その発達段階の構造に人間の精神機能は従属するというのが、ピアジェの発生構造論的な思考方法でもある。
    この思春期前期に完成する思考の発達段階は、他者と共通理解可能な形式的操作と抽象的な論理的思考の操作を特徴とするものである。
    極端に言えば、自然科学的な世界観に基づく合理的な思考の遂行が可能になる発達段階といえば分かり易いかもしれない。
    自然科学とは実験や観察に基づいて仮説の妥当性を検証することによって確からしい知見を積み重ねていく学問であるが、この形式的操作期では、現実に観察される出来事以外に「もし~であれば、どうなるだろうか?」という仮説を立てる思考形態が確立される。
    科学的思考方法に欠かすことのできない、「仮説を打ち立てて、それを現実の出来事に当てはめて確認する」という仮説演繹法の思考が可能になる。
    それと同時に「現実の個別の出来事を経験しながら、そこに共通する特徴を取り上げ法則性を明らかにする」という妥当な推論に基づく帰納法の思考も可能になってくる。
    形式的操作期の特徴は、「自由に概念・知識・イメ-ジを頭の中で操作して創造的活動を行うことが可能になること」であり、「現実的な事柄の正しさを仮説演繹的に検証することが可能になること」である。形式的操作期に獲得する精神機能によって、私たちはいつも「現在よりも前へと成長・発展・進歩を遂げていくことができる」とするのがピアジェの必然的でポジティブな世界観だといえるが、やや科学的な理論や技術の進歩に偏った発達観だという批判もあるかもしれない。

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