見えない人間 (1)

  • 南雲堂フェニックス
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本棚登録 : 99
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784888963350

作品紹介・あらすじ

主人公の「僕」は、ニューヨーク・ハーレムの廃墟になったビルの地下室の穴ぐらに独りで暮らす黒人青年。物語はそこでの回想ではじまる。地元の有力者が集うパーティの余興に、目隠しをして黒人少年同士で殴り合いをさせられた後に演説をした褒美として、折りかばんに入った大学の給費生資格書をもらう。大学3年の時、白人の理事を車で案内する際に、その理事の希望どおりに黒人のスラム街に連れて行く。それが原因で、「僕」は退学処分となる。そのために「僕」はニューヨークへ行き金を稼ぐためにペンキ会社で働くが、ボイラーの爆発事故に遭い、その会社も辞めさせられてしまう。芒然自失の状態でハーレムをさまよっているうちに倒れ、幸い黒人の老婆に助けられ、その老婆のアパートに居候することになる。

感想・レビュー・書評

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  •  大学の白人の偉い人に言われるままやばい黒人がいる小屋まで案内をして、そこでやばい黒人から近親相関の話を偉い白人に聴かせてしまい、ショックで倒れた白人の目を覚まさせるために酒をさがしにゴールデン・デイというめちゃくちゃなバーに行き、そこで状況はさらに悪化し、めちゃくちゃな介抱がなされ、ふらふらになりながら偉い白人を大学に連れ帰る。
     真面目で、弁が立ち、賢い主人公は、何も悪いことをしていないのに、追い詰められていく。
     偉い白人を連れ回して黒人のある側面を目撃させてしまったことに、大学の黒人の偉い人が知ってしまったので、偉い黒人は、主人公を大学から追放してしまう。その徹底した高圧的なふるまいは、この大学を建設するにいたる感動的演説をする偉い黒人のふるまいとは、同一人物であるのに大変な違いだった。その理不尽に主人公は怒る。
     主人公は大学を追放される。追放され際に偉い黒人から紹介状を渡され、ニューヨークにたどり着くが、その紹介状には、主人公を貶める虚偽の文面が書かれていた。たった一人の学生への、偉い黒人による徹底的な仕打ち。
     同情された主人公はペンキ工場で働くことになるが、そこで貧しい白人や、仕事をとられることをおそれる老人によって迫害され、致命傷を負わされてしまう。
     入院中、電気ショックの手術などをうけて、頭がおかしくなりそうになりながら、病院から出た主人公は、ニューヨークの名物おばさんに保護されるが、そこで職を探しながらぶらぶらしていると、芋を売る老人にであい、そこでバターを塗ってもらって、芋を食べながら自由に歩くことで、とてつもない解放感を覚える。
     ある日に、アパートを追い出された老夫婦の姿があり、そこで主人公は、法を守っていくこと、その大切さを説く演説をして、白人の活動家に注目される。主人公は運動に誘われるが、それを断って、保護してくれたおばさんのところに戻る。
     そこで前半は終わる。
     主人公を追放した黒人の偉い人も、工場の地下でバルブを操作する貧しい男も、その黒人を追い出すために、徹底しただまし討ちをする。紹介状、または、バルブを逆にまわせと言って、機械を暴走させて、爆発に巻き込ませて主人公に重傷を負わせるのだ。社会的に、肉体的に、抹殺しようとしてきた二人とも、己の地位や職を絶対的に守ろうとして、悪魔的に疑心暗鬼になっている点で、共通している。

    • りまのさん
      ハタハタさん
      いくらでも待ちますし、私めの1言など、お気になさらないでくださいね。続きを読むのがイヤなら、それで、よろしいのです。ハタハタさ...
      ハタハタさん
      いくらでも待ちますし、私めの1言など、お気になさらないでくださいね。続きを読むのがイヤなら、それで、よろしいのです。ハタハタさんは、自由なのです。もちろん。
      りまの
      2021/02/28
    • ハタハタさん
      りまのさん
      いえいえ、この本は読まないといけないので、りまのさんの一言は励みになりますよ!
      りまのさん
      いえいえ、この本は読まないといけないので、りまのさんの一言は励みになりますよ!
      2021/03/04
    • りまのさん
      ハタハタさん
      それは、嬉しいです!
      ハタハタさん
      それは、嬉しいです!
      2021/03/04
  • 「この小説の終わりで、主人公はアパートの建物の、誰からも忘れられた地下室に隠れているが、彼のジレンマの本当の解決策は見いだしていない。ただ、彼の人間性がほかの人間(白人、黒人を問わず)には見えないのであり、自力で自らの思想や感情、さらには存在そのものをも発見しなければならない、という認識に到達しているばかりであるのだ。だが、自分自身の物語を小説の形で発表するという行為そのものが、実は彼の経験の無意味さに秩序を与え、その結果、人生に対する肯定、謳歌につながっている。主人公も語っているように、彼はやがて地上へ出て行き、もう一度、世界に「挑戦」するつもりなのだ。

    この小説は、主人公が二十年ばかりの生涯に経験した苦痛の総まとめに他ならぬ――それを語ることが、そのままカタルシスになっているのだ。いかなる社会的メッセージも、体系的な信念も、知的な結論も、この小説からは生まれてこない。それを語ることに見いだした主人公の慰めがあるばかりなのだ。だが、それを物語るプロセスにおいて、主人公は彼の存在の、いや、あらゆる「存在」の喜劇的な側面に気づかざるを得ない――それゆえに、彼の語りにはユーモアさえも漂っている。(エリスンは、実におかしい小説を書き上げたと思った、とインタビューで語ったことがある。)

    『見えない人間』は、それが主人公の忍耐力を賞揚しているという意味では悲劇的であり、渾沌の極みにあって、主人公が人生の豊穣さを、選択することのできる(その選択がしばしば間違っているにしても)可能性の豊富さを証言しているという意味では喜劇的であるのだ。」『アメリカの息子たち』マーゴリーズ

    「人間がまず存在の無目的性を認識しさえすれば、その存在に何らかの意義ある形を与える可能性を発見することもできるのではないか――ブルースの芸術家が、意味のない苦痛や苦悩に形をあたえるのとまったく同じ方法で」『アメリカの息子たち』マーゴリーズ

  •  
    ── エリスン/松本 昇・訳
    《見えない人間(1)200410‥ 南雲堂フェニックス》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4888963355
     
    (20190719)
     

  • 黒人文学の文脈で読んだ。50sアメリカの白人社会のなかで、黒人という記号でしか見られなくなった青年の話。けど、都市の多様性のなかに個人が埋没していくということは、日本でも東京でも起こりうることだ。人種文学って先入観なしで読まれるべき!

  • 埴谷雄高さんの紹介より。

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著者プロフィール

1914-1994年。アメリカの作家。オクラホマ・シティ生まれ。黒人大学で作曲家を志すがやがて文学に傾倒してニューヨークへ移住。ハーレムで働きながら黒人文学の先駆者リチャード・ライトらと交流し、短篇や書評を雑誌に寄稿する。1952年発表の長篇『見えない人間』は絶賛を浴び、全米図書賞を受賞。その後、各地の大学でアメリカ文学とロシア文学を講じながら評論等を執筆。

「2020年 『見えない人間(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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