国産材はなぜ売れなかったのか

著者 :
  • 日本林業調査会
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784889651935

作品紹介・あらすじ

刊行に寄せて
 なぜ、国産材は使われないのか。本書は、この国産材が売れなかった“現実”から目をそらさずに、問題点を的確に抉り出し、その解決方向を示した貴重な1冊です。著者の荻大陸氏は、何よりも現場を第一に考える研究者で、具体的かつ詳細な調査結果をもとに結論を導き出す姿勢が一貫しています。そうした荻氏の長年にわたる研究・調査活動の成果を集大成したものが本書と言えます。
 これから真の「国産材時代」を迎えるためには、「失敗の研究」が必要です。これまでの過ちを直視し、その原因を明らかにすることなしには、新たなスタートは切れません。本書で指摘されている多くの教訓が活かされ、地に足のついた林業再生の取り組みが各方面で展開されていくことを願ってやみません。
平成21年10月(社)日本林業協会副会長・元林野庁長官 前田直登

感想・レビュー・書評

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  • 日本林業の危機の主な原因「国産材が売れない」。それは安い外材の流入だけでなく,売る努力をしてこなかった国産材自体にもあった。日本の木材業界がこの問題を抱えるようになった経緯と現状が詳しくそして分かりやすく語られている。

  • 国産材が来た道を需要の面から解き明かす。
    もっと早く世に出るべきであった本。

  • ・製材品がまともな建材(狂わず、変質しないもの)であったなら
     集成材や新建材などの代替材が、これほど進出することは
     なかった。

    ・「売れなくて当たり前」というべき国産材の欠陥

    ・第二次大戦後、日本の木材需要は、昭和48年(1973年)まで
     は、ほぼ一貫して急増し続けた。

     昭和35年(1960年)ごろまでは、木材の需要と供給の間には
     大きなギャップがあった。木材価格だけは、独歩高と言われる 
     上昇を示した。

     この時代の林家(りんか)は、労せずして立木の価値上昇を 
     期待できた。

    ・製材業は、加工業としての経営で、利益をあげる志向性が
     極めて乏しかった。

    ・「商売は法律の枠内でやれ」という極めて当たり前のことが
     守られていない。これが林材業界の姿であった。

    ・日本の林業は、一部の例外を除き、もともと間伐をしないのが
     一般的であった。

    ・昭和40年代、外材によって「空気売り」というバブルが崩壊し、
     粗悪な国産製材品が後退を余儀なくされ、それが丸太価格の
     構造変化を引き起こした。

    ・粗悪な製材品であふれている市場の中で、普通のものを作れば
     それはすごく輝いて見える。そのようにして、昭和39年~40年
     (1964~1965)にかけて誕生したのが「東濃檜」という銘柄材。

     製材メーカー6社が、歩切れのない正量品、中身のごまかしの
     ない良心的な製材品を製造した。

    ・東濃檜の銘柄形成と、集成材の登場は、ほぼ同時期に
     重なっている。

     集成材は、完全乾燥したラミナ(板材)を接着剤で積層接着
     して製造する寸法精度の高い、狂いの少ない規格品である。

    ・改革の最大の核心は、製材品の乾燥であった。

    ・木材乾燥を実行し、欠陥材と縁を切った製材品を作ればいい
     だけなのだが、このような取り組み(例:美作)が全国的な広がり
     になることはなかった。

    ・見え掛かり部分では、特に柱に代表されるグレードアップ化が
     起こり、そこに役物(やくもの)=国産材を使用することが定着。

     見え掛かり部材=役物、見え隠れ部材=並物 という対応が
     できあがっていく。

    ・昭和41年(1966年)以降の価格急騰によって、ヒノキはスギの
     何倍もの価値に跳ね上がり、ヒノキ=高級材との神話を生むに
     至る。

     「若齢木から役物をとる」という条件の中で、ヒノキの高価値化、
     ヒノキ神話が生まれた。

    ・国産材製材業界は、外材の登場によって「空気売り」が崩壊
     したあと、外材とまともに競争する方向をとらなかった。

     コスト競争力を高めず、逃げ道になったのが、役物生産であった

    ・一般的に言って、森林所有者は自己の所有する木の価値を
     よく知らないのが現実である。

     丸太の価値は、その80%は造材によって決まる。どんな高価値
     を備えた木も造材の仕方一つで、低価値物になりかねない。

    ・役物時代の到来のなかで、役物適所をまとまって産出できたの
     が、奈良県の吉野林業地帯。

    ・昭和48年(1973年)を画期として、戦後の木材需給関係は
     大きく変化した。

    ・外材丸太には、圧倒的な安定供給力があった。

    ・1980年代にはいると、需要拡大期は終わり、製材加工産業は
     一転して淘汰の時代を迎えることになった。

    ・木材乾燥が最大の課題であることは、80年代には誰の目にも
     明らかになってした。しかし乾燥にまともに取り組んだ製材業者
     はほんの一握りであった。

     そのことが、90年代に入り、需要の製材品離れ=集成材の
     時代を招く結果となった。

    ・平成4年(1992年)以降、スギと米ツガの価格は逆転し、スギは
     米ツガを下回るようになった。

     このような長期継続的な材価の下落は、森林管理に対する
     林家の意欲をいよいよ低下せしめ、例えば伐採後の植林が
     放棄される植林放棄地の増加など深刻な影響を及ぼすように
     なった。

    ・戦後の国産材の価格現象
     1)昭和40年代前半まで続いた「小丸太の高価値化」
     2)上記の終息と同時に起きてきた「ヒノキの高価値化」
     3)上記の終息と並行してはじまり、そして外材以下にまで
       落ち込んだ平成の「国産材価格の長期下落」

    ・平成7年(1995年)から平成8年(1996年)にかけて製材業界
     全体を劇的な変化の波が襲った。

     主要な製材品(構造材)が、構造用集成材にとって代わられる
     「集成材の時代」が始まった。

    ・ムク材(製材品)が上位、集成材が下位というかつての木材の
     価値序列関係が逆転した。

    ・役物時代の終焉に重なって、品質的にも価格的にも、集成材
     が建築材の標準になった。

    ・長い間の粗悪品生産のつけが構造材の「製材品離れ」という
     形で一気に回ってきた。

     これには在来工法住宅の建築プロセスが、大工による部材の
     手加工から、機械プレカット加工にシフトしたことも影響した。

    ・集成材時代は、北米材から欧州材時代の本格化でもあった。

    ・集成材に比べ、製材品はいまだ加工のすんでいない半製品で
     ある、という位置づけになってしまった。

    ・集成材時代の製材工場は、製材機に加え、人工乾燥期(KD)
     とモルダー(材面加工機)が標準装備となったのである。

    ・山元に中間土場(どば)を設けるなど、市場を通さない直送
     システムへの模索が行われつつある。(例:サテライト美並)

    ・21世紀に入り、国産材を取り巻く状況は様変わりした。
     外材時代が終わったのである。

    ・外材時代の終焉をいち早く認識したのは、川下の住宅産業で
     ある。平成13年(2001年)、それまで外材一辺倒に依存してきた
     大手住宅メーカーの中から、国産材を積極的に使おうという
     国産材シフトの動きが出てきた。

     その代表格が在来工法住宅メーカー最大手の住友林業である

    ・国産材には、しっかり身元保証できるという長所がある。

    ・平成13年(2001年)は、中国が輸入大国として、外材市場に
     台頭してきた。その結果、ロシア材が買えなくなった。

    ・国産材シフトの基底には、外材の供給不安だけではなく、
     消費者の国産材支持がある。

    ・「板の時代」が始まった。現在の木材需要の流れは、確実に
     そう動いている。

    ・ナイス福岡市場では、板を国産材復権の看板商品と位置づけ
     市場、浜問屋をあげて板材の集荷、販売に取り組んでいる。

    ・中高層住宅のマンションやオフィスビルなど、非木質建築の
     内装材として木材が使われる傾向が出てきた。

    ・健康志向→自然素材→木へのこだわり という関係が、
     地域住宅ビルダーへの聞き取り調査の結果から、見てとれる。

    ・洋室という従来ほとんど木など使われてこなかった空間に、
     新規に木が使用され出した。

     この新しい重要である板を、「加工板」と呼ぶ。

    ・施主からの評価: 
     スギ「やわらかい」「あたたかい」 ヒノキ「かたい」「つめたい」

    ・アパート、マンションなどの集合住宅の居住者の多くは、本来
     木造住宅に住みたかったにも関わらず、それがかなわなかった
     人達である。(参考「森林と生活に関する世論調査」)

     このような人々は、木材の潜在的需要者なのである。

    ・中高層の集合住宅を供給するビルダーの中から、木造に対する
     潜在的ニーズの掘り起こしに目を向ける所があらわれ出した。

     それがこうした建築における内装の木質化傾向だといってよい。

    ・板類を使わないリフォームは珍しい。

    ・内外装用の板類は、グローバル性をもった部材、部品である。
     製品での木材輸出を中心となって担うのは、板類なのである。

    ・板の本格的な製品輸出を実現したメーカーの代表例が、
     池見林産工業である。

     現地に、自社とその商品を熟知したバイヤーを置いた。

    ・丸太の長さは、これまで3m、4m、6mが主流であった。
     これは、住宅部材のタテ使い(3m、6m)とヨコ使い(4m)から
     来ており、3~4mが基準寸法だった。

     しかし板の時代には、(エレベーターで運べる)2mが基準寸法
     である。

    ・建築材はいまや「乾燥」「強度」「寸法精度」といった木材の
     品質を客観的基準に基づいて明示することが求められる時代に
     なってきた。

     (いずれ見直される「建築基準法4号特例」が品質の明示を
      求めるようになる)

    ・これまでムク材は、自然素材であることに甘え過ぎていた。
     まずは、ムク製材品の品質を最大限、集成材に近づけることを
     前提に、ムク材の優位性を、例えば「ケミカルズフリー(化学
     薬品無使用)」としてアピールする必要性がある。

    ・中小製材業者は、集成材とは競合しない非構造材にむかわ
     ざるを得ない。

     板はいわゆる役物(和室用化粧部材)ではないが、役物に
     替わる唯一の高付加価値製品といってよく、中小製材業者
     でもなんとか食い込める余地がある。

    ・製材業者にとってなにより重要なのは、規模の大小にかかわらず
     直販ルートを持つことである。

    ・需要が低迷し出した80年代以降は、販売に邁進することが
     経営トップの主要な活動の時代になった。

     にも関わらず、実際にはそのような対応をとった所は少なかった。
     役物時代が依然として続いていたことから、製材業者の多くは
     相変わらず原木市場通いに大半を費やす経営から抜け出せ
     なかった。

    ・製材業者は過剰だが、素材生産業者は、多くの地域において
     過小である。

    ・事実上の半製品(製材行程のみの製材品)を販売することに
     よるしわ寄せが、安い丸太価格となって林業(山元)に
     跳ね返っている。

    ・在来工法住宅以外の建築に対する需要開拓を怠ってきた。
     新規に発生してきた板の需要は、すべての建築に及んでいる。

    ・第二次大戦前までの日本の林業の多くは、薪炭産業として
     営まれてきた。戦後、それが大々的に用材林業に変わった。

    ・戦後林業の特徴は、植栽樹種が極端にスギ、ヒノキに偏重し
     かつ植栽本数から作業方法までほぼ全国一律の(1)モノ
     カルチャー(単相、単純)林業であり、さらにそれがアジア
     モンスーンという気候風土条件に真っ向から立ち向かう
     (2)育林経費多投型の林業であるということ。
     
     戦後林業は、史上類を見ない高コスト林業となっている。

    ・林業はいよいよ低コスト化を迫られている。

    ・焼畑林業の見直し(例:新潟県山北町)
     焼畑産物は、差別化商品としての競争力を備えている。

    ・鳥獣害(シカ等)問題は、農林業に立ちふさがる大きな壁であり
     中山間地の定住さえ脅かす状況に至っている。

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著者プロフィール

1946年北海道生まれ
東京大学大学院農学系研究科林学専攻博士課程修了、農学博士
京都大学農学部助手、京都短期大学教授、成美大学教授
現在、森林・林業問題リサーチャーとして調査研究講演活動に従事
主な著書に『国産材はなぜ売れなかったのか』(日本林業調査会(J-FIC))、『国際化時代の森林資源問題』(共著、日本林業調査会(J-FIC))、『製材商品の近代化に関する研究』 (都市文化社)など
E-mail:ogi.tamutsu@gmail.com

「2022年 『ノーコスト林業のすすめ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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