からのゆりかご: 大英帝国の迷い子たち

  • 日本図書刊行会
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784890392247

感想・レビュー・書評

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  • イギリスとオーストラリアをまたがる国家犯罪を暴いた女性の手記。今春、この作品を基にした映画「オレンジと太陽」が公開される。その映画の内容に興味が沸き、読んでみた。

    映画紹介より(一部改)
    ソーシャルワーカーとして働くマーガレットは、ある日、見も知らぬ女性に「私が誰なのか調べて欲しい」と訴えられる。幼い頃、養護施設にいた彼女は、4歳の時にたくさんの子供たちとともに、船でオーストラリアに送られ、自分がどこの生まれなのか母親がどこにいるのかも判らないという。子供だけで船に乗せられるなんて、最初はその話を信じられなかったマーガレットだが、ある出来事を契機に調査を始める。やがて彼女はこのような子供たちが数千にも上り、中には親は死んだという偽りを信じて船に乗った子供たちさえいたことを知る。そしてその強制的な“児童移民”が政府によって行われていたことも……。ごく最近の1970年まで、イギリスは、親にも知らせずに恵まれない施設の子供たちをオーストラリアへと大量に送っていた。“オレンジと太陽”を約束されながら、実際に子供たちを待っていたのは、過酷な労働や虐待だった……。にわかには信じがたい、この真実。本作はこの真実を明らかにした実在の女性、マーガレット・ハンフリーズの物語である。


    この児童移民はオーストラリアやカナダ、ローデシア(ジンバブエ)などの英国領の白人人口増を狙ったものだった。子供ならば旅費や生活費が低く抑えられること、成人に比べ順応性も高いこと、イギリス国内の養護施設で賄いきれないほど保護者を失った子供があふれていたことなどが背景にあった。こうして、第二次世界大戦後のイギリスから子供が次々に海を渡っていく。1970年代まで続き世間を欺いたまま消えたこの政策は、1986年に著者マーガレットが調査に乗り出すまで、明るみにならなかった。誰一人として移民の声に耳を傾けるものはいなかったのである。

    久しぶりの一気読み。
    すさまじさに言葉がない。

    わずかな手がかりから肉親を探す過程がサスペンスのようでぐいぐいと引き込まれるが、だんだん、アイデンティティの空白が人生に及ぼす影響、宗教と慈善の欺瞞、国家の隠蔽体質に衝撃を受け、そら恐ろしくなってきた。恐ろしくて、読むのを止められなかったね…。泣いたね…。

    大戦前にはカナダにも多数の子供が送られており、この移民たちはマーガレットの調査時にはすでに70~80歳に達していた。今からルーツを探しても両親に再会できる可能性が低いことを理解しており、マーガレットに言うのである。
    「マーガレット、その人たち(豪に渡った子供たち)のためにできることをしてあげなさい。私たちはもう遅すぎるのだから。きっと家族を見つけてあげて下さい」
    政府は豪2009年、英2010年相次いで公式に謝罪したが遅すぎたのだ。

    読み終わったあと甥っ子に会いたくなった。嫌がられてもぎゅーってハグしたい。

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