燃える平原 (叢書アンデスの風)

  • 水声社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784891762407

感想・レビュー・書評

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  • この本から立ち昇ってくる熱くて乾いた空気のせいで、鼻の奥が痛くなるようだった。喉がからからでおなかが空いて、あまりにもあっけなく人が殺されて、それでも女たちは子供を産む。死が近すぎる世界はやがて『ペドロ・パラモ』の生と死が入り混じるコマラに変容するけれど、本書は『ペドロ・パラモ』の単なる前段階というわけではなくて、独自の手触りと匂いを持っている。今だれかに「海外の小説が読みたい」と言われたら、迷わず『燃える平原』を選ぶ。今こことは違う、でも確実にある別世界に入り込める。

  • 作者ファン・ルルフォはメキシコ革命の混乱で土地と家族を焼かれ、生涯2冊しか本を残していません。「燃える平原」は、メキシコの下級層の厳しい現実をそのまま切り取ったようなを短編集です。

    ===
    「口から流れる泣き声は、岸を削る濁流の音に似ている」
    唯一の財産だった乳牛を洪水で失い為す術もない家族
     / 俺たちは貧しいんだ

    「体に腐った液がたっぷりと詰まり、それが手足の裂け目からじわじわと染み出した」
    死に面した男を連れ巡業に行く男の妻と男の弟。
     / タルパ

    「あそこは悲しみの根城だ。笑う人間なんていやしない。板でも貼り付けた見たいにまるで表情ってもんがないんだ」
    死のイメージしかない町
     / ルビーナ

    「おまえってやつはこんなちっぽけな希望もわしに与えちゃくれなかったな」
    山賊に身を落とし死に掛けている息子と、彼を背負って町の医者へ向かう父親の道行き
     / 犬の声は聞こえんか

  • ◆メキシコの焼けつく大地に縛りつけられた人々を描いた短篇集。「おれたち」に与えられた土地は土壌のない、かちんかちんにかたい平原だった。過酷な地で生きる道を探して彷徨う17の群像。どの話でも、たどり着く安寧の地が見えず途方に暮れる男について、乾いた筆致で短く語られている。「おれたち」は背中に重い荷物(時に死体、病人、銃)を背負い、坂を上り、坂を下り、死と生の境界を彷徨い続ける。読むにつれ、情け容赦ない平原に生きる無数のちっぽけな「おれたち」とその連鎖が、総体として立ち昇るように現れ迫り、読むものに強い印象を与える。
    ◆面白かった。一気に読むべし。「おれたちは貧しいんだ」「タルパ」「マカリオ」「燃える平原」「犬の声は聞こえんか」がことに好き。
    ◆この後に『ペドロ・パラモ』に進める幸せと、それでルルフォ作品を読み終わってしまう残念さを感じる。
    ◆読後、日本人作家の満州ものを読み比べてみたくなる。
    【2014/02/05】

  • 2013.3記。

    メキシコの作家、フアン・ルルフォの短編集。かの国の歴史についてはほとんど何も知らないが、大よそ大地主による支配、共和制革命と内乱といったようなことがあったのだろう。そうした背景を想像させる短編が並ぶ。

    一つ一つの作品はどれもごく短い。ストーリーらしいストーリーのないものさえある。感覚としては小説というよりむしろ絵に近い(著者は著名な写真家でもあったらしい。なるほど・・・)。例えば、「おれたちのもらった土地」は、貧しい農民が政府からあてがわれた荒野(おそらく「農地解放」的な名目だったのだろう)をただトボトボと歩いている、というだけの話なのだ。それでも灼熱の太陽と砂埃、貧困と希望と絶望、それらが痛いほど伝わってくる。「待ってくれ、お役人さん。おれたちゃ役所に文句を言ってんじゃねえんだ。ただあの平原がどういうとこなのか・・・ありゃどうにもならんとこなんだ。それを言ってるだけなんだ。ちゃんと説明するから、待ってくれ。」(P.13) 。

    たった一頭の牛に牧草を与えたい一心で地主を殺し、何十年後かに捕えられて命乞いもむなしく復讐される「殺さねえでくれ」、何をやってもうまくいかず、北米に密入国を図るが国境で狙撃されむなしく逃げ帰る「北の渡し」、屋根まで人であふれかえる列車が盗賊によって脱線させられ、重い機関車が客車を引きずるようにして谷底に落ちていくシーンが信じがたいほどの強烈さで脳裏に焼きつく「燃える平原」・・・。著者の作品はこの短編集と中編「ペドロ・パラモ」の2つのみ、それで文学史上にその名を永遠に残すことになった。ラテンアメリカ文学、いいかげん豊穣すぎるぞ・・・

  • 毎晩2~3編ずつ読んでいたのですが、すごく面白かった。

    荒涼とした土地と貧しい人々の暮らし。命が野ざらしにされているような切迫した感じでありながらも、どこか喜劇的で無頓着にも感じられる。

    どれも物語の一場面、心のほんの一片を見せられているよう。
    読み終えると、そこから時間が光景が広がって、もっと遠くへ深いところへと、連なるように想像や思いが生まれていきました。

  • 短編集。
    抑制された描写で、わずか数回のセリフを発するだけの登場人物が、なぜこれほど生々しい存在感を感じさせるのか?

  •  あの「ペドロ・パラモ」の著者であるフアン・ルルフォの短編集。
     彼は生涯に「ペドロ・パラモ」とこの短編集しか残さなかったそうだ。
    「ペドロ・パラモ」は大勢の死者達が時空を超えて飛び回る幻想的な長編だったのに対し、この短編集に収められているのは、どれも無様になりながらも生き延びようとする男たちの、厳しい現実の話ばかりである。
     いや、もしかしたら「生き延びよう」ではなく、「死者に置いてきぼりにされて」しまった男たちの物語なのかもしれない。
     読んでいると嫌でも、雨の一滴も降らない、カラカラに乾いたメキシコの風土が思い出される。
     淡々と物語が進む印象があり、ちょっと地味かな、と思えたりもするのだが、結局は最後まで一気に面白く読み通してしまった。
     最後の「アナクレト・モローネス」のシニカルなラストには思わずニヤリとしてしまった。

  • 短編集。
    とても『ペドロ・パラモ』と同じ作者の作品とは思えないほど、どの短編も幻想的な雰囲気からは程遠い。
    各編とも、メキシコの風土や生活がよく描かれてローカルな側面をもつ一方、テーマとするのは人間の罪深さ、欲望、孤独など普遍的なテーマである。
    また殆どの作品が、登場人物の一人を語り手にしており、出来事が淡々と物語られていく。
    あまりにも淡々としすぎていて、気づけば読み手である俺も、登場人物同様、たとえば人殺しなんかが起こっても何も思わなくなってしまっていたりして、なかなか恐ろしさがあった。そういう意味でマジックリアリズム的な印象を認めることも可能かもしれない。

    ここまで直球ど真ん中の短編集は久し振りで逆に新鮮だった。

  • 長いお話の一瞬だけを切り取ったような鮮やかさがある。

    短編にしても短い話が多いが、体感に残るような生々しさがあった。とりまく世界は厳しく、人は貧しく苦しく、生死はあっけない。

    『ペドロ・パラモ』が幻想的でよいとのことで好みかと思ったが、図書館にあったのがこちらだけだったので借りた。『ペドロ・パラモ』が読みたい。

  • 一作一作が短かすぎで物足りなかった。
    それから、翻訳の口調がすごく気になった。きっとこれは、自分がスペイン語を深く理解できるならきっと、ある情緒を引き起こす語りなんだろうと思う。しかし私はスペイン語を解さないので、訳に頼るしかない。が、「〜だから」ではなく、「〜もんで」という日本語を読むたびに、興ざめしてしかたがなかった。いやきっと、これは訳者が悪いわけではないのだと思う。が…

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