家族手帳 (フィクションの楽しみ)

  • 水声社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784891769307

作品紹介・あらすじ

父になったばかりのパトリックは、娘の出生が記録された「家族手帳」を手にする。しかし、彼は自分がどこで生まれたのか、父母が何という名前だったのか、知らないのだった…。残された両親の断片的記憶を手がかりに、失われた"自分の出生"を事実と想像を織り交ぜて物語化する鮮烈な自伝小説。

感想・レビュー・書評

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  • パトリック・モディアノの自伝的パラレルワールドな家族の物語。「家族手帳」を題材とした表題作短編を皮切りに全15の短編が綴られる。
    最初それぞれ家族をテーマとした別個の短編かと思っていたのが、読み進めていく内にそれが本書の各章としての構成を成し、「僕」=モディアノ自身の家族の物語であったことが次第に明らかとなっていく。
    解説にもある通り、ユダヤ人の血を引く父親の怪しげな商売の絡みもあって、第二次世界大戦時のナチスドイツによるパリ占領下の疑似体験が、本作品の底流としてモディアノの抜きがたいイメージを形成しているように思われる。いまなお人々に記憶されるフランス現代史の暗部と感傷が著者のトラウマと交わり、またもや経時に囚われない自由な時間視点で各章として散りばめられた物語となった時、相変わらず現実とも幻想ともつかない、一見空虚のようにも思えながらも、乾きの中に生々しさも感じるモディアノ独特の世界観として紡がれることになる。
    モディアノが登場させる父や母の面影や、叔父や妻との小旅行、そして恋人や友人たちとの会話といった断片的な記憶は、現在のモディアノの思考を形作った源泉であり、もうひとつの自分の可能性でもありイメージであったのかもしれない。
    個人的には、表題の家族手帳の物語や、水車小屋を訪ねての叔父とのドライブ、生家を訪れての回想の話などが良かった。

    暗闇の中で、独特の現実と幻想が交錯し、ちょっとした泥酔気分、もとい、ほろ酔い気分が味わえるような物語群です。(笑)

  • 15の短編で構成されている。多くの短編が「僕」という存在によって語られることもあり、自伝的作品と言われている。冒頭の短編は、初めての子を授かった僕が、役所に出生届けをしにゆく時のエピソード。「僕」は赤子の「家族手帳」を手にして、ある感慨を抱く。すっと「家族手帳」を付与された我が子の環境を思い、一方で、かつて「僕」の両親が、確かな戸籍や身分証明書を持たぬ不安定な人生を送ったことに思いをはせる。各短編に表題は付されていないのだが、このエピソードの「家族手帳」が、本短編集の名となっている。
     
    それぞれの短編は、抽象的なニュアンス・夜霧に包まれたように漠としたものではなく、「僕」の具体的な記憶や思い出をモチーフにしていて、輪郭がはっきりしている。モディアノの小説のなかでは、比較的読み易い作品だと思う。

    ※とりわけ、以下のものが印象に残った。
    ・思い出の上海に再渡航しひと旗あげようと願い続けるアンリ・マリニャン氏の話(Ⅱ章)
    ・ベルギーで女優をしていた若き日の母。撮影所に向かうその日、ドイツが国境を越えてなだれ込む。アントワープ、ブリュッセルの街は混乱に包まれる。
    ・スイス・ローザンヌ。ラジオ番組「夜の音楽」のDJの声に「僕」は、対独協力者として、数千人のユダヤ人を収容所に送り、戦後フランスから姿を消した男ではないかと気づく。「僕」の父は、その男の手から、危ういところで難を逃れた。「僕」は、そのことを確かめようと男を呼び出すのだが…。
    ・ローマの踊り子に夢中だった「デブさん」の思い出。エジプト王家の末裔だった彼は、その後パリで客死したのだった。
    ・田園での優雅なリタイヤ生活を夢見るおじ。美しい水車小屋の物件を見分にいくおじに、「僕」は同行する。だが、見当違いの悪趣味に仕上げられた小屋を前に、おじは言葉を失い、夢破れた如き表情に至る。

  • モディアノの比較的初期の作品で,自伝的要素が非常に濃い内容です。

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著者プロフィール

(Patrick Modiano)1945年フランス生まれ。1968年に『エトワール広場』でデビュー。1972年に『パリ環状通り』でアカデミー・フランセーズ小説大賞、1978年に『暗いブティック通り』でゴンクール賞を受賞。その他の著作に、『ある青春』(1981)、『1941年。パリの尋ね人』(1997)、『失われた時のカフェで』(2007)などがある。2014年、ノーベル文学賞受賞。

「2023年 『眠れる記憶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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