脱北者 (BANSEI POCKET)

著者 :
  • 晩聲社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784891883065

感想・レビュー・書評

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  • なんと残酷な手記なのだろう。

    本書は、3度の脱北を試みてついにその祖国から逃げ出すことができず、失意のまま獄死したと見られるある男性の手記だ。

    文章の中で彼の身分が詳しく明かされることはないが、この手記を受け取った団体が彼の身分証明書などの資料を掲載している。エリートに属する大学卒業資格を持っており、国家から幾度も表彰されたという彼は国家からの信頼も厚く、秘密工作員も務めていたという。しかし、なぜ脱北を決意するに至ったのか。

    その原因は1つには、飢えた人民を放置し、痛めつけて自分たちの懐を肥やす権力層への失望があったのではないか。本書には、北朝鮮の権力層に対する激しい憎悪が各所に見られる。
    さらに、どんなに優秀であっても北朝鮮の身分制度である「成分」がよくないために、自らも、そして子どもたちもないがしろにされて生きなければならない鬱憤。
    そして、想像を絶する貧困。

    著者の家族は全員、中国の親戚を頼って1年ほど中国で暮らしていた。しかし、不幸なことに著者と息子は北朝鮮に送還されてしまう。そこから始まる壮絶な囚人生活が事細かに描かれている。
    人間を人間とも思わない理不尽な暴力の連続、夏の薄着のまま冬もコンクリートで直に眠り、蚤と虱で髪が真っ白になり、1日1度か2度のわずかなとうもろこしを食べて絶え間ない暴力と罵声の中で強制労働させられる・・・。地獄のような光景だ。

    そんな祖国からの3度目の脱出に成功した彼は、家族で韓国への亡命を試みた。その際、この手記を3冊コピーして脱北者を支援する団体に渡したらしい。しかしそれが命取りになった可能性があるという。
    韓国に旅立つ直前、家族がそろった場所に公安が踏み込み、子どもたちはなんとか脱出して韓国に到着するものの、著者の夫婦は北朝鮮に連行され、激しい拷問の末に死亡したと見られる・・・という。

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