お年寄りと絵本を読みあう

著者 :
  • ぶどう社
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本棚登録 : 14
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (135ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784892401626

感想・レビュー・書評

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  • 三葛館一般 019.5||MU

    和医大図書館ではココ→http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=38273

  • 読み聞かせではなく、読みあいという言葉に深いものを感じる。上から下ではなく。一方通行ではなく。傍らにいる関係。

    もう、なぜ誰もこの本のレビューを書いていないのだろう。なかなか書店にもないので、危うく読みそびれるところだった。

    これはもうタイトルに書かれていることを主題とした、人間としてのあり方のエッセイだった。

    村中さんの内省を通した良心の深化に、静かに心が動かされた。数値化できないものにも、研究価値があるのだ。日本語が、とても美しい本でもある。

    ところで、高齢者と関わる良心は、なぜこのようなある種のよき「あきらめ」に達することができるのだろうか?

    ・絵本を読みあううちに、ものがたりがひとりひとりに保証する、急かされない豊かな時間が、じいちゃんばあちゃんたちの内側の世界をゆっくりとひらいていくのを実感した。
    ・悪さをするサルにも「お前は今、そういういたずらをしたい時期なんじゃな」と、その存在感をそのまま受けとめようとする。
    ・〈死の世界〉を語ることはタブーではない。しかし、やがては逝くのだ、残った人がどうするのか、はあまり心をひかない。「どう生きるか」だけではなく、「どう死に向かいあって歩いていくか」、そして「どう生き終わるか」
    ・もらったものは返す、借りをつくらないという日本社会のなかで、歳をとり、表面的に何も返すものがなくなったお年寄りたちに、本当に幸せでいつづけてもらうためには、ひとりずつのなかに、あたりまえで、深い、思想が要るような気がしてならない。
    ・うまくいい表せないが、絵本をお年寄りひとりずつと読んでいるとき、私は私を生きながら、同時に、もうひとりの人間の時間のなかを生きることを許してもらっている気がする。個を超えた宇宙の大きな流れのなかで許してもらっている気がする。そのことが、私を救うのだ。
    ・大人びるということは、どうしようもない心の葛藤を、理性のきいたことばのなかに封じこめて、自分を納得させる悲しい習慣を身につけていくことなのかもしれない。
    ・一方、ゆだねられたほうは、この最後の部分を受けとめるために、愛に問われ、倫理に問われ、自分の持ちあわせる全エネルギーを出し尽くしてしまう。
    ・「明日があるさ」という希望のことばが、介護の中では、「明日もある」という、ため息まじりのことばに響いたりもする。
    ・絵本を〈娯楽〉とみなし、絵本の内側にひそむ〈ものがたりの力〉、そして、そのものがたりをはさんで、人と人が出会うこと、人と人をはさんで〈ものがたり〉と出会うことの意義については、ほとんど着目されずにきた。
    ・当時、体が思うようにならなくても、今飲んだ薬の数をすぐに忘れても、生命の限りまでたんたんと生きる老人たちの姿を向こう側に見定めて、「強い」と感じたのは、二十代の私の一つの真実であった。しかし、今の私にとって、いっしょに絵本を読みあう、じいちゃんばあちゃんは、向こう側の人ではない。強くも弱くもなく、今日という時間を持ち合う〈傍らの人間〉なのだ。傍らの人の呼吸を感じることで、私自身の呼吸も、自然に楽になっていく。

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著者プロフィール

ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科教授
児童文学作家・児童文学者
保育園・幼稚園・図書館・児童養護施設・老人保健施設・刑務所など様々な場所で絵本の読みあいを続ける。
『チャーシューの月』(小峰書店)で,日本児童文学者協会賞。
「長期入院児のための絵本の読みあい」(西隆太朗と共同研究)で,日本絵本研究賞。
『あららのはたけ』(偕成社)で, 坪田譲治文学賞。『こくん』(童心社)でJBBY賞。
主な著書に、『感じあう 伝えあう ワークで学ぶ児童文化』『「こどもの本」の創作講座』(以上、金子書房)、『保育をゆたかに絵本でコミュニケーション』(かもがわ出版)、『幼児理解と保育援助』共著(建帛社)など。

「2024年 『立ちあう保育 だから「こぐま」にいる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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