ピアノはっぴょうかい

  • ブロンズ新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784893095411

作品紹介・あらすじ

ももちゃんの、はじめてのピアノはっぴょうかいの日。舞台のそでで出番を待っていると、「わたしたちも、はっぴょうかいしているの。みにおいでよ!」とこねずみが話しかけました。ちいさなドアの向こうで、ねずみたちが楽しそうにはっぴょうかいをしています。

感想・レビュー・書評

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  •  「ももちゃん」にとって、初めてのピアノ発表会だが、扉絵を見ると、何やら不機嫌そうな表情をしており、舞台裏に皆が集まって先生がアドバイスをしている時も、一人だけ下を向き、心ここにあらずといった感じ。

     しかし、この後の「だいじょうぶ だいじょうぶ」と、心で呟きながら楽譜を握りしめる姿を見て、その理由のみならず、気持ちもよく分かる気がして、その表情は不機嫌なのではなく、緊張感と不安感の伴う真剣さだったのであり、それは、これだけ多くの観客を前にして、いつも通り弾けばいいなんて言われても無理だよと、私なら思ってしまいそうで、じゃあ、どうすればいいの? ということになる。

     そんな心境で、自分の出番を舞台袖で待っていた、ももちゃんの耳に聞こえてきたのは、「だいじょうぶ だいじょうぶ!」という、えっ、わたしと同じこと考えてる、それは誰かと下を見たら、アメリカングラフィティから抜け出てきたかのような、レトロで可愛い衣装を着た「こねずみ」で、なんと彼女は、あたしたちも発表会をしてるから見においでよと、ももちゃんを誘い出したのだ。あのう、わたし、これから出番なんだけど・・・。

     それでも、まだ時間はあるからと、こねずみについていくと、そこにあったのは小さなドアで、そこを屈みながら歩いているももちゃんを見ていたら、前作の『のはらのおへや』の草むらをくぐっている場面を思い出したのが、また印象深く、前作は現実から夢のような現実へと辿り着いた、素敵な体験だったが、ここでの現実からファンタジーへと誘われる体験も、また素敵でありながら、今のももちゃんにとって、とても必要なことを教えてくれることに、物語の素晴らしさを感じさせてくれた。

     そして、そのドアの先に待っていた、ねずみたちの発表会の楽しいことといったら! まずは、サーカスが始まり、そのフィナーレのかっこよさに思わず、ももちゃんも夢中で拍手し、その次の手品もキレのある華やかさで素晴らしいが、その会場をよくよく見ると、なんとオペラハウスではないか。ということは・・・やっぱり、タキシードを着た指揮者がお辞儀をすると始まったオーケストラに、ももちゃんがうっとりしていたら、客席にスポットライトが点り、歌手が現れて歌い始めて、そこから舞台にはたくさんの大合唱団も登場し歌って踊り出すが、これが全くバラバラで揃っていない(笑)。でも、どのねずみも楽しそうな様子に、ももちゃんとこねずみは顔を見合わせて、くすくすと笑い出す。

     更に笑いの極め付けは、次に登場したバレリーナであり、そのねずみの体のアンバランスな面白さもありながら、天井から垂れ下がった紐に吊られてからの出来事には、ももちゃんも可笑しくて、けらけら笑い出してしまい、楽しくやるのが一番だよといった、こんな発表会もいいもんだね。


     「みやこしあきこ」さんの四作目の絵本(2012年)は、全編リトグラフによる、美しくも細密な絵を、モノクロで表した現実の場面に於いては、唯一カラーのももちゃんの心象風景を思わせるものがあり、その不安に満ちた世界を、唯一塗り替えようとしたのが、同じくカラーで登場したこねずみであると共に、実は彼女は彼女で、ももちゃんに同じ思いを委ねていたことが、後々判明することになる。

     そして、モノクロの現実から一転して、ねずみたちのカラーで満たされた発表会には、その色からも漂いだしてきそうな、個々それぞれの、偽りのない寛いだ自然体の様子や感情が漲っており、そこで描かれた、客席に座る一匹一匹のねずみたちや、オーケストラで演奏する一匹一匹のねずみたちの、そのこと細かい絵柄は圧巻の一言であり、更に視点を近付けた、オーケストラに合わせて歌い踊る一匹一匹のねずみたちの絵に至っては、思わずねずみを好きになってしまいそうな、その愛嬌のある可愛らしい表情から、楽しんでいることを絵で表すとこうなるのだろうなと思わせるものがあり、これはまさに、絵本でなければ出来ない表現法だと思う。

     そんな自然体の様子を目の当たりにした、ももちゃんは、やがて、あることを自然と悟るようになり、それは無意識に言葉となり行動に移っていたことからも分かるように、『人のために何かをしてあげたい』気持ちであり、それが彼女自身をリラックスさせてくれたことに間違いはないが、それ以上に彼女の心を掴んだのは、同じ思いを共有していたこねずみとの出会いに、ファンタジーの世界にいた、『もう一人のももちゃん』を映し出していたことであり、そんな合わせ鏡のような二人の関係は、表紙と裏表紙でも、カバーの両端でも、共にリンクした行動によく表れており、たとえ現実の世界はモノクロのままの風景であったとしても、決して目には見えなくても、もう一人のももちゃんは確かに存在していて同じ思いを共有しているんだという確信が、ももちゃん自身の内側の心象風景を彩り豊かに塗り変えさせたことは、間違いないのであろう。

  • ピアノを心から楽しく弾いたことがあるか?自問してみた。本来は楽しむために弾くもの。でも、上手く弾けない、止まってしまったら、指がもつれたらどうしよう、みんな下手で退屈だと思うだろうな…なんてことばかり気になったりして楽しむどころではない。

    美しい響きに心が揺さぶられながら弾くことはある。夢中になって弾くこともある。楽しく弾くはなかなかない。

    今度、楽しく弾くことを突き詰めてやってみようと思う。声が揃ってなかろうが、見る人によっては滑稽に見えようが、思いっきり楽しんで各々のものを表現する、この本のねずみたちの姿を思い出しながら。

    ねずみたちの熱狂ぶりが、絵を通して湿度を伴って伝わってくる。絵でそんなものまで表現できるんだ…と驚いた。

    今度の弾き合いこの前に、この本を生徒さんたちに読んだら、みんな楽しい気持ちが緊張を上手く包んでくれるだろうか?
    人前で弾いた後、楽しかったと言う子が増えるかもしれない。そして、私が子供たちから学ばせてもらう。

  • 読み聞かせの講座に参加していた頃、繰り返し言われたのが「まずはじめに絵だけ見なさい」ということだった。
    この作品を読んで、久々にその頃の新鮮味を味わった。
    C・V・オールズバーグに影響されたという「みやこしあきこさん」の絵は、挿絵などというより絵画の域。
    想像力の世界なのに、その立体の表現といいモノクロの対比といい舞台の空間といい、圧倒的な臨場感がある。
    隅々まで何度も見ては、どれほど手がかかっただろうと考え、絵本作成の苦労と楽しさとを思い巡らし、2度3度と楽しませてもらった。

    初めてのピアノ発表会。
    舞台の袖で出番を待つももちゃんの胸の高まりに呼応して、絶妙のタイミングで現れる小さなねずみ。
    実はこの瞬間から、物語の中で演奏は始まっているのだ。
    ももちゃんが目にしたものは、ねずみさんたちの発表会。
    その躍動と興奮と歓喜とが、確かな描写力から生き生きと伝わってくる。
    でも途中で、ちょっと心配にもなってくる。
    ねずみさんの発表会が思ったよりも長いのだ。
    「ももちゃん、自分の発表には間に合うのかな・・」
    かすかな不安が払拭されるのはこの後。
    ねずみさんと一緒に楽しく弾き始めたときに、ももちゃんのピアノ発表も終わっている。
    なんと不思議で見事なマジックショー。
    くらっと眩暈がするような鮮やかな幕引きだ。
    始めは不安でいっぱいだったももちゃんの顔が、舞台の上で素敵な笑顔になっている。
    そのゆるやかにドレープのかかった、赤いドレスの綺麗なこと。

    ピアノを習っている少年・少女たちに、ぜひ読んであげたい。
    いえ、ピアノとは無縁でも、この絵画の美しさにオルグされてみませんか。
    約8分。年長さんくらいから。

  • 初めてのピアノ発表会。合奏や合唱と違って、たった一人でステージに出て行かなくてはならない。扉絵のももちゃん、緊張のあまり顔が怖い。健気にも「だいじょうぶ だいじょうぶ」と自分に言い聞かせていると、ドレス姿のこねずみが、ねずみの発表会に招いてくれました。ねずみのステージの楽しさをそのまま自分の出番で発揮できたももちゃん、よかったね! ラストの笑顔(というかドヤ顔)可愛い!
    モノトーンに近いみやこしあきこさんの絵が素敵です。

  • こちらも去年のイラストレーションの絵本特集でメイキングが掲載されていた。わぁ出版されたら、よみたいなぁと思いつつ、うっかり今年4月に出てたのを見逃していた。
    何冊にもおよぶダミー本や、構成をねった紙をみて、絵本づくりの楽しさと大変さを感じてドキドキワクワクしてた。

    そういう視点でみちゃってるので、ファンタジーに入りこむ前に、構成が気になっちゃった。流して読むとところどころ、ん?って、つっかえる感覚があった。こんな私、残念だ。
    素直にねずみに招かれて物語に入りこみたかったな。物語のレビューじゃなくてすみません。

    みやこしさんの作品をみるきっかけは、ニッサンのコンペ出身者ということだった。登竜門的なコンペだけど、二作目以降に続く作家さんをあまり知らなかったので、活躍がとても興味深かった。ちなみに土井さんのワークショップ出身でもある。
    デビュー作ではないけれど「もりのおくのおちゃかいへ」が私は好き。これは冬に読み返して記録しておきたい。ちゃんと物語のレビューを。

  • 2023.08 1-3

  • 読了

  • はじめてのピアノの発表会をまえに緊張するモモちゃん、だいじょうぶだいじょうぶとつぶやいたのはドレスを着たちいさなネズミ。さて、うまく演奏出来たかな。かわいい絵本。

  • 「ピアノ発表会当日、不安でいっぱいのももちゃんのところに小さなねずみが現れる。ねずみのあとを追うと、そこには小さなコンサートホールが。サーカス、手品、オーケストラと、次々にねずみたちが疲労していきます。」

  • みやこしさんの絵が素敵です


    はっぴょうかいのどきどき
    こんな世界に行けたら素敵です

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著者プロフィール

1982年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学卒業。在学中から絵本を描きはじめ、2009年に『たいふうがくる』で「ニッサン童話と絵本のグランプリ」大賞を受賞しデビュー。2012年『もりのおくのおちゃかいへ』で日本絵本賞大賞を受賞。数々の言語に翻訳出版されている『よるのかえりみち』はボローニャ・ラガッツィ賞(2016年フィクション部門Special Mention)受賞後、ニューヨークタイムズ&ニューヨーク公共図書館The Best Illustrated Children’s Books of 2017、ミュンヘン国際児童図書館The White Ravens 2016に選ばれるなど、海外からの評価も高い。その他の作品に『のはらのおへや』『ピアノはっぴょうかい』『これだれの?』『ぼくのたび』『かいちゅうでんとう』などがある。

「2022年 『ちいさなトガリネズミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

みやこしあきこの作品

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