マルクスの亡霊たち―負債状況=国家、喪の作業、新しいインターナショナル

  • 藤原書店
3.94
  • (5)
  • (7)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 129
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (438ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894345898

作品紹介・あらすじ

「一つならずに亡霊化したマルクス」「マルクスに取り憑いた亡霊たち」を前にしての、マルクスの「純化」(=アルチュセール)と「脱政治化」(=単なるテクストとしてのマルクス)。これらに抗し、マルクスの「壊乱的」(ブランショ)テクストの「切迫さ」(=マルクスの厳命)を、テクストのあり方そのものにおいて相続せんとする亡霊的、怪物的著作。シェークスピアの真価(The time is out of joint(時間の蝶番がはずれてしまった))を知りながら結局は亡霊を厄祓いするマルクスの限界にまで踏み込み、「憑在‐錯時性」にこそ、「遺産相続」「出来事・革命・他者の到来」「法を超えた正義」の条件を見出す、マルクス、そしてハイデガーの「存在‐時間」論との全面対決。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 後期デリダ(?)の主著の一つ。「法の力」、「他の岬」などの「来るべき民主主義論」を補完するデリダ唯一のマルクス論。

    私は、あまりマルクスを読んでいないので、どうかなー、と思いつつ、後期デリダを政治哲学的な関心から読むには必読みたいなので、とりあえず、読んでみた。

    うーん、多分、これまで読んだデリダのなかで、一番、分かりやすいというか、問題意識がぴたっとあったな、という感じの本だった。

    アメリカの大学での講演をベースとしたもののせいか、デリダ特有のフランス語の言葉遊び的な要素が少ないし、論旨も比較的明快だと思う。(といっても、デリダなんで、すらすらと読めるわけでは、全くない。あくまでもデリダとしては、という比較の問題ですが。。。)

    93年、冷戦が終わり、共産主義なんて、みんな忘れていそうになったときにでてきたマルクス論。マルクスの限界を示しつつ、たんなる哲学的なテクスト解釈としてマルクスを読む事をさけながら、その精神(亡霊たち)を引き継がんとする、そして新しいインターナショナルを希求する希望の書(???)、という感じかな?

    結構、90年代前半のコンテクストでの話し、例えば、フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」の話しとか、ブッシュ流の新世界秩序の話しとかがあって、分かりやすいというか、親しみがもてる。(その分、ちょっと古い感じもしてしまうが)

    で、いきなりマルクスを読解するというのではなく、シェークスピアやグローバリズムの問題とか、周辺事情から徐々に攻め入りながら、「共産党宣言」、「ドイツ・イデオロギー」、「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」というマルクス音痴の私でも読んだ事があるテクストを読解、脱構築していくので、なんとかついて行ける。

    その読解のキーワードが、なんと「亡霊」なんですね。

    マルクスを亡霊論として、読む。

    そりゃ、共産党宣言の冒頭は、「亡霊」で始まるけど、デリダ以外にこんなことを考えつく人がいるとは思えないなー。

    でも、すごくこれが納得感あるわけです。

    などと思っていたら、この亡霊論をもって、最後のほうで、本陣の「資本論」への突入、切り崩しを図るという展開で、ここがとてもスリリング。

    この本を起点に、もう一度、デリダの「法の力」を読み直してみたいな。

  • 時にマルクスに同調しながら、時にマルクスを批判しながら「新しいインターナショナル」を提唱する本書。

    また、東浩紀が注目していた、「幽霊」のモチーフが使われた一冊。
    『ハムレット』に出てくる父の亡霊が、訂正可能性を開く。
    これがなければ、脱構築は脱構築にならない。

  • 社会主義の崩壊とともに、マルクスも葬られたと思っている人が多いだろうが、哲学の世界では、マルクスの影響はいまだに強い。本書は、ポストモダンの中心的存在だったデリダが、あえて冷戦後の1993年にマルクスを初めて論じ、しかも「マルクス・・・

  • 冷戦終結後の1993年にデリダが初めてマルクスを取り扱った本。と言っても他のマルクス主義関連の本とはもちろん全く異なり、相変わらずのデリダ節炸裂。「ヨーロッパに幽霊が出る――共産主義という幽霊が」という『共産党宣言』冒頭のフレーズが、シェイクスピア『ハムレット』の父の幽霊とつながる。

    冷戦終結によって、フクヤマは資本主義の勝利、歴史の終わりを宣言した。ヘーゲル、コジェーヴ、フクヤマに見られる、歴史には目的があり、結末があるという見方を、デリダは批判する。人間の歴史は終わっていないし、起源もない。マルクス主義の幽霊は、見えるようでいて、実体としては見えない。始まりも終わりもない幽霊の思考をデリダは奏でる。

    マルクスも、歴史の目的論的発展、全世界共産主義化の結末を信じていた。故にデリダはマルクス主義の目的論、独裁国家の側面も批判する。

    マルクス主義国家が全体主義的で固定的で密告主義的で閉鎖的だとしても、資本主義が完全勝利していいはずもない。世界には経済格差で周縁に追いやられている弱者、紛争の被害者、搾取を受けている者がたくさんいる。今こそマルクス主義は、構造から排除された他者、勝利した国々から汚れ、惨めな存在と見られているまったき他者のために、来るべき民主主義として、幽霊的存在を始動しようとうたう本書は、後期デリダの政治的宣言になっている。

  • 脱構築というキータームをもって、世界的名声を得た現代思想の巨人・デリダ。本書では、マルクスとエンゲルスによる『共産党宣言』における亡霊としての共産主義についての記述、そしてシェイクスピア『リア王』における "The time is out of joint" という一節へと繰り返し回帰しながら、マルクスと共産主義の可能性の中心について論じていく。デリダの思考のうねりをより正確に追体験できるよう、話題が変わるごとに訳者が小見出しを付けているところが親切。

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

ジャック・デリダ(Jacques Derrida):1930-2004年。仏領アルジェリア生まれ。エコール・ノルマル・シュペリウール卒業。西洋形而上学のロゴス中心主義に対する脱構築を唱え、文学、芸術、言語学、政治哲学、歴史学など多くの分野に多大な影響を与えた。著書に『声と現象』『グラマトロジーについて』『エクリチュールと差異』『ヴェール』(シクスーとの共著)『獣と主権者Ⅰ・Ⅱ』ほか多数。

「2023年 『動物を追う、ゆえに私は(動物で)ある』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジャック・デリダの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジャン ボードリ...
國分 功一郎
ミシェル・フーコ...
ミシェル・フーコ...
ジャック・デリダ
ジャック・デリダ
スラヴォイ・ジジ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×