白い城

  • 藤原書店
3.82
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本棚登録 : 265
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894347182

感想・レビュー・書評

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  • わたしは一冊の書物を手に取り、ある男の物語を読み終えたはずなのだが、急にこれまでの記憶が曖昧になってしまい、読んだと断言できる自信がない。こうして文章を書いている自分の状況もまた何かの物語の一部であり、過去の出来事がまぼろしに思えて過去がまぼろしなら今もまぼろしかもしれない、と埒もないことを考えてしまう。
    本書は鏡である。わたしが鏡に映じた自分の姿を見るとき、鏡はわたしの視線を反射させ自分自身に向かわせる。このとき、鏡がわたしを複数の存在にし、わたし自身の存在を失わせるのだ。
    「いま、ここ」だけが確かな実感。

  • 「私の名は赤」と双璧を成す歴史小説、とはまさしく。ボリュームは少ないものの、素晴らしい読書体験だった。トルコという国が「異教徒」として見つめる西洋の叡智への複雑な好奇心。長年、敵でありながらも交易を通して意識せざるを得ない西洋とトルコは、互いに張り合うよく似た兄弟のようだ、と極東に住む私には思える。その2つの対比だけでなく、知を持つものが陥る愚者への蔑み、知の生み出す暴力としての兵器、権力を持つものと大衆の罪、何より自己と他者という2つの対比を思わせる。そして、そういうものの深淵を覗き込みつつ、こんなのは全部うそですよ、と言わんばかりに、人が想像をしたり物語をすることが必要なのだ、と読者を翻弄してみせる。素晴らしかった。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:929.573||P
    資料ID:95100185

  • 2009-12-00

  • パムク氏の『雪』を、以前読んだことがあったが、途中で挫折してしまった。それ以来、パムク氏の作品は遠慮していたのだが、先日市内の図書館に行くと200ページ余りの読みやすいボリュームのパムク氏の作品があるのを見つけた。実際に手に取ってみると、文章も読みやすい。それで借りてきたのが、この作品だった。
    17世紀に、オスマン帝国で『師』と言われる男の奴隷となった西洋人の物語である。西洋と東洋、他者と自己、愛と憎しみなど様々なテーマをはらむ小説であるけど、単純に異国の地で奴隷としながら生涯を送った男の話としても、面白い。物語の中の物語という構成をとっているメタ小説でもあり、自分好みの小説でもある。一読してすぐに読み直したいと思わせた小説であった。ラストの客人が見た窓の外の風景がなんであったのか、私も物語の中の客人のようにページをめくったのである。

  • 大学教授(歴史家)がゲッセの文書館で本書の元となる手稿を発見する。ここにはイタリア出身の男がトルコ人の奴隷となり、師と出会ったことが書かれている。
    「師」と「わたし」はそっくりの外見をしている。二人の自我は次第に入り混じり、境界は曖昧になり、ついに入れ替わることになる。
    二人の境界が混じり始めると少しだれた。が、ラストに向けてまたグッと読ませる。

  • 出口治明著『ビジネスに効く最強の「読書」』で紹介
    17世紀のオスマン帝国を舞台に、東洋と西洋の間でせめぎ合う人間模様を描く。

  • 難しかった。よく飲み込めていないようだ。

  • 17世紀の地中海、イタリア人の「わたし」はオスマン・トルコの海軍の捕虜にされてイスタンブルに連行され、自分とうり二つの外見を持つ「師」と呼ばれる学者の奴隷となることから始まる奇妙な、というよりほとんど奇矯な分身もの。周囲を「愚か者」と呼んではばからない「師」は(その名に反して)「わたし」から西欧の科学や思想の深奥を吸収しようとし、「わたし」は当初は望郷の念にかられながら、後には師に対する優越感や共依存の中で相手に自分について書くことを使嗾し、そのうちに二人の自我は溶解し、次第に入れ替わってゆく。新兵器とともに皇帝の遠征に随行し、地元のキリスト教徒やイスラム教徒に犯した罪について片端から審問してゆく「師」の姿は、グロテスクで印象深い。

  • オルハン・パムクの出世作と言われる歴史小説。これまでにパムクの長編は幾つか読んでいるが、その中で最も娯楽小説に近い仕上がりになっている。また、他の作品に比べると短い分、無駄なく纏まっているのも嬉しい。

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著者プロフィール

オルハン・パムク(Orhan Pamuk, 1952-)1952年イスタンブール生。3年間のニューヨーク滞在を除いてイスタンブールに住む。処女作『ジェヴデット氏と息子たち』(1982)でトルコで最も権威のあるオルハン・ケマル小説賞を受賞。以後,『静かな家』(1983)『白い城』(1985,邦訳藤原書店)『黒い本』(1990,本書)『新しい人生』(1994,邦訳藤原書店)等の話題作を発表し,国内外で高い評価を獲得する。1998年刊の『わたしの名は紅(あか)』(邦訳藤原書店)は,国際IMPACダブリン文学賞,フランスの最優秀海外文学賞,イタリアのグリンザーネ・カヴール市外国語文学賞等を受賞,世界32か国で版権が取得され,すでに23か国で出版された。2002年刊の『雪』(邦訳藤原書店)は「9.11」事件後のイスラームをめぐる状況を予見した作品として世界的ベストセラーとなっている。また,自身の記憶と歴史とを織り合わせて描いた2003年刊『イスタンブール』(邦訳藤原書店)は都市論としても文学作品としても高い評価を得ている。2006年度ノーベル文学賞受賞。ノーベル文学賞としては何十年ぶりかという

「2016年 『黒い本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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