無縁声声 新版―日本資本主義残酷史

著者 :
  • 藤原書店
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894347557

感想・レビュー・書評

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  • だれもが書かない、いや書けない戦中戦後に生きた「歴史」がここにある。
    今目の前にある、きらびやかで、見てくれの良い「モノ」「建物」
    「街」の背後に、いや地下に埋められてしまっているところを
    著者がきちんと炙り出してくれている。
     ちゃんと時代を見つめている目を持っている人の言葉が、こうして「本」になったことがうれしい。

  • 例えば、この本を読んでおくのと読まないのとでは、日本社会の、そしてその近代化のイメージが大きく違ってくるだろう。
    日本はずっと平和で豊かで平等な国だった、という素朴な感覚から脱するために、また、日本にも貧困や不安定雇用の問題が最近になってようやく出現してきた、大変だ、というような素朴な危機感に酔う前に、
    知るべきことを知るために読んでおくべき証言と言える。
    釜ヶ崎から日本を見ることで、近代化とは、そして資本主義とは何かを考える入口になりうる一冊。

  • 釜ヶ崎の三畳のドヤ(日雇い労働者向けの簡易宿泊所)で30年以上暮らしながら、部屋の壁面三方は資料だらけ、働いていない日は研究をし、日雇い労働に関する新聞記事なども全てスクラップしてあるという著者による、回顧録に近い本。

    釜ヶ崎のルーツは江戸時代まで遡ることができ、大阪万博をはじめとする行政や国策に振り回され、命ギリギリの生活を、抜け出す術もないまま続けていることが分かる。
    このあたりの内容は、本書を超える本はないだろう。

    場合によっては、大阪の京橋駅あたりで1人でトボトボと歩いていて手配士に声をかけられたり、極端な場合にはいきなりトラックの荷台に放り上げられることから、日雇い労働生活は始まる。
    (一方、手配士はヤクザ関係であるが、彼らは彼らで原発やダムといった国家事業を支えている自負を持っていることが本書から分かる)

    釜ヶ崎の労働者は朝の5時には出勤し、釜ヶ崎に戻ってくるのは21時以降。
    朝5時点で既に求人がないこともある。
    仕事がなく宿泊代が払えなければ野宿になる。
    必ずしも「ホームレス=働いていない」わけではない。

    本書では、さらに著者の体験から日本共産党から始まった労働運動や、港湾労働についても詳しく述べられている。

    本書から明らかなのは、港湾・土木・建設業などにおいて「労働力供給の調整弁」として釜ヶ崎の人々が使われてきたことだ。
    これは、高度経済成長期などピーク時に比べればそれらの業務自体が減少し規模が小さくなっているかもしれない。
    (その代わり失業、ホームレス、高齢化の問題はある)

    一方、規模が拡大してきている別の業界・業種では非正規雇用の増加がある。
    場合によっては「ネットカフェ難民」など事実上のホームレスも新たに出現してから相当年が経っている。
    これは見方によっては「釜ヶ崎的なものが薄く広く社会に広がっている」と言えるかもしれない。
    (さすがにいきなりトラックの荷台に放り上げられることはないとしても)

    釜ヶ崎などの場合、局所的に集まっていることが問題である一方、団結や連帯感がある。
    一方で、日本全国に薄く広がっている非正規雇用にそれはない。
    ここに、釜ヶ崎とは異なる問題があるようにも思える。

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