時は西暦3000年代も終わりを迎える頃。調査局員のシロウズは、辺境航路の宇宙船で偶々乗り合わせた惑星間経営機構の副主席チャウダ・ソウレ、金星最大の都市エレクトラ・バーグ市長のヒロ18と共に、金星表面において存在しないはずの異世界文明の廃墟を目撃する。時は折しも宇宙船団の不可解な失踪事件が続発し、太陽系内の政治的・経済的緊張感が高まっている中、シロウズが遭遇した事件はこの先展開する人知を超えた壮絶な闘いの幕開けだった。各地で勃発する謎の事件、どこからともなく語りかけてくる「滅び」を示唆する声。迫りくる脅威に備え、シロウズたちは対策を練ろうとするが・・・
壮絶な、あまりに壮絶な、虚無への軌跡。
ストーリーを詳しく紹介するとそのままネタバレになってしまう類いの作品なので、あらすじ紹介は差し障りのない程度に留めましたが、細かいところが多少分からなくても読み進めるのに支障はありません。逆に細かいところに拘りだすと、登場人物の描き方に深みがなかったり、台詞回しが不自然だったりと、今読むとそれなりにキツいところはあります。何と言っても1960年代の古い作品ですし、巨匠・光瀬龍が長編にチャレンジした最初の作品ですし、そこは多少割り引く必要はありますね。
しかし、そんな硬さを感じさせる作風を差し引いても、そこに描き出されたヴィジョンの壮大さ、冷徹さ、そして「救いのなさ」は圧倒的。
物語の中でその存在が仄めかされる、太陽系に迫りつつある「滅びの根源」に立ち向かうため、シロウズ、チャウダをはじめとする地球人類は全精力を傾けてその正体を調査し、防御の砦たる巨大なレーダーを築き上げます。レーダーがついに完成し、運用を開始したその瞬間、訪れる壮大な虚無。
このラストシーンには、呆然としてしまいました。最初はこの展開が信じられなくて、何度かそのページを読み返してしまったぐらい(^_^;この読後感をどう表現すれば良いのか?無常を無常のまま淡々と受け入れる、極めて思弁的、かつ極めて東洋的な世界観です。
人類のちっぽけな力など意にも介さない強大な存在との闘い、というテーマは、光瀬龍がこの作品の後に書き上げた代表作「百億の昼と千億の夜」にも通ずるものがありますが、あちらの方がまだ救いがあったような気がします。
そんな重たいテーマの作品ではありますが、流麗な「光瀬節」とでも言うべき筆致はこの作品でも全開。滅亡への予感を孕みつつ描き出される都市の記憶、囚われた宇宙船、棄てられた遺跡・・・その美しいこと、カッコいいこと!特に物語の終盤、失踪事件に巻き込まれた宇宙船とシロウズが思いがけず遭遇するシーンには痺れましたね。このシーンだけでも映像化してほしいぐらい。
細かいことはつべこべ言わずに、この圧倒的な世界観に酔え!というタイプの作品。万人にお勧めできる作品ではありませんが、鴨は大好きです。