たそがれに還る (ハルキ文庫 み 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 85
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894564398

感想・レビュー・書評

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  • 時は西暦3000年代も終わりを迎える頃。調査局員のシロウズは、辺境航路の宇宙船で偶々乗り合わせた惑星間経営機構の副主席チャウダ・ソウレ、金星最大の都市エレクトラ・バーグ市長のヒロ18と共に、金星表面において存在しないはずの異世界文明の廃墟を目撃する。時は折しも宇宙船団の不可解な失踪事件が続発し、太陽系内の政治的・経済的緊張感が高まっている中、シロウズが遭遇した事件はこの先展開する人知を超えた壮絶な闘いの幕開けだった。各地で勃発する謎の事件、どこからともなく語りかけてくる「滅び」を示唆する声。迫りくる脅威に備え、シロウズたちは対策を練ろうとするが・・・

    壮絶な、あまりに壮絶な、虚無への軌跡。

    ストーリーを詳しく紹介するとそのままネタバレになってしまう類いの作品なので、あらすじ紹介は差し障りのない程度に留めましたが、細かいところが多少分からなくても読み進めるのに支障はありません。逆に細かいところに拘りだすと、登場人物の描き方に深みがなかったり、台詞回しが不自然だったりと、今読むとそれなりにキツいところはあります。何と言っても1960年代の古い作品ですし、巨匠・光瀬龍が長編にチャレンジした最初の作品ですし、そこは多少割り引く必要はありますね。

    しかし、そんな硬さを感じさせる作風を差し引いても、そこに描き出されたヴィジョンの壮大さ、冷徹さ、そして「救いのなさ」は圧倒的。
    物語の中でその存在が仄めかされる、太陽系に迫りつつある「滅びの根源」に立ち向かうため、シロウズ、チャウダをはじめとする地球人類は全精力を傾けてその正体を調査し、防御の砦たる巨大なレーダーを築き上げます。レーダーがついに完成し、運用を開始したその瞬間、訪れる壮大な虚無。
    このラストシーンには、呆然としてしまいました。最初はこの展開が信じられなくて、何度かそのページを読み返してしまったぐらい(^_^;この読後感をどう表現すれば良いのか?無常を無常のまま淡々と受け入れる、極めて思弁的、かつ極めて東洋的な世界観です。
    人類のちっぽけな力など意にも介さない強大な存在との闘い、というテーマは、光瀬龍がこの作品の後に書き上げた代表作「百億の昼と千億の夜」にも通ずるものがありますが、あちらの方がまだ救いがあったような気がします。

    そんな重たいテーマの作品ではありますが、流麗な「光瀬節」とでも言うべき筆致はこの作品でも全開。滅亡への予感を孕みつつ描き出される都市の記憶、囚われた宇宙船、棄てられた遺跡・・・その美しいこと、カッコいいこと!特に物語の終盤、失踪事件に巻き込まれた宇宙船とシロウズが思いがけず遭遇するシーンには痺れましたね。このシーンだけでも映像化してほしいぐらい。
    細かいことはつべこべ言わずに、この圧倒的な世界観に酔え!というタイプの作品。万人にお勧めできる作品ではありませんが、鴨は大好きです。

  • 超すごい。そんなこと思い付かんよ。

  • 2013.04.17 読了

  • 闇と光と宇宙と翳と人間には大きな溝があるんだよ。やはり。一つの目標地点まで向かうのは宇宙内でも宇宙外でもおなじであって、融合と離散を繰り返して物語と宇宙はできあがる。

  • 貴重な光瀬先生の本。
    内容をすっかり忘れているので、初読ということにする。

  • 金星に起こった異変。突如調査局員シロウズの目の前に現れた人類によるものではない巨大な建築物の廃墟。そして過去か未来かあるいは他の次元の何者かが人類に告げる、悲劇の予感。空間のひずみにはまり込み行方不明になる大船団。冥王星の地中深く、千二百万年前の地層から発見された宇宙船。再び告げられる<無>と<終焉>の予感。また地球でも別の異星人の宇宙船が発見される。その宇宙船から回収された記憶媒体。その解析により、遠い過去に起こった二つの種族の戦いの歴史が明らかになる。そして“セル”の方向からやってきたなにかに怯えていたことも。<無ハセルニアル> この記録の意味する真実とは。人類は過去の二つの種族を滅ぼしたその危機に今も面しているのだろうか。人類はその未来をかけて、迫りくる災厄のかたちを知ろうとした。太陽系の外に前哨基地を設け、巨大なレーダーでその存在を探るプロジェクトを開始した・・・。

    積み重ねられる謎。そこから導き出される<無>の接近。しかし、人類は何もまだ知らないのだ。<無>が何であるかさえ。

    全てを賭けて築かれる人類のトリデ。その建設主務者となったシロウズ。この破滅に立ち向かうための資料を今に伝えるために生きつづけて来た女性。そして人類の明日の全てが。たそがれに飲み込まれる・・・。



    こういう虚無感は嫌いじゃない。

    人類は広大な宇宙の中では決して主役などではないのだと。
    人類は無力なのだと。
    人類はちっぽけなのだと。

    それでも生き続けるのだと。

  • 炸裂する光瀬節。
    壮大なイメージとスケールの嵐に翻弄されながら、最後に残る感覚はまさに”虚無”
    この話を読んだ後、見上げた星空に切なさが込み上げてきました。

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著者プロフィール

小説家。SF作品を多数発表し、中でも『百億の昼と千億の夜』『喪われた都市の記録』などの長編は、東洋的無常観を基調にした壮大なスケールの宇宙叙事詩として高い評価を得た。1999年逝去。

「2022年 『百億の昼と千億の夜 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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