母さんが死んだ: しあわせ幻想の時代に

著者 :
  • ひとなる書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894642041

作品紹介・あらすじ

札幌母親餓死事件の真相!生活保護バッシングがもたらすもの。三人の子の成長を楽しみに必死に働き続けた母親の凄絶な死。母子家庭がゆえの経済的困難-それを支えるべき福祉行政の冷酷な対応!ジャーナリストの良心をかけて、徹底して真実を描き出した衝撃のルポ。読者の要望に応え、新装増補版で復刊。行政やマスコミ、世間の冷たい目のもとで、生きることへの望みすら断ち切られようとする人々が、今、私たちの隣にいる。

感想・レビュー・書評

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  • 福祉制度はみんなのための「保険」だから、いざとなったとき、これを受けることは権利である。法律もそれを保障している。

    というような文章が本文中に出てきます。本当にその通りなのです。けれど今の日本社会はそうなっていません。本文中で紹介されている様々な人の苦しみの声、訴えに胸が苦しくなります。
    特に後半部の中学生のお手紙には胸が締め付けられます。

    社会福祉制度の制度上の問題も確かに大きいものが様々ありますが、一番の問題はやはり「世間体」や「世間の目」というものの厳しさなのではないかと思います。
    それはここに書かれた生活保護という福祉制度のみならず、高齢者や障害者、貧困者、要介護者や母子家庭、子育て支援といった多岐にわたる福祉制度全般に当てはまることだと思います。
    様々な立場の「社会的弱者」に対する「日本社会の目線」は大変厳しい。それは決して「強者」と言えるような人々ではなくてむしろ社会的弱者により近いところにいる人々のほうが一層厳しいのかもしれません。

    この「母さん」はどれほど、生きて子供たちの成長を見守っていたかったことでしょう。こんなに追い詰められれば誰だって辛いでしょうが、生来きちっとした人だっただけにその「きちっとしたいのにすることができない状況」にどんどん追い込まれていくのは耐えがたい屈辱だったのではないかと思います。
    このお母さんが餓死してでも自分の状況を周りに知らせることを拒否し続けたのは人としての尊厳があったからです。

    どんな人間も、どんな制度も、他人の尊厳を踏みにじってはいけないと思います。
    ここに書かれていることは人権蹂躙の記録です。

    これだけネットカフェ難民だ、就職難だ大量失業だといわれていても貧困というのは、何でも「自己責任」と言いたがる現代社会では関心を持たれにくい社会現象です。
    そして、経験のない者や間近で見たことのない人には理解を得られにくい問題でもあります。

    でも、これは日本社会に生きるなら誰もが関心を持たなくてはならない問題だと思います。
    貧困という一つの現象だけでなく福祉の問題は様々に関わって絡み合っています。
    自分が貧困という問題を抱えていなくても、今現在福祉のお世話になっていないとしても、一生のうち一度もそのお世話にはならないという日本人は日本の現代社会にはいないと思われるからです。

  • 私が子供の頃の出来事。

    なのに、物価は上昇しているにも関わらず30年以上経過している話とは思えないほど、現在の給与のデータはさほど色褪せていない。

    現状、社会福祉はほとんど変わっていないどころか悪化している。

    これからは身近な人だけではなくいろんな人たちと話し合う時間を設けてそれぞれが
    「他人事ではない」という感覚をもつことがたいせつなのではないだろうか。

    まずはそこから。

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著者プロフィール

上智大学文学部新聞学科教授。
1957年生まれ。東京大学法学部卒。
札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。
日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。
2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。

単著に『母さんが死んだ〜しあわせ幻想の時代に〜』(ひとなる書房)、『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』(日本テレビ)、『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、共著に『テレビはなぜおかしくなったのか』(高文研)、『想像力欠如社会』(弘文堂)など。

「2023年 『メディアは「貧困」をどう伝えたか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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