- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784896374858
作品紹介・あらすじ
九賢者たちを探すべくミラが向かったのは、魂が眠る街『鎮魂都市カラナック』。しかしそこでは、大量のゾンビが出没するという異常事態が起きていた。これは目的の人物である賢者の1人、死霊術士のソウルハウルが関係しているかもしれないと考えたミラは、早速ソウルハウルがいるであろうダンジョン、『古代神殿ネブラポリス』へと向かうのだが…。両親の面影を探す少年タクトと、お人好しの冒険者エメラが率いるパーティを引き連れて、美少女召喚術士ミラの地下迷宮攻略が始まる!!
感想・レビュー・書評
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快適な旅のはじまりと素敵な人々との出会い、けれど染みついて消えない影。
ファンタジーと現実のいいとこ取りな旅客サービスを早速堪能したり、MMORPG特有のカオスな服飾が彩る街並みを目撃したり、なにより他のパーティーと同伴して何気ない会話を楽しんだりする、そんな二巻です。
一方で訪れた街には不可解なゾンビの影あり。
ダンジョン探索中には、十年前に全滅したはずの悪魔との遭遇交戦などと今後長きに渡って不穏さを演出する要素が続出です。
その過程の中で弔いが必要な犠牲者の存在が示唆され、やがて明示されるとはいえ、表向きは大事になっていない、実害としては大したように見えないのがまた不気味なんです。
陰謀だとして、何を企図して? という疑問に答えるための材料が揃うのは相応の巻数を待たねばなりません。
比較的重めの話題も目立ちますが、旧友であり国家の重鎮である「九賢者」の一人の足取りを掴むための資料の回収、意志ある召喚相手との再会、強敵相手に本領の確認などなど今後の布石自体は着実に打っていきます。
また、この手のゲームから現実へ感覚がスライドする小説は、実践なり訓練なりでその認識のズレを修正する過程が必須のものとして展開に組み込まれているのですが、この作品の主人公とて例外ではありませんでした。
トッププレイヤーゆえの洗練された徒手格闘描写を見せてくれます。
なお、今後の準レギュラー陣「エカルラートカリヨン」の主要メンバーと弟分「タクト」などについてはコミカライズ版二~四巻で触れさせていただきましたので割愛させていただきます。
代わりとばかり、口絵での集合絵を紹介しましょう。
下半分に仁王立ちの主人公を置いた安定の配置の中に、それぞれの人間関係が一目にして瞭然となる素敵な一枚だと思います。
藤ちょこさんの絵柄はすっきりとした透明の空気感の中に安心と可憐さと落ち着きを同時に宿した色付きを置いていくのが魅力的なのですよ。
出来上がった、気の置けない付き合いの中に主人公が自然と溶け込む。
そして演出する掛け合いが楽しいということ、それはどんなメディアにも共通する不変の理なのかもしれません。
視点を変えて細かいところに目をやると、冒険の公的な窓口となる「冒険者組合(ギルド)」などが提供してくれる細かい(行政)サービスが話の進行の上で結構嬉しいです。
この辺は主人公がVIP待遇からスタートするということも考慮に入れる必要こそあるとはいえ、現実の煩雑さを省いたストレスフリーな対応が本当に嬉しいのです。
出来上がった、洗練された社会システムの享受によって、旅先での出会い・交流を阻害せずにスムーズに繋げてくれた。そう考えると、地味に本作の絶対外せないポイントのひとつと言えるかもしれません。
逆に持ち上げられまくると鼻につくんですが、主人公が愛でられる美少女かつ英雄の「弟子」というワンクッションを置いているのがここで利いてきます。
社会的地位のある大人がちゃんと大人をやってくれているけど、いい意味で対等に接してくれます。
主人公自体、向こうから社会的な庇護がやってくる子供の姿だけど、立場は国家の密命を帯びた公人って意識をしっかり持ってくれています。その辺のバランス感覚って大事だと思うんです。
と、ついでに巻末のおまけ短編について触れておきます。内容は主人公がこれから挑むことになるだろう女性特有の服飾文化についての紹介も兼ねています。
三巻である意味主役となる補佐官マリアナを視点に据え、ほんのり勘違いによるアホ成分を加えつつのほのぼの日常話をお送りします。この辺はこれからの前振りと思えなくもなくて、いいですね。
なんにせよ一巻が作品自体の基盤なら、ここ二巻は冒険の下地作りおよび実践に入った巻といったところでしょうか。
総じてビジュアル面を除けば作劇上の派手さはそうそう無いのですが、嫌でも湿っぽくなる話を軽快さを織り混ぜることでバランスよく見せてくれました。
ちなみにTS的に見ると、見どころと言うより面白い着眼を早くも示してくれたという感が強かったりします。
老翁から少女へ立場が移行するとはつまり性転換のみならず「AR(年齢退行)」との複合でもあるんですよね。
面倒見のいい老婆心というのは外見が若いと時に空回りすることもあるのですが、内面が貫禄として滲み出ることでカバーしてくれている。
結果、作中で何回も言及されたように「母性」が生まれる。
意外と類似事例はあるんですが、その辺を注目して他作品を追っていっても面白いかもしれません。それでいてマスコット的な愛嬌は地続きで持っているので、先に述べたように持ちつ持たれつの関係を演出する。
繰り返すようですが、大人の世界に子供の姿で飛び込んでいって対等以上に認められるって言うのは冒険譚における黄金パターンのひとつなのかもしれませんね。詳細をみるコメント0件をすべて表示