心を商品化する社会: 「心のケア」の危うさを問う (新書y 112)

  • 洋泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896918267

感想・レビュー・書評

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  • 心理主義のビジネス化への問題提起。医療現場だけでは儲からないので、学校や会社へとビジネス展開。その背景として予防と成長の両面展開により臨床心理の対象領域を「普通の人」にまで広げるという戦略があるらしい。当然国の政策も絡んでおり、前著に引き続き、河合隼雄批判が展開されている。それにしても「心のノート」というのは気持ち悪い。
    これまで事故や災害等でよく耳にする「心のケア」というワードをなんとなく受け入れていたが、心のビジネスとして知らず知らずのうちに日常生活にまで侵食されている事に気がつかされる。心のビジネスが拡大する要因としては個人主義化・自己責任化の進展が大きな要因なのだろうが、著者はコミュニタリアン的思想の持ち主のようなので、この進展には反対の立場をとっているように思える。
    心に問題のある人≒普通ではない人という考えが「心のケア」として忍び寄ってきて、矯正だったり排除の論理を生む。それが善とされ、悪意もなかったりするからタチが悪い。こういう問題点がある事に留意しておく必要はあるだろう。

  •  『心を商品化する社会』(洋泉社新書 2004.06.21)  小沢牧子 中島浩籌:共著
     2015.03.05 読了

    【テーマ】
    90年台から流行ってきた「心の専門家」や「心理主義」の問題点をハッキリ指摘する。また、その背景には、個人主義(法学的な意味ではなく、自己責任論にみられる大衆化した意味での個人主義)を益々重視している社会からの風潮が存在するという。これ(単純化すると、カウンセラー不要論)は著者の小沢牧子氏が以前から主張していることで、本書は『心の専門家はいらない』(洋泉社新書 2002年刊)の続編になっている(かといって本書から[のみ]読んでも不都合はないが)。
     執筆分担は、前半の1~3章は小沢氏。後半の4~6章が中島氏。

    【感想】
     細かい点で共感できないこともあるが全体的に興味深い。特に、社会的なこころブームを説明している第二章。「カウンセリング」の流行や、心理カウンセラーの学校配置の経緯にも触れられている。
     本書の主張に関しては、私自身が専門知識も検証の余裕もないので内容の判断は保留する。マトモに見える主張もどの程度まで敷衍できるかが分かるほどの議論もこの分量では載せられない。まあ、それこそ別の本を調べればいいことか。本書は刊行当時に多少話題にはなった様なので議論は生じたはず。とりあえずは賛否両面の意見を拾ってみたい。


    ・著者紹介(2004年当時の情報)
    小沢牧子……1937年北海道生まれ。臨床心理学論、子ども・家族論専攻。いくつかの教育相談の職場を経たのち、和光大学などの非常勤講師、国民教育文化総合研究所の運営・研究委員をつとめた。

    中島浩籌……1946年島根県生まれ。慶応大学、パリ大学ヴァンセンヌ校などで現代思想を学ぶ。都立高校教員を経て、現在、河合塾COSMO、法政大学で講師をつとめる。YMCAオープンスペースliby、日本社会臨床学会運営委員。


    【簡易目次】
    第1章 心理主義とは何か
     1.1 心理主義をどうとらえるか 016
     1.2 心理主義浸透の社会背景 021
     1.3 個性の序列化と心理学 034
    第2章 現代生活に浸透する心理主義
     2.1 作り出された「心」ブーム 040
     2.2 「心のケア」の増殖 044
     2.3 女性問題と心理主義 054
     2.4 社会の心理主義化がもたらす諸問題 068
    第3章 『心のノート』と心理学
     3.1 『心のノート』の背景 082
     3.2 「心の教育」から『心のノート』 090
     3.3 「国の子」への誘導 106
    第4章 予防的心理学的まなざしの浸透
     4.1 広がる予防的心理学的まなざし 122
     4.2 治療から予防へ――予防的まなざしの心理学 140
     4.3 コントロール社会と予防的まなざし 150
    第5章 成長促進のまなざしと自己実現
     5.1 心理学と自己実現の広がり 166
     5.2 自己実現を求める社会 172
     5.3 自己実現の問題性 183
    第6章 解決ではなく問題を重視する関係
     6.1 問題解決を急ぐ社会 194
     6.2 解決よりも問題を 204


    【目次】
    まえがき 003

    第1章 心理主義とは何か 015
      1.1 心理主義をどうとらえるか 016
    「心」の氾濫 切り刻まれる全体性 社会的不平等の隠蔽
      1.2 心理主義浸透の社会背景 021
    個別化の進行――人間関係力への渇望 減少する「ライブ」体験 時間要因の軽視――消費社会の「モラル」 短期療法の普及 「個性」の強調――あらたな選別のしくみ
      1.3 個性の序列化と心理学 034
    個人差研究と優生思想 「個性の値踏み」への奉仕 学問と政治の結びつき

    第2章 現代生活に浸透する心理主義 039
      2.1 作り出された「心」ブーム 040
    「精神世界」という商品 「精神」から「ココロ」へ
      2.2 「心のケア」の増殖 044
    必要な援助とは何か 戦争も「心のケア」さえあれば? 労働現場とカウンセリング 現場の悩みの解決は現場で 「犯罪被害」にどう向き合うか
      2.3 女性問題と心理主義 054
    関係技法の「修行」 女性問題と自己主張訓練 自己表現手法によって失われるもの フェミニストカウンセリングの変遷 「悩むこと」に専門家は必要か 関係性の困難に向き合う
      2.4 社会の心理主義化がもたらす諸問題 068
    生活場面の心理主義化 思索から感情の問題へ 資格問題論議の経緯 誰のための資格か

    第3章 『心のノート』と心理学 081
      3.1 『心のノート』の背景 082
    歌は世につれ 振り分けの進学校 エリートの養成と徳育の浮上 徳育と心理学の結合
      3.2 「心の教育」から『心のノート』 090
    学校への心理学の参入 大学の自治への介入 「心の教育」の登場とその変遷 「自由の衣」の下にある鎧 内省的視座への導き 『心のノート』に見る心理主義的手法
      3.3 「国の子」への誘導 106
    「畏敬の念」のイメージ作り 「宗教的情操」と国家神道 ふるさとと国家のあいだ 国家道徳と心理主義の共通性

    第4章 予防的心理学的まなざしの浸透 121
      4.1 広がる予防的心理学的まなざし 122
    予防的なまなざし、早期発見のまなざし 心のサインを見逃すな 予防的・成長促進的カウンセリングと学校 労働者のメンタルヘルスと予防的まなざし 杉本治君の事件 「サインを見逃すな」の問題性
      4.2 治療から予防へ――予防的まなざしの心理学 140
    大さんの精神医学革命と予防的まなざし 予防的心理学の日本への導入 予防とは、危機とはどういうことなのか 危機介入の問題点
      4.3 コントロール社会と予防的まなざし 150
    閉じ込め・監禁から地域管理・コントロールへ 規律社会コントロール社会へ 人を変容させる技術と休みなき監視 まなざしは抽象的要素を問題とする クライエントとの共在から間接的関係へ 現実的具体的問題からの逃避 監視と隔離のネットワーク

    第5章 成長促進のまなざしと自己実現 165
      5.1 心理学と自己実現の広がり 166
    自己実現という言葉の浸透 マズローの自己実現概念とその産業界への浸透
      5.2 自己実現を求める社会 172
    教育界と自己実現 自己実現としてのキャリア形成 自己実現を支える生涯学習システム 能力開発とカウンセリング
      5.3 自己実現の問題性 183
    固定的アイデンティティから流動的なアイデンティティ 働く意味に悩む人たち 自分の可能性とは?――自己実現概念の危うさ 自己実現社会と怠惰

    第6章 解決ではなく問題を重視する関係 193
      6.1 問題解決を急ぐ社会 194
    解決を急ぐまなざし 解のある問題と簡単には解がでない問題 人を苦しめる、解決を急ぐまなざし 問題のすり替え
      6.2 解決よりも問題を 204
    主体をおいつめる問い 問題はかかわりをとおして立ち上がる 問う力

    あとがき    213
    引用・参考文献 217



    【前著『心の専門家はいらない』の構成】(おまけ)
    序 章 臨床心理学をなぜ問うか
    第1章 現代社会とカウンセリング願望
    第2章 「心の専門家」の仕事とその問題群
    第3章 スクールカウンセリングのゆくえ
    第4章 「心のケア」を問う
    終 章 日常の復権に向けて

  • 心のケアが正しいものかという疑問や、現状に対する疑問が投げかけられていて考えさせられる。 社会において心理学がどのように関わるべきか、その形を見つけ出して行きたいと思わされた。

  • (「BOOK」データベースより)
    「心の商品化」は作為的に作られている!現代人は心に関する悩みが本当に多いのだろうか?専門家が幅をきかせる風潮、「癒し」「心のケア」という言葉が流行する背景には何があるのか?何事にも自己解決が迫られ、それゆえに専門家依存の風潮が進むなかで、「心」さえモノとして商品化されている。こうした、安易な心理主義の流行は、生きていくうえでのさまざまな困難をもたらす社会的な要因を覆い隠し、問題を個人の責任に還元する構図に支えられている。心理主義が社会に浸透することの問題性を白日の下にさらす試み。

  • とりあえず、批判すればいいってものじゃないぞ。
    論理が飛んでいる点が多い。
    この本の論理で、この本の論理を批判できてしまう。

    100206

  • わかるなぁ。

  • 【出版社による内容紹介】
    「心の商品化」は作為的に作られている!現代人は心に関する悩みが本当に多いのだろうか?専門家が幅をきかせる風潮、「癒し」「心のケア」という言葉が流行する背景には何があるのか?何事にも自己解決が迫られ、それゆえに専門家依存の風潮が進むなかで、「心」さえモノとして商品化されている。こうした、安易な心理主義の流行は、生きていくうえでのさまざまな困難をもたらす社会的な要因を覆い隠し、問題を個人の責任に還元する構図に支えられている。心理主義が社会に浸透することの問題性を白日の下にさらす試み!

  • 臨床心理学への批判。
    「心のノート」のところがかなり面白い。
    あんなヤバい本が全国の小中学生になんて思うとゾッとするが。


    著者の1人である小沢牧子さんは
    オザケンこと小沢健二さんのお母様だそう(ゼミの指導教官情報)。
    小沢ファミリーテラスゴス。

  • 今病院、学校、職場、とありとあらゆるところで、「心のケア」が叫ばれている。JRの事故でも、災害被災地でも、被害状況とともにニュースや新聞などを見ているとこの言葉をよく見聞きする。それだけでなく、ワイドショーやニュース、バラエティー番組関係なく、「癒し」「カウンセリング」「トラウマ」「性格分析」「相性分析」などなど「心理的」なものに関わるものが取り上げられることが実に多い。番組のゲストとして心理学者や精神科医が登場するのも珍しくはない。やや誇張すると、現代社会は「心理的」なものと切り離して考えることができなくなっていると言っていいかもしれない。そう、「心理万能主義」ともいうべきものである。しかし、それは果たしていいことなのだろうか。心理学者やカウンセラー、精神科医は万能なのだろうか。この書籍は、「心理ブーム」というべき今の社会状況に対し、そこに潜む危険性を批判的にあぶりだしている。

    今作で示されている問題はあまりにも多く、多岐にわたっているが、一番の問題は、カウンセラーなどを配置したことに満足して、そもそもカウンセラーが必要になってしまった大元の出来事・問題への対処がおざなりになってしまう傾向にある、ということである。この作品にも書いてあるが、サラリーマンの自殺・過労死などが増えている状況を鑑みて、カウンセラーを配置する企業が増えてきている。一見、「社員に対する配慮」と、いいことのように思われるが、そんなに単純ではない。実は、リストラや成果主義制度に基づく自殺や病気などの責任を糾弾されたくないがための、「カモフラージュ」の意味あいが強いのである。過酷で劣悪な就労環境に対する改善なしに、カウンセラーを配置したところで大して意味がないだろう。カウンセラーに話をしたぐらいで事態が飛躍的に改善するぐらいの悩みなどであれば、そもそも誰も自殺したり、心の病を患ったりしない。これは、過労死などで遺族から訴えられた際に、「当社はカウンセラーを適切に配置するなど、労働者に対する配慮に落ち度はありません。お亡くなりになったのは御自身の問題です」と企業側の責任回避を正当化するための方便となる危険性がある。実際、企業相手にカウンセラーの派遣を行っている企業の担当者に聞くと、企業の本音がここにあることが本著で明らかにされている。片手で相手を殴りつつ、もう一方の手で絆創膏を貼る」ようなものである。企業の横暴は止まらない・・・。
    それだけでなく、人間に関わるあらゆる問題が、同様の論理ですべて片付けられる風潮にある。それどころか、政府や企業などの強者により非常に都合よく利用されている動きを今見せているすら言えるだろ。「がんばる」ことの強要、安易にカウンセラーに依存することによる現実問題からの逃避・・・、あらゆる問題の原因を「個人」に押し付ける・・・。安易な心理ブームに潜む問題はかなり深刻なのだ。

  • 何で危ないのかな。

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