刑法三九条は削除せよ!是か非か (新書y 120)

制作 : 呉 智英  佐藤 幹夫 
  • 洋泉社
3.20
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896918557

作品紹介・あらすじ

「心神喪失・心身耗弱」、そして凶悪殺人犯が野に放たれる?精神鑑定はうそ臭い!刑法はもはや時代遅れだ!こんな三九条があるから被害者は救われないのだ!よろしい、まちがいなく議論はタブーなしで、徹底的にやるべきだ。さてしかし、責任能力とはなにか、なぜ精神鑑定が「うそ臭い」のか。ほんとうに「精神病者=犯罪者=責任能力なし」なのか。いや、そもそも刑法とはなにか。なぜ三九条の条文があるのか。本書は、この厄介きわまりない主題に迫り、冷静に、多角的に、腰を据え、そして時代に先駆けてなされる問題提起の一書である。

感想・レビュー・書評

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  • 司法(刑法)と医療の問題ということになるか?
    法律、さらには憲法という立場から考えることは、まず人権の問題である。国民は人権を有するはずである。犯罪者、被害者、どちらにも、である。本書においては被害者の視点で書かれていると感じることが多かった。(ここで、逆に精神障害の被害者なら問題は大きくならず)精神発達障害者と見るならば、社会は寛容に受け入れる。犯罪者が精神病の時にはまず、医療でふるい(鑑定)、精神病犯罪者では、刑務所が必要と考えた。これは、再犯の可能性が高いと考えるためである。被害者尊重というのは、マスコミのえさとなる話題のためである。

    精神発達障害と見られる、人間を超えている、狂と聖に区切りがない。分ける基準がない(多すぎる?)。そのため、このクラスを別に考えるようにすれば(それが三九条か?)精神医療の視点からは、患者を作り、不安を作る、学問体系である。正常という人間はありえないのではないか?診断法も多数あれば、鑑定も結果も違ってくる。白黒を明確に分けることできず、白ではない、黒ではない(演繹法)であろう。
    三九条は、なくても困らないでは?と思える。

  • 以前から、不思議に思っていた刑法三九条。被告人の罪があきらかに罰せられるような裁判だと必ず弁護側が言い出すのが、この刑法三九条。
    凶悪な殺人や大量殺戮を目的としたテロなど、常軌を逸した犯罪の場合、なぜ減刑になるのかが不思議でした。
    だって、頭かおかしいから凶悪犯罪犯したのでしょ?
    残虐性の高い殺人犯の場合、社会復帰されても困るし、罪の重さからしたら死刑か無期懲役にしてほしいと思っていました。
    今でもその気持ちはかわりませんが、この本では8人の著者が、刑法三九条の持つあらゆる不備や矛盾点をさまざまな角度から指摘します。
    また、刑法三九条を廃止する意見と、廃止することに反対する意見など8人とも様々な意見を述べるので、多面的にこの法律を見つめることができます。
    刑法三九条が是か否か?
    否なら、心身耗弱者・精神障害者を裁判でどう裁くべきか?
    非常に考えさせられる、濃い一冊です。

  • 刑法三十九条というと、私の場合、約50年前のSFドラマである怪奇大作戦の第24話「狂鬼人間」の回が強く印象に残っている。ドラマでは、心神喪失状態になる装置を用いて殺人を犯し、2ヶ月後には無罪で釈放されるという描写があった。現代では、本によると、精神障害者であってもそう簡単には無罪になるわけではないようである。もし、自分や家族が心神喪失になってしまった場合と、反対に心身喪失した人間が無罪でのに放たれた場合とで、意見は正反対になるので、本にある賛成派の意見、反対派の意見ともになるほどと思いながら読んだ。

  •  刑法三九条……「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する」という規定をめぐって、いろんな人が発言するというスタイルになっているのがこの本。

     まずは呉智英が、最初の「基調講演」の役割を担う。「仇討ち復活論者」の立場から、近代的な責任論そのものの限界を指摘する。
     その後、『刑法39条はもういらない』の佐藤直樹、『もてない男』小谷野敦とわりと単純に「39条なんてイラネ」派がつづくが、そっから先が読み応えがある。

     とくに最後、滝川一廣はこの問題を論じるときに陥りがちな「煽り」を排し、「私たちの平穏無事な暮らしを守る」という非常にプラグマティックな観点からこの問題を解説してくれていて、ここだけでも1冊分の価値があると感じた。
     まず、私たちの人生で、自分自身や肉親が精神障害にかかる確率と、精神障害による犯罪行為の被害者になる確率を比較したら、前者のほうが圧倒的に高いのだと紹介する。社会全体のシステムを考えるとき、重視すべきなのは、例外中の例外という事態か、それとも「日常」のほうか? 
     精神障害者であれば、たとえ犯罪を犯しても「無罪放免」という神話にも検証が施される。被告が統合失調症であることが明らかだった20例について調べた報告では、うち15例が有罪とされ、12例が実刑をうけている。無罪になった例は、統合失調症の母親が妄想にかられて我が子を乳房に押しつけて窒息死させた例など、「犯罪」というにはあまりに痛ましい事件だった。
     では、12例については、無事に刑務所に放り込んでめでたしめでたしなのか? いや、統合失調症であることがあきらかなのに、治療もせずに刑務所に入れて、刑期が満ちたらますます病状を悪化させて社会へ出てくるというのは、けっして社会の安心のためにならんのではないか。むしろすみやかに治療を受けさせるほうが、社会全体としては望ましいのではないか?
     そもそも精神障害者は再犯を繰り返すか? 殺人と放火について、一般犯罪者と精神障害者の再犯率を比較した表が載せられているが、驚くことに後者の再犯率は前者の1/4である。さらに、精神障害者とはいえ再犯の場合は69.2%が起訴され、一般犯罪として刑事処分になっていることが示される。
     いわば「触法精神障害者が危険なまま野放しにされている」という危機意識がいかに根拠が薄いものであるかということが、滝川の主張の骨子である。この点、日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』とまっこうから対立する主張になっている。

     結局、39条を削除すれば万事解決ともいうわけにはいかない。39条があろうとなかろうと、精神障害者の犯罪については、「閉じこめる」「放り出す」というだけではないアプローチが必要だと感じた。
     滝川の出した確率というか、数字が、ほんとうに妥当なものかどうかは留保したいし、「例外」であっても「繰り返す」人がいればそれはただの「例外」としておくのは危険すぎるかも知れない。
     そういう「いろいろ」はあるにせよ、感情論ではなく、ファクトをもとにした議論が必要なことは言うまでもないし、そういう方向に議論をすすめるためのたたき台として、貴重だと思う。

  • タイトル通りのテーマを
    賛否両論を複数の論客が論じています。
    その意味ではバランスが取れていて◎。

    基本的に削除否定派にはやっぱり納得できませんが、
    終章の佐藤幹夫の意見は示唆に富んでおり、
    削除派である人こそ読んでおくべきだと思います。

    刑法の成り立ちなどにも言及しており、面白い。
    てかやっぱ呉さん、凄いね。

    「人権を疑え!」と合わせてどうぞ。

  • [ 内容 ]
    「心神喪失・心身耗弱」、そして凶悪殺人犯が野に放たれる?
    精神鑑定はうそ臭い!
    刑法はもはや時代遅れだ!
    こんな三九条があるから被害者は救われないのだ!
    よろしい、まちがいなく議論はタブーなしで、徹底的にやるべきだ。
    さてしかし、責任能力とはなにか、なぜ精神鑑定が「うそ臭い」のか。
    ほんとうに「精神病者=犯罪者=責任能力なし」なのか。
    いや、そもそも刑法とはなにか。なぜ三九条の条文があるのか。
    本書は、この厄介きわまりない主題に迫り、冷静に、多角的に、腰を据え、そして時代に先駆けてなされる問題提起の一書である。

    [ 目次 ]
    第1章 「刑法」は限界なのか(責任という難問 三九条はきれいさっぱり削除されるべきだ ほか)
    第2章 「刑法」とは何か(「刑法三九条」を削除する理由はどこにもない)
    第3章 司法と医療の現場から(刑法三九条論議の一歩手前で 求められているのはむしろ新しい「責任能力論」である―処遇論と訴訟能力論の重要性を中心に ほか)
    第4章 三九条、そのさまざまな問題(刑法三九条何が問題なのか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 前提知識が無く、イメージだけでとらえてしてしまうこんな話題について、いろんな立場の人たちの、それぞれの意見が聞けるのは嬉しい。
    でも、結局どれがいいのか判断はできなかった。
    死刑問題についても、こんな本が読みたい。

  • あの短い条文をどう考えるか、被害者、遺族、精神障害者、それ以外の一般人にとってよい制度とは何かを考える際に一助となる書。特に精神医療の現場の声は貴重。

  • 共著。みなそれぞれに説得力ある論述をしている。とくに精神医療の現場の声や知的障害者への現行刑事手続きの不備についての主張はものすごく説得力をもつ。ただ、中盤に刑法理論の観点から削除反対説に立つとある教授の主張があるが全く説得力がない。通説的刑法理論が現実の社会状況から乖離しつつあるからこの問題が提起されているのに、この人は一体何を言っているのか。

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