- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784896949629
感想・レビュー・書評
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前著『悩ましい翻訳語 科学用語の由来と誤訳』を読んでからずいぶん経ってしまったが、このたび、手に取る機会があったので読んでみた。
『悩ましい翻訳語』同様、テーマに挙げた英単語・熟語からその適用、誤用・誤訳、由来と話の広がる翻訳エッセイ。cornは果たして「とうもろこし」と訳すだけでいいのか、raven=「大鴉」とはいかなるものか、などを、ご専門の生物学をまじえて語る。日本語と英語をはじめとする外国語ではもともともののとらえ方が異なるため(英語は魚の分類がおおざっぱ、肉類の分類が細かい、など)、きれいな1対1対応で処理できることは少なく、その上に科学的根拠を積み上げて訳語を選択するとなれば(厳然たる定訳がある場合を除く)、翻訳作業の難度はさらに上がる。読者としては、翻訳者がどういう作業(いわゆる「裏取り」)をしているかを知ることができる一方、翻訳に携わる側からみれば、作業上の怖さのもとが縷々書き連ねられていて、なかなかメンタルにくる。
著者・垂水氏はドーキンスなどの訳書をご担当されているため、生物学を含めた科学方面の記述が細かいが、detectiveやnight watchなど、エンタメ方面に見られる語にも言及があるのでとっつきやすい。翻訳に興味のある方、学習者は読むとかえって迷われるかもしれないが、考えなければならない部分を示してくれる、面白くて怖いエッセイ集ではないかと思う。辞書の向こうにあるものをどれだけ調査し、確信をもって決定できるか、また、訳出にあたっての地雷は基本文法だけではなく、名詞レベルからすでに埋まっていることをまざまざと見せつけられる。
本編だけ読むのもいいと思うが、索引がしっかりしているので、レファレンスとして手元に置いておくこともできる(ただ、分類学的なことは日々アップデートされていると思うので、あくまでも出版時の情報として)。個人的には「弁解がましいあとがき」の、誠実な書きようが非常に好み。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
英語の語彙に入ってきたラテン語やその他の言語についての広範な知識が満載の好著だ.日本語と英語が一対一で対応していないことを豊富な事例で解説している.