かくしてバンドは鳴りやまず

著者 :
  • リトル・モア
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898150658

作品紹介・あらすじ

「事実」は知るほどに野蛮さと理不尽さに満ちている。しかし敢えてそこに立ち向かう、"ノンフィクションライター"とは何者か。20世紀を生きたノンフィクション作家の目に入り込み、彼ら自身を照射する最も危険な超ノンフィクション!『プロレス少女伝説』『小蓮の恋人』『十四歳』等で知られる井田真木子の、最後のメッセージ。

感想・レビュー・書評

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  • 対象の目に入り脳内をスキャンし対話する、独特なノンフィクション。すべてがハードボイルドでかっこいい。

    参照:https://www.webchikuma.jp/articles/-/3056

  • 902

  • ビートたけしさんは、殺人犯役などの“キレた”演技が絶賛され誰からも天才と言われたとき「バカヤロウ、どこにでもいる普通のオヤジの役が一番難しいんだよ。それと比べたら大したことねえよ」というようなことを皮肉をこめて言っていた。

    私はノンフィクションとは、独特で特異な人だろうと平凡な人だろうと、人間誰もが奥底にもつ普遍性を抽出し、それがその人の特異さ、あるいは平凡さに転換される過程を、読者にわかりやすく見えるようにする作業だと思っている。
    ということはつまり、優秀なライターとは、特異なタイプだろうと、どこにでもいる普通のオヤジだろうと、そこから人間の普遍性と、その人の個性として光る独自性とをうまく抽出する能力に長けているはずだ。

    だからこの本を読み進めると「ああ、また、この手の『よくあるやつ』か」との思いが生じた。
    ゲイでHIV感染者、過去の栄光からの失墜、etc. つまり、「私は世間一般から距離を置かれ、見放されつつある、そういう人にシンパシーを感じたのよ」というような、自分のアンテナの高感度性を誇示し、自分の人生はまさにそういう特異な人生を当てはめるべきものだと言わんばかり。私は当初、そこからスノッブさしか感じ取れなかった。
    そういうほぼ批判的な読み方の一方で、最後のページを見てはっとした。プロフィールに「2001年3月14日逝去」とあり40代半ばで亡くなられている。ページを戻ると、著者没後の神取忍さんのインタビューには、私の第一印象とは全然違う、神取さんも一目置く人間として語られているではないか。勘違いしていたのは私の方だったのか…

    死をキーワードに作品を読み解く方法は井田さんの意に沿うかどうかはわからないが、死という視点から逆照射してみると、改めて感じさせるところが随所に見つかる。
    例えば、HIVに感染し、エイズを発症して死を待つ作家ランディ・シルツ。例えば、ニクソン事件に取材し高い評価を得た「大統領の陰謀」を世に出したものの、その後、世間的には零落し敗者とまで言われるカール・バーンスタイン。

    特に『「さもなくば喪服を」と「きけわだつみのこえ」』は、著者が死を間近に感じていたという仮定で読むと、全く違った感想が生じる。学徒動員生は、すぐには死が訪れないものの、じりじりと死の影が迫ってくる。井田さんはそれらの学生が肉親や恋人などの愛する者へ残した哀切の言葉などよりも、飢えで日記すら書けなくなった画学生が死の直前に描いた、痩せた裸の自分と不釣り合いに並ぶキャラメル箱の素描とか、別の学生が死の直前に日記に記した、投与された薬品の名称が「ラップの歌詞のように」短く並べられているのに注目する。

    井田さんはおそらく(と言うか、私の勝手な想像だが)死を目前に感じていて、そういう状況に置かれた自分が書けるもの、いや、自分でないと書けないものとは何かを強く意識していたと思う。井田さんのシンパシーは「世間一般から距離を置かれ、見放されつつある」ところにあるのではなく、そういう状況にあっても自分を保ち、他人の評価なんて関係なく、したたかに自分の心情を表現するところに美学を見出していたのだと改めて思いなおした。

    「かくしてバンドは鳴りやまず」というのは、シルツの著書「そしてエイズは蔓延した」の原題“And The Band Played On”から取られている。タイタニック号が沈もうとしている中、普段の仕事どおりに曲を演奏し続けた楽団のことだ。
    じたばたせず、センチメンタルになり過剰に感情の付け足しをしなくても、普段から意識していた自分のとってかっこいい生き方そのままにふるまえば、それが「ハードボイルド」となって、同じ境遇に置かれた人の魂を揺さぶるのだということだろう。

    井田さんならば、普通のオヤジからでもハードボイルドさを抽出できただろう。志半ばで一方的に人生を断ち切られたため、その全体像を見るのが叶わなかったのは残念。(2013/9/14)

  • 『ルポ十四歳 消える少女たち』『もうひとつの青春 同性愛者たち』などの力作を持ちながら四十代にして惜しくも急逝した著者の絶筆となった連載。ここ百年ほどのノンフィクションを描いた作家たちを彼女の視点から描き出すという意欲的な試み。ノンフィクションライターとして常に自分自身を作品の中に織り込んでいた彼女らしいが、実際に会うことができない亡くなった作家を描くということで、対象に彼女自身が溶け込んでいるという印象があって★1つ減にしますが、冒頭の企画書を読んだだけでこれが完成しなかったことを残念に思います。「アメリカの寂しさ」というハスラーの作り手たち、それに『嬉遊笑覧』の翻訳を見ただけでこの二章だけは読んでみたかったな。

  • ¥105

  • 2001年3月に亡くなったジャーナリスト井田真木子氏の遺稿。トルーマン・カポーティーやランディ・シルツなど、世界の十大ノンフィクション作家を取り上げる予定だった連載の3回目までを収録しています。タイトルはトルーマン・カポーティーの『そしてエイズは蔓延した』の原題から。<BR><BR>
    連載で取り上げる予定だった作家たちについて、彼女がなぜ興味を持ったかという理由が一人ひとり本書の冒頭に述べられていますが、これがかなり面白い。コンセプトは「謎を秘めた人物」だそうです(その表現はちょっと陳腐な気もするけど)。
    実は以前、「時速ペラ25枚」(ペラは200字詰め原稿用紙のこと)で書くライターの話をどこかで読んだ覚えがあるのですが、それがこの井田真木子さんだったということを、本書で初めて知りました。
    う〜む、超人だ……。しかしそれゆえの早死にか……。<BR><BR>
    本書の最後に収録されている井田さん本人へのインタビューでは、自分のことを「本を作るためなら喜んで身を売る、腕の一本でも二本でもどうぞというような人間」と自虐的に述べていて、思わず背筋がゾクゾクします。文体もいかにも豪速ライターらしくスピーディーでキレが良く迫力満点。(02.5.2記)

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著者プロフィール

1956 年7 月19 日神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒。フリーライターを経て2冊目の著書となる『プロレス少女伝説』で91 年大宅壮一ノンフィクション賞、92 年『小蓮の恋人』で講談社ノンフィクション賞を受賞。その他主な著書に『同性愛者たち』『フォーカスな人たち』『十四歳』『かくしてバンドは鳴りやまず』など。2001 年3月14 日肺水腫により死去。享年44 歳。

「2015年 『井田真木子 著作撰集 第2集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

井田真木子の作品

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