南洋と私

著者 :
  • リトル・モア
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本棚登録 : 111
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898154168

感想・レビュー・書評

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  • 戦後70年の今年の夏にそれに関連する本を
    読んでみようと思い、書店で目に留まった本。
    また、帯に、角田光代氏・森達也氏・重松清氏の推薦の
    言葉があり。3人とも好きな作家なので、さらに読んで
    見ようと思いました。
    戦前に日本が統治していた南洋のサイパンやその周辺諸島
    における当時のいろいろな話、戦時のサイパン戦の話、
    南洋諸島は親日であるという一般的に言われていること
    の本当の姿などを、当時住んでいた人や日本統治時代の
    現地の老人たちにインタビューして組み立てられている
    内容です。

    当時の日本を美化する風潮が、最近少なからずあるような
    気がしますが、やはり戦争などは言うにおよばず、
    他の土地や民族を支配すること、の難しさや、愚劣さ、
    人間の醜さ(またその逆で人間の美しさ)がリアルに
    重く理解できる内容だと思います。

    少し表現としてわかりにくい部分もありあすが、おすすめ
    の内容だと思いました。

  • 取材相手の言葉がマンマ過ぎて分かりにくい。註釈多すぎ、長すぎで本文に集中できない。てな欠点から、視点なり、取材対象を選択するセンスなりは悪くないが、読んで満喫できない。難しくは書いてないのに伝わらない。残念だ。でも、行動力は大したもんだと思う。知りたいと思えば、四の五の言わず行動に移す。取材に向かう。彼女の世代は、親がすでに戦後派なのかな。俺らは親から大東亜戦争体験談をさんざん聞いて育ち、幸い今でも聞けるから、ミクロネシアのことも今さらって思う。それでも、現地に赴いて取材するバイタリティーには降参だ。

  • 感想未記入。以下引用。
    ●ブランコさんの悲しく熱を帯びた話を聞きながら、私は「大東亜戦争」を肯定する人々が主に主張する「南洋は親日的」という言葉と、それに対する「本当は南洋は新日的なんだろうか」という問いを改めて思い出していた。日本時代を惜しむ人は多い、日本人を好きな人も確かに多い。ブランコさんだってそうなのだ。だからこそ彼の日本批判は重要な意味を持つ。目の前にいる稀有な経験を歩んだチャモロ人の老人が、私の疑問に対する一つの答えをはっきりと示してくれた。そう思った。もちろんそれが唯一の答えではない。そもそも唯一の答えなんてないのだ。その当たり前のことを確かめたかった。

  • 寺尾紗穂さんは、土方さんの歌から始まり、いつしか私たちがふだん見過ごしがちな、見誤ることのある、現実のなかで生きる人々に関心を向けていったように思う。ビッグイシューとの企画や、前著の原発労働者に関する著書と同様に、本書にもそうした人々の生きる姿を実直に伝えている。

    彼女の、本当のことを知りたい、伝えたい、という気持ちはまっすぐだ。
    本書でも、長い注釈の中に誤解を生まないような配慮や、一個人の力の限界のようなものも感じ取れる。

    本書は読むのが相当骨の折れるものだった。内容として、とても重いものを、なるべくその重さで伝えているため、正直受け止めきれないところもあった。
    音楽においても、言葉においても、表現し伝えるのが巧みな方が、思い悩みながら書かれた本だと感じる。

  • とても興味深い本だった。
    作者について知らなかったが、巻末の紹介を見てみるとミュージシャンであり、ライターでもあるという才能豊かな人のようだ。修士論文をもとにした川島芳子の評伝が出版されたときも話題になり、私の記憶に残っているし、近刊の「原発労働者」も話題になっていた。寺尾紗穂という名前が記憶になかっただけだった。どちらも読んでみたい。

    9月にサイパンに行き、帰国後この本を知り、タイミングよく読んだ。できれば行く前に読みたかった。もっと熱心に戦跡をめぐりたかった。ただ、アメリカンメモリアルパークのビジターセンターも北マリアナ博物館も、台風の復興の遅れのためか閉館中だった。この本を読んだ今、そのことがますます悔しい。
    たまたまスマホで撮った南洋寺の跡地の石碑、その横の小さな石碑の青柳貫考の名前が読める写真を見て、これこれ私も注目したんだよとうれしくなった。

    リゾートメインのお気楽旅行であったが、本当に無知だなあと情けなくなった。グアムやサイパンは日本の敗戦によりアメリカの自治領になったということさえ、知らなかった。考えたこともなかった。
    アメリカンメモリアルパークの慰霊碑に現地の人の犠牲者の名前が彫ってあるのはみたけれど、日本に占領されていたがための巻き添えであったことまで、強くは意識していなかった。
    なんとも情けない。

    筆者の取材過程を一緒に体験したかのように思える書き方がとてもよかった。本当はすごい、誰にでもできる取材ではないのに、なんとなく等身大の感じがしてよかった。

    「アナタハンの女王事件」というのも知らなかった。桐野夏生さんの小説にはモデルがあったのか。

    ”彼女の気の強さは尖閣諸島についての驚くような発言にもなって飛び出した。
    「今でも、戦争いやな思いしてきたけど、取っちゃえばいいのいって思いますよ。所有者がいたんでしょ。国に渡しちゃえばいいのに。火種を作って」
     三つ子の魂百までというが、終戦時に少年少女だった人々の中には、幼い頃受けた軍国主義教育の価値観が、わりに強く残ってしまっている人も多い。美和子さんは悲惨な体験も経ているし、戦争のアホらしさも充分に感じているが、同時に軍国主義的な心性というものが未だに彼女の中で共存している、その混ざり具合が不思議だった。軍国主義というのは、一種短絡的な、思考の際の癖のような形で個人の中に残るものなのかもしれない。威勢よく、大勢で、国のために、敵と立ち向かう。そんな流れに遠い昔、加勢した時の快感を、おそらく美和子さんの心は意識下で覚えているのだ。被害者として戦争の苦しさを訴える一方で、火種を作っちゃえばいいという為政者側の思考に同化したような、安易な思考に流れていく不思議を目の当たりにして思った。そして、同世代なら仲良くなれただろう、と感じた美和子さんがそうなのだから、自分も同じ時代に生きていたら、軍国少女になっていた可能性も十二分にあるのだ、とも思った。”   196ページ

    その美和子さんも1年後に再訪したときは、老いが進んでいて1年前のことも思い出せなくなっていた。
    戦争中のことを聞くのは、もはや時間の問題だ。

    サイパンを思い出しながら、ガラパンやギャラリアを思い出しながら、この本を読んだ。いろいろ知らなかったことを知り、考えさせられた。
    私にはタイムリーな本だった。筆者も書いていたが(お気楽リゾート旅行でさえ)、海外に出ると世界が広がる。自分の世界が広がる。

  • 通販生活 2015年秋冬号 著者インタビュー

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著者プロフィール

音楽家。文筆家。1981年11月7日東京生まれ。大学時代に結成したバンドThousands Birdies' Legs でボーカル、作詞作曲を務める傍ら、弾き語りの活動を始める。2007年4月、ピアノ弾き語りによるメジャーデビューアルバム『御身』(ミディ)が各方面で話題になり、坂本龍一や大貫妙子らから賛辞が寄せられる。大林宣彦監督作品『転校生 さよならあなた』(2007年)、安藤桃子監督作品『0.5ミリ』(2014年/安藤サクラ主演)の主題歌を担当した他、CM、エッセイの分野でもなど活躍中。新聞、ウェブ、雑誌などで連載を多数持つ。2009 年よりビッグイシューサポートライブ「りんりんふぇす」を主催。坂口恭平バンドや、あだち麗三郎、伊賀航と組んだ3ピースバンド「冬にわかれて」でも活動中。2021年、「冬にわかれて」および自身の音楽レーベルとして「こほろぎ舎」を立ち上げる。

著書に『評伝 川島芳子』(2008年3月/文春新書)、『愛し、日々』(2014年2月/天然文庫)、『原発労働者』(2015年6月/講談社現代文庫)、『南洋と私』(2015年7月/リトルモア)、『あのころのパラオをさがして 日本統治下の南洋を生きた人々』(2017年8月/集英社)、『彗星の孤独』(2018年10月/スタンド・ブックス)、編著に『音楽のまわり』(2018年7月/音楽のまわり編集部)がある。

2006年3月 1st ミニアルバム『愛し、日々』(MS Entertainment)発表
2007年4月 2nd アルバム『御身onmi』(ミディ)発表
2007年6月 1st シングル『さよならの歌』(ミディ)発表
2008年5月 3rd アルバム『風はびゅうびゅう』(ミディ)発表
2009年4月 4th アルバム『愛の秘密』(ミディ)発表
2010年6月 5th アルバム『残照』、2nd シングル『「放送禁止歌」』(ミディ)発表
2012年6月 6th アルバム『青い夜のさよなら』(ミディ)発表
2015年3月 7th アルバム『楕円の夢』(P ヴァイン・レコード)発表
2016年8月 アルバム『私の好きなわらべうた』(P ヴァイン・レコード)発表
2017年6月 8th アルバム『たよりないもののために』(P ヴァイン・レコード)発表
2020年3月 9th アルバム『北へ向かう』(P ヴァイン・レコード)発表
2020年11月 アルバム『わたしの好きなわらべうた2』(P ヴァイン・レコード)発表

「2021年 『天使日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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