五十鈴川の鴨

著者 :
  • 幻戯書房
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本棚登録 : 32
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784901998789

作品紹介・あらすじ

淡い交りだった-静寂な川の流れに、生きては会えぬ人のおもざし。あたうかぎりの寡黙と忍耐にひめた原爆の影。

感想・レビュー・書評

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  • 竹西寛子の文章は静寂だ。静寂は「動くもの」がないはずなのに、あるからこそ、無音であることに大きな意味がある。
    人の心のさざなみは無音のうちにうねり、一瞬のうちに過ぎ去る大きな反響なのである。
    生き続けることは自分自身を「不確かなもの」であることに自分で気づいていくことなのだ。私がまたこの本を読みかえすとき、私はまた自分の中の何かに気づいて生きていくにちがいない。

  • 読み終えた後も、しみじみと余韻に浸りたい、そんな名作揃いの短編集である。
    無駄のない、品格さえ感じる滑らかな文体。
    深い味わいが、まさしく「行間」からにじみ出ている。
    若い作家さんには決して真似出来ないかもしれない。

    表題作の「五十鈴川の鴨」は、伊勢神宮の五十鈴川に浮かぶ親子の鴨に、登場人物の深い人生の哀感が重なっている。
    そこに、言葉にならないほどの切なさと慟哭がある。
    この作品のみでなく、どれもが、生きることの悲しさや切実さを
    実に鮮やかに浮かび上がらせるのだ。
    心の中をえぐるような鋭い表現でなどなく、むしろ芸術に近い言葉選びだ。
    作家生活が長ければ、誰もがこういう風に書けるとは限らない。
    やはり著者の人生に向き合う姿勢が違うのだろう。
    来し方行く末までも考えさせる、多くのひとに読んでもらいたい名作集と思われる。

  • 著者の小説を読むのはこの本が初めてです。
    静謐で淡々とした物語集です。
    今回はこれといって特に気に入ったお話しはなかったのですが,
    人々の日々何気ない生き様を丁寧に掬い取る描写がとても印象に残りました。
    別の作品を読んでいくうちに,きっと忘れられない物語が発見できそうな予感がしました。

  • とてもきれいな言葉運びで、川の流れのようになめらかだった。
    文章を追っていくだけで心が落ち着いた。
    8つの短編で構成されていて、どれもが読み終わったあと、心がぽっと暖かく穏やかになるお話だった。

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著者プロフィール

昭和4年4月11日、広島県に生まれる。昭和27年早稲田大学第一文学部文学科(国文学専修)卒。小説家。評論家。日本芸術院会員。河出書房、筑摩書房勤務、昭和37年退社。38年「往還の記--日本の古典に想う」で田村俊子賞。56年「兵隊宿」で川端康成文学賞。平成6年日本芸術院賞。著書に『竹西寛子著作集』全5巻別冊1(平8 新潮社)『自選竹西寛子随想集』全3巻(平14〜15 岩波書店)『日本の文学論』(平7)『贈答のうた』(平14 いずれも講談社)など。

「2004年 『久保田淳座談集 心あひの風 いま、古典を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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