青線 売春の記憶を刻む旅

著者 :
  • スコラマガジン
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784902307634

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  • 青線とは、日本で売春防止法施行以前に非合法で売春が行われていた地域の俗称。
    それに対して、赤線とは戦前の一時期売春が認められていた地域である。

    戦後、新宿歌舞伎町や花園町(現在の三光町一部)の一角に、
    外地からの引き揚げ者が2階建ての木造小屋を建て、
    1階は飲み屋、2階は女がサービスする場所といった形態で商売を始める。

    都内にも6カ所くらい、青線地帯が出来た。

    本書は2001年から日本各地に点在する青線を歩き始め、北は北海道の札幌から
    南は沖縄の真栄原まで、有名な場所から無名な場所まで隈なく歩いた。

    売春は人類にとって最古の職業という言葉から切っても切れない関係がある。
    特に戦争という修羅場を潜り抜け、明日の食事もままならない時に
    手っ取りばやくお金も掛からない「売春」が女の収入源になることが本書でよくわかる。

    現在の近隣諸国との問題である「従軍慰安婦問題」も売春という行為の結果であるが
    著者はこういう意見を書いている。

    日本軍が大東亜戦争時、アジア各地において慰安所の作ることができたのは、
    公娼制度(娼婦のうち公に営業を許された娼婦を認める制度)という下地が
    あったからだ。

    慰安婦制度は軍部の許可なく慰安所を設置できなかったことからも、
    軍部が関わっていたことは明白であるが、強制的に連行したとする韓国政府や
    中国政府との見解に著者は意を唱えている。

    非常に難しい問題だが、もう少し書いておく。

    日本軍がアジア各地に慰安所を設置した理由は、
    軍人が無秩序に現地の売春施設に入り浸って、性病に感染し
    部隊の戦闘力を削がないためと、日本軍兵士が現地の女性たちに
    危害を加えないために設置したものであった。
    色々な意見がある部分ではある。

    本書で最後に興味ぶかく読めたところは、
    江戸時代の岡場所の出来た経緯である。
    岡場所とは、江戸時代に公許の吉原以外の各地に散在した私娼地のこと。
    江戸の人口が増えていくと、町はずれにある吉原だけでは、江戸の男たちの
    性欲を捌き切れない。

    そこで、社寺仏閣の周りを中心に幕府の目を盗んで、春を売る岡場所が
    いたる所に出来始めた。
    有名なところでは、深川八幡宮の周辺、上野、護国寺、根津神社、芝増上寺、
    亀戸などであるが、どれも有名な寺社のまわりである。
    寺社の参拝客を見込んでできた他、寺社を管理するのは寺社奉行の権限で
    私娼の取締に当たった町奉行の権限が及ばないため岡場所が
    出来たとする説がある。

    著者はまだ取材できてない場所は有り、旅半ばということで、
    これからの取材結果も踏まえた、続編も期待したいところだ。

  • 青線、いわゆる公的に認められていない売春街。そんな青線跡にノスタルジーを求めて全国を回った作者。
    大部分について共感するところではあるが、あまりにも売春する側に寄りすぎな感じが拭えない。でも、そこを丁寧に書かないと本書のうま味もでてこないのだろう。
    ただ、売春は遙かな昔から連綿と続く商売だし、これからも絶対続いていくのだろう。それがいいとか悪いは別にしても。

  • 1972年生まれ、カメラマンでノンフィクション作家の八木澤高明氏の「青線」、2015.10発行です。青線に生きた女と男の記憶を文字や写真で残しておきたいと思い2001年から青線を歩き始めたそうです。江戸、明治の遊郭は「赤線」に、青線は料理屋、バーを装った非合法な売春地帯のことだそうです。読んでて、著者の旅は日本文化の根っこに触れる旅であり、時代時代の産業に直結してる世界だと思いました。また人間の情念の摩訶不思議さも感じました。「ひとりだけの青線」とでもいえる東電OL事件、狂気か純愛か阿部定事件・・・。

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著者プロフィール

1972年神奈川県横浜市生まれ。ノンフィクションライター。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランスに。『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『黄金町マリア――横浜黄金町 路上の娼婦たち』(亜紀書房)『花電車芸人』『娼婦たちは見た』(KADOKAWA新書)『日本殺人巡礼』 『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)(亜紀書房)などがある。

「2022年 『裏横浜 グレーな世界とその痕跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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